第24話 シュンの後悔

文字数 894文字

「びっくりした?」
「ちょっとね。どうして、松山空港にいたの?」
「だって、サトミの子供が来るっていうから待ちきれなかったのよ。前に来た時は私たちが見えなかったようだから、今度は見えるかなって思って。迎えに行ってやったんだゾ」
「サトミって…。お母さんのこと?」
「そうだよ」
 突然、カドマがしゃべった。
「サトミはシュン君のお母さんだよ」
「え?そう言えば、カドマ君、その髪…」
「これはね、美豆良って言ってね、上古の男の髪型なんだよ。それでね、サトミはぼくと仲良しだったんだよ」
「へえ、お母さんが小さいときかい、君位に」
「そうじゃないのよ」
 今度はマドカが話し始めた。
「サトミは九才から十四才まで、私たちと遊んだわ。その時はカドマがお兄さんで、私が妹だったの」
「どういうこと?」
「つまり藤原の一族は、私たちが見えるようになると、自分の都合に合わせて私たちを見るの。だいたい男の子の場合私が姉、女の子の場合カドマが兄ってなるわね。ヨシエの時もそうだったし、シュン君もそうでしょ」
「ヨシエって?」
「あなたのおばあちゃんの名前よ。ヨシエも八才から十四才まで、私たちが見えていたわね」
「え、おじいちゃんは?」
「あなたのおじいちゃんは、婿養子なの。だから前に言ったでしょ、藤原はあなたのおばあちゃんの名字ですって。シュン君も、もう何年か前に来ていたら、もっと早く出会えていたかもね」
 そんな馬鹿な!シュンはショックを受けた。どうして、来なかったんだろう、あんなに夏休みも冬休みも、春休みだってゴールデンウイークだってあったのに。
「でも、どうしてお母さんは教えてくれなかったんだろう?」
「それはね、見えなくなると忘れてしまうからなの。もう私たちが何か手助けをしなくてもいいと言う証なの。でもね」
 そう言うとマドカは立ち上がって、竈のところへ行き、手を突っ込んだ。土でできた、ワイングラスのような形のものを取り出した。
「はい、シュン君。薬草と山の果物から作ったジュースよ。あなたは体が弱いから、これから帰るまでこのジュースを毎日あげるわ。きっと役に立つわよ。それでね、稀に大人になっても私たちが見える人もいるの」
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