第8話 誘惑
文字数 4,297文字
鈴の音に近づくにつれて、何者かの優しい、心地の良い歌声が聞こえて来るようになった。
その声はまるで小さな花が風で揺れているかの様に穏やかで、君の警戒心 はさっぱりなくなってしまった。君の足が自然と速まった。早くこの美しい歌声の主をひと目見たかったのである。
「もうちょっと慎重 に…」
レオは君の様子を見てそう言ったが、君の耳には届かなかった。君は速歩 で廊下をかけると、声のする部屋のドアを開け、顔を覗 かせた。
しゃりん
君は自分の目を疑った。そこにいたのは美しい華奢 な女性だったのだ。
彼女はなめらかな長い深緑の髪を靡 かせながら踊っていた。肌は透き通っており、大きな目は森林のような深い緑色だった。唇は淡い桜色で、それが微かに動くたびに美しい歌声が辺りを包んだ。長いローブを翻 し、華麗 にステップを踏むその姿に君は釘付けになった。
しゃりん
彼女が動くと鈴のような心地良い音がなり、ふんわりとした匂いが君を包み込んだ。彼女は君に気づくと、優しい太陽のような笑顔を向けて、歩き寄ってきた。
「お嬢さん、お一人?」
君は今までこれ程美しい人を見たことがなかった。頭には草で作った質素な冠が乗せてあり、それが一層彼女の美しさを引き立てていて、君には彼女の周りに光る蝶々が飛んでいるようにすら見えた。
君が彼女に見とれて質問に答えられないでいると、彼女はふふふ、と静かに笑った。
「そうみたいね。此処 は危険よ、誰もがあなたを殺そうとする」
彼女は目を伏せて、悲しげにそう言った。
君は、彼女の声があまり頭に入ってきていないことに気がついた。その甘い匂いは、声は、君の頭をぼんやりさせた。
「あなたを私に委 ねて。此処 までよく頑張ったわね、もう休んでいいのよ...」
そう言って、彼女は君の頬をその細くて美しい手で触れた。その目で見つめられると、君は、吸い込まれそうな、奇妙な感覚に包まれた。
「こんなに重いものを持って...、大変だったでしょう。私が持ってあげましょう。... ほら、鎧を脱いで?」
彼女がそう言ったので、君は喜んで鎧を脱ごうとカバンを下ろした。
「ちょっとお姉さん。何するのかと思えば僕の連れをナンパですか?」
今まで様子を見ていたレオも、流石にこれはおかしいと思い、君の前に立った。
「…一人じゃなかったの。そう。」
彼女はレオを見ると吐き捨てるようにそう言った。
「エイミー、なんでコイツに鎧なんか持たせるんだ?おかしいよ」
レオはそう言って君の肩を揺さぶる。が、君はレオの手を払いのけると彼を睨んだ。
レオは君の様子を見て一歩下がる。君はレオが邪魔 をしないのを確認すると、鎧を脱いで、彼女に手渡した。体が一気に軽くなった気がした。
彼女はそれを受け取ると、優しく微笑んで、歩き去って行った。君は、しばらくの間、その場でぼーっと突っ立っていた。ああ、美しかった...
…
… 私は、何をしていた?
唐突 に現実に引き戻される。ぼんやり、ふわふわしていた頭が冷水を掛けられたかのように冴 え始める。後ろには、すっかり丸くなってしまったレオが君を見ていた。
「ごめん、レオ、私は何を…」
そして君は彼女の事を思い出す。急いで辺りを見渡すが、彼女はもういない。歩き出そうとして、体が異様に軽いことに気づく。
「...鎧がない」
冷や汗が額に滲む。慌てて彼女の歩いていった方に走るが、どこにも見つからない。
「だから僕は止めたんだ」
レオはため息をついた。
不幸中の幸いは、左腰に付いている鞘 の中の剣が無事だったことだろう。かばんを探って他に足りないものがないか確認をするが、盗られたのは鎧だけのようだ。
すぐに取り返さなければ。
頭に血が上る。騙されたのだ!君はズカズカと歩き出す。何個も部屋を回っていると、君はやっとのことでまた彼女を見つけることができた。彼女は君を見るなり、また優しく微笑みかけて歩み寄ってきた。君はその美しさに目を奪われ、彼女の方に歩み寄ろうと足を出した。彼女が笑いかけてきて、君は赤面する。レオが止める間もなく、君は喜んで君のローブを彼女に手渡した。そして我に返ると彼女はもういない。
「あっ、まただ!」
君は頭を抱える。このままでは歯が立たない。
奥の部屋に彼女を見つけて、また走り出す。ダガーを構えると、彼女は素早く奥の扉から逃げる。君は微笑む。これで追い詰められる、そこは行き止まりだ。
「あれ?」
彼女はまた消えていた。しかし、鎧を取り返さないことには先に進んでも死んでしまうだろう。
君達は道を戻りながら、彼女を探す。結局、最初の部屋まで戻ったところでもう一度彼女を見つけた。彼女が君を見て、逃げる場所がないと気がつくと、怪しく微笑みながら、君の方に向かってくる。
あっという間に彼女はすぐそばに迫ってきていた。剣を振り下ろそうとすると、彼女は急にいなくなる。見ると、持っていたはずの食料が消えていた。
これは、伝説のニンフというモンスターだ。間違いない。襲ってきたり、ダメージを与えることはないものの、冒険者を魅了 し、物を盗む。だが、これ以上なにか盗られるわけにはいかない。
「ちょっと落ち着いたら?」
