第29話 来客

文字数 2,363文字

ナルフはメインダンジョンに戻って来るや否や魔法書を読みたがった。
魔法書を読むのにはリスクがある。あまり難しい魔法書を読むと、どこかにテレポートで飛ばされたり、一時的に目が見えなくなったり、その場で固まって動けなくなってしまったりする。
なので、ナルフが本を読み終えるまでは君とレオが護衛をすることになった。
「感謝する、レオ殿、ママ殿」
「お礼は今度5倍で返してもらうからね」
レオはそう言って短剣を握りナルフの前に立った。
「安心して読んで」
君はそう言ってレオの横に立ち、剣を抜く。
ナルフはそれを見ると、顔を少し緩ませて、本を開いた。
淡い青色の光が本から放たれて、ナルフはそれに包まれる。
君たちは警戒して辺りを見るが、特にモンスターが来る気配はない。
君たちは顔を見合わせ、武器を下ろし、ナルフに視線を向けた。
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「待ちくたびれたよーーー」
床に寝転んだまま、レオはそう言って、やっと本を閉じたナルフを見上げた。
「どうだった、ナルフ」
君はそう言いながら、レオの作ったスープをすする。
ナルフは君たちを見て少し固まっていた。
「我を護衛してくれているのでは無かったのか…」
「だってあまりに長いからさ、ねえ」
レオはそう言って君を見る。君はコクリと頷くと、スープの中の人参をレオの器に移した。
「ちょっと君今何したんだよ」
「特に何も」
君はそう言って目を逸す。レオは自分の皿に増えている人参を見てため息をついた。
「良いかい?人参はちゃんと調理するとホントに美味しいんだよ」
ナルフは自分そっちのけで話す君たちを黙って見ていたが、一度咳払いをした。
「ママ殿、レオ殿、見ていただきたい。我の新しい力を!」
ナルフはそう言って、呪文を唱え始めた。レオは慌ててそれを止める。
「僕たちまで殺すつもりかい?!」
ナルフは、そうか、と言って詠唱を辞めた。
「人参だけ凍らせて」
君がそう小声で言うとレオに睨まれてしまった。
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ナルフは難なく魔法書を読むことが出来た。あれでも速い方だったようだ。彼曰く、とても興味深いことが書いてあった、らしい。彼はコーンオブコールドという冷気を発する魔法を使いたくて仕方がなかったため、一発だけ壁に向けて放たせてあげると、壁がバキバキに凍ってしまった。冷気は壁で反射して、君の皿にまだ残っていた人参も凍らせた。
君たちが休憩を終えて進み出そうと荷物をまとめ、小さな小部屋を出ようとしたその時だった。

ドアがノックされた。
君とレオは顔を見合わせる。ナルフは君を庇うように立った。
「大丈夫、私が見てくる」
君はそう言ってしっかりと剣を握ると、一気にドアを開ける。
ドアの前にはエルフのマントに全身を包み、フードを深くかぶった男が1人立っていた。
マントから覗く手は細く長く、その目が鋭くキラリと光った。フードの中で長い耳がピクリと動いたのを君は見る。コイツもエルフなのか?
「失礼、冒険者。私は、レオというエルフの青年を探している者ですが」
君は、レオならそこに、と言いそうになって口をつぐんだ。レオがエルフ達から隠れて内緒で逃げ出してきたことを思い出したのだ。
その男は君の様子を見てフードの奥の目を細めた。
「その様子だと元気そうですね」
君は剣を構えた。
「何故レオが私の仲間だと知っているの?言っておく、彼はもう6層に戻るつもりはない」
君がそう言うと、男は声高く笑った。
「私は彼を連れ戻しに来たわけではありません、冒険者。私は彼らとは違うのです。私はただ、彼がどこかで野垂れ死んでいないかをこっそりと確かめに来たのですよ」
彼は此処で言葉を切ると、その場から姿をフッと消した。君は慌てて振り向くと、その男は部屋の中のレオの前に立っていた。レオは男を見て固まっていた。
君は男めがけて走ると剣を振り下ろす。男はそれを瞬時にエルフのブロードソードで受けた。
「客人に急に切りかかってくるとは、少し無礼なのでは?」
男はそう言うと君を弾き返した。君は反動で後ろに投げ飛ばされるが、ナルフがすかさず君をキャッチした。
「我が主に何をするのだ、そこのエルフ。我は弱いものいじめは好まんが、主を傷つけたとなれば容赦はせん」
ナルフはそう言って男を睨んだ。男は一瞬怯むが、直ぐに笑顔を取り戻した。
「襲いかかってきたのは冒険者の方だろうに」
「ナルフ、エイミー、コイツは君たちを殺しはしないから安心していいよ」
今まで黙っていたレオはそう言った。
「で、何しに来たんだい、ギルドール」
ギルドールと呼ばれた男はニコリと大げさに微笑んだ。
「レオ、私のほうが立場が上なのをもう忘れましたか?…まあ良いです。私は生きてるあなたに会えて非常に機嫌がいい。冒険者、少しの間レオを借ります。だがご安心を、私が彼を殺すことはありえない。我らの神ロキに誓いましょう」
ギルドールは君に向き直るとそう言って頭を下げた。
「彼とは古い知り合いなんだ。僕は大丈夫だよ、直ぐ戻るさ」
君はそういうレオを心配そうに眺めた。彼は大丈夫だと言うが、その顔は沈んでいるように見えた。彼らが部屋を出ていくのを見届けると、君はナルフに向き直った。
「どう思う?」
ナルフは少し考えていたが口を開いた。
「我はあの男は信用しておらん。だが、殺さないというのは本当であろう。もし襲われたとしても、もうレオ殿は弱くない。それに、レオ殿であれば、殺される前に何かしら合図をよこすであろう。そうすれば、我があの男を殺そう」
君は頷いた。エルフ同士の事に首を突っ込むのも良くないか。だが、どうしてもレオの浮かない顔が気がかりだった。
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登場人物紹介

エイミー、主人公、ヴァルキリーの少女。

レオ、エルフ。エイミーの仲間。顔が良い

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