111話 まだ見ぬ人

文字数 355文字

男が、身分の高い女のもとへ、
その女に仕えていた侍女が亡くなったのを
弔うふりをして、歌を贈った。
 
 遠い昔は あったかもしれませんが 
 私は 初めて知りました
 まだ見ぬ人を 恋することがあるのを
 
女の返し、
 
 慕われると 服の下紐が 自然にほどけるというのに
 ほどけていない
 あなたが言うのは 恋というほどのものではないのでしょう
 
また、男の返し、
 
 では 恋しいとは もう言いませんが
 下紐がほどけたら 私の思いに 気づいてください
 
   *
 
 いにしへは ありもやしけむ 今ぞ知る
 まだ見ぬ人を 恋ふるものとは
 
 下紐の しるしとするも とけなくに
 語るがごとは 恋ひずぞ あるべき
 
 恋しとは さらにも言はじ
 下紐の とけむを 人は それと知らなむ
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