レオはそう言って君に水を手渡した。
君はそれを一気にゴクリと飲み干すと、また歩き出す。
「…騙された、いっぱい盗られた…」
レオはため息をついて、君の頭をぽんと叩いた。
「このまま近距離 で戦おうとしても勝ち目はなさそうだから、これを使うってのはどう?」
レオはそう言って自分の弓を取り出した。
「でも、距離が取れないと」
「ま、試してみよう」
レオはそう言うとニンフを探して歩き出す。周りを見回すと、部屋の奥の方で、逃げようとしている彼女が目に入る。
レオはサッと矢を番え、彼女を狙って一発放った。
彼女はレオと自分めがけて飛んでくる矢に顔を引きつらせ、慌てて避けようと向きを変える。が、その矢は彼女の太ももに命中した。
ニンフはおぞましいうめき声をあげたと思うと、その場から姿を消した。そして、もう一度君の前に姿を表す。
「お嬢さん、お願い、あなたの仲間に私を傷つけないように伝えて頂戴 …凄く痛いのよ、この矢!」
君は可哀想 なニンフに同情しそうになるが、レオが君を手で制して一歩前に出た。
「じゃあ、君が僕たちから盗んだものを返してくれるなら良いよ?」
ニンフはチッと舌を鳴らしてレオを睨んだ。が、彼女はレオの顔を見ると固まってしまった。
「た、た、タイプの顔…」
ニンフはそう言って後ずさりをする。彼女の魔力から解放された君は、怒りがこみ上げてくるのを感じ、剣に手をかける。
「私の鎧、返して」
君はそう言って彼女を睨む。が、ニンフはもう交渉は出来ないと分かると、ペッと唾を吐き、踵 を返して脱兎 の如 く走り出した。
レオは矢を番 えて射つ。慌てていたニンフは、レオの矢が彼女の首に刺さるまでそれに気づかなかった。
「…覚えてろ、よ…」
ニンフはそう言って君たちをひと睨みすると口からゴフッと血を吐いてバタリと倒れた。
レオは目を伏せた。
君はゆっくりとニンフの死体に近寄る。あれほど美しかったはずが、もう既に朽 ちかけていた。
白く透き通った肌は茶色く変色し、細かった指は更に細く、骨ばっていた。君は彼女が着ていたローブをそっとめくると、ちゃっかりと君の鎧を着ていることが分かった。
一瞬ためらうが、女同士だ、良いだろう。慎重 に鎧を脱がせて、それを取り返す。その拍子に、ガラガラとガラクタが出てきた。中には君から盗んだ食料や、他の人から盗んだであろう物もあった。手鏡、短剣、ランプ、あとは...
「...ん?」
他のガラクタに紛れて、君の目に一枚の紙切れが映る。それは古く、だが丁寧に折りたたまれていた。破らないように丁寧にそれを開くと、君はそれが写真だということに気づく。その白黒写真には、男の人と女の人が二人並んで家の前に立っていた。
所々焦げているのか黄ばんでいるのか、見えづらいところもあった。誰かが写真を持ってきたけど、ニンフに盗られたんだ。君はその写真をぼーっと眺めていた。
君は目を見開く。一度目を擦り、もう一度写真を見つめる。
何かが心に引っかかると思ったのだ。写真の背景に写っている、この家。この家は、自分の家にそっくりじゃないか!
君がダンジョンに来る前に一人暮らしをしていた、木でできた、小さめの、でも綺麗な一軒家。写真の中の物は君が見慣れているものよりは新しくみえた。このドア、この屋根、この壁。間違いない。君の家だ。
だが、何だ?ヴァルキリーの村は広くない。ただ単に、以前、自分のようにここに来た人があの家に前住んでいた人というだけだろう。異様に早まり続ける鼓動に違和感を覚える。君は、今度は真ん中の男女に目を向けた。
二人とも若かった。服装は決して豪華ではなかったがどこか気品があり、優しげだった。女性は美しく、長い黒髪は綺麗に結われており、男性は力強く、はにかんだその顔はどこか懐かしかった。この二人、どこかで...。
「...っ!」
頭がズキズキと割れるように痛みだす。まただ。手が震えて、写真を落とす。視界がぼやけて、ガクッと頭を垂らす。汗がドバドバと出た。吐き気が君を襲う。
「エイミー?どうした?大丈夫か!?」
レオは君の様子に気づき、慌てて君の身体を支えた。
君は段々と意識が遠のいていくのを感じた。
---------------------------------------------------
目を覚ますと、レオが君の顔を覗き込んでいた。
「君のカバンの中に頭痛薬って書いてある小瓶があったから、ごめん、勝手に飲ませたんだけど、どう?」
君はレオが手に持っている空の小さな瓶に目をやった。これは、ジェームズが前に君のために、ユーカリの葉から作ってくれたものだ。
「ありがとう、レオ」
君はそう言って上体を起こす。レオが置いておいてくれたのであろう君の鎧にふらふらとそれに手を伸ばし、着る。君は鎧を着終わると、立ち上がろうとするが、膝に崩れ落ちてしまった。
「... 私、なんで気絶なんかしたんだっけ」
君はレオに目をやる。何かを見たようなそんな気はするのだが、濃い霧がかかっているようで思い出せない。レオは右手には空の小瓶を、左手は彼の体の後ろに回して、何かを隠している様であった。
「レオ、なんか隠してる?」
「い、いや、何も?」
君がそう聞くとