86話 おのがさまざま

文字数 236文字

若い男が、若い女と仲良くしていた。
それぞれに親があったので、
遠慮して、話もしないでいると、会わなくなった。
 
年がすぎ、女のもとへ、
やはり心の内を告げようと思ったのか、
男は、歌を詠んで贈った。
 
 今まで すべてを忘れないでいる人なんて 誰もいないでしょう
 それぞれの暮らしで 年が経ってしまったから
 
そして、それきりだった。
男も女も、忙しい宮仕えの身だった。
 
   *
 
 いままでに 忘れぬ人は 世にもあらじ
 おのがさまざま 年の経ぬれば
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