あとがき

文字数 523文字

伊勢物語の在原業平は、
みやびの「男」として、理想化された。
 
その心は、源氏物語につながっていく。
 
源氏物語は「総角(あげまき)の巻」にて、
 
匂宮が、姉君を訪れた場面。
 
姉君のもとには、伊勢物語の「若草」(本作49話)を
描いた絵があった。
 
弟である匂宮は、
「在五が物語(伊勢物語のこと)描きて、
 妹に、琴教へたる所の、「人の結ばん」と言ひたるを見て、
 いかが(おぼ)すらん、すこし近く参り寄り給ひ」た由。
 
弟が姉に寄せる心情の機微を
伊勢物語のエピソードに重ねている。
 
業平は、後の作品にも顔を出す。
『平家物語』巻七の最終章、「福原落ち」の末尾をご覧あれ。
 
「はるばる来ぬと思ふにも ただ尽きせぬものは涙なり
 波の上に白き鳥の群れ居るを見給ひては
 彼ならん 在原のなにがしの隅田川にて言問ひけん
 名も睦まじき都鳥か など哀れなり――
 
都を離れ、西国へと落ちゆく平家に比して、
伊勢物語の「東下り」(本作9話)が引かれる。
 
誰もが知る、彼の名。そう、皆まで言わずとも。
 
伊勢物語は、一千年にわたり、ひとびとの記憶にあった。
 
かの「男」は、今も生きている。
そして、これからも。
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