第28話 蔵にいる理由

文字数 710文字

 ほう、とシュンはため息をついた。なんて面白く、ロマンのある話だろう。千年もの間、ずっと藤原家の安泰のために、子供たちを見守っていてくれてたんだな、と感動すら覚えた。
「ところで、どうして蔵の中に竈があるの?」
シュンは、きれいに手入れされた竈を見ながら言った。
「五百年程前かしら、戦が頻繁に起こった時代があって、用心のために蔵の中に竈を造っておいたの。火事なんか起きた時に、蔵の中なら火は廻ってこないし、鉄砲の弾や矢なんかも防げるでしょ」
「なるほどね」
 マドカは竈の上を指差した。そこには、立派な神棚があった。
「ほら、あそこに祀られているのが竈の神様。何回か蔵は造り直されたけれど、必ず竈も造られるの。いつの時代でも危険はあるでしょ。竈の必要がない時代になって、家から竈が消えたとき、私たちは蔵の竈に移ったわけ。藤原家では、きちんと祀りを絶やさないから、私たちはここにいられるの。ヨシエが毎日掃除をして、水を供えてくれるの」
 シュンは一つの疑問を尋ねてみることにした。
「マドカちゃんたちのことは、他人に話すことができないって言ったよね。昨日、ぼくがおじいちゃんたちに話すのをやめよう、て決めたのもその力のせい?」
「そうね、自然と無理なくそう考えさせる力が働いたと、考えていいわ」
「アケミおばさんにも、話せないの?」
「それは、たぶん大丈夫。二人っきりならね」
「そうか」
「アケミに言ってみるといいわ」
「うん、話してみるよ」
「アケミはきっと喜ぶよ」
 シュンは、もう一つの疑問も口にしてみた。
「あの、変なことを聞くけど、鼻先を持ち上げるように折り曲げた人差し指を当てる笑いかたって…」
「教えたのは、わ・た・し」
 三人で大笑いした。
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