94話 紅葉も花も

文字数 488文字

男が、どうしたことか、
その女のもとへ、行かないようになった。
 
女には、別の男が来るようになったが、
前の男は、その女との間に子どもがいたので、
愛情こまやかにと言うほどではないが、
時々、女に手紙を送っていた。
 
女は、絵を描くので、
男は、女に絵を頼んだが、
新しい男が来ているところなので、
一日二日、返事をしなかった。
 
絵を頼んだ男は、
「とてもつらく、私のお願いを、今まで聞いてくれないのも、
そういうものかと思う。
けど、やっぱり、あなたを、ちょっと恨みに思いますね」として、
女をからかう歌を贈った。
時は、秋のことだった。
 
 秋の夜には 前の春の日を 忘れてしまうのかな
 春の霞より 秋の霧は 千倍もいいってことかな
 
と詠んだ。
女の返しは、
 
 千の秋も 一つの春には かなわないかも
 でも 秋の紅葉も 春の桜も ともに いつかは散るものよ
 
   *
 
 秋の夜は 春日わするる ものなれや
 霞に 霧や 千重(ちへ)まさるらむ
 
 千々(ちぢ)の秋 ひとつの春に 向かはめや
 紅葉(もみぢ)も 花も ともにこそ散れ
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