99話 ひをりの日

文字数 319文字

都の右近衛府の馬場で、
弓の騎乗試射があった日。
 
向かいにとまっていた牛車に、
女の顔が、車内の幕から、かすかに見えたので、
中将であった男が、歌を詠んで贈った。
 
 見えたとも 見えないともいえぬ人を 恋しく思い
 わからないまま 今日は思いつづけて 過ごすのか
 
女の返し、
 
 知っているとも 知らないとも 
 どうして 考えたところで わけて言えるでしょう
 心の思いだけが それを知っているのです
 
そののち、女とは逢った。
 
   *
 
 見ずもあらず 見もせぬ 人の恋しくは
 あやなく 今日(けふ)や ながめ暮さむ
 
 知る 知らぬ 何かあやなく ()きて言はむ
 思ひのみこそ しるべなりけれ
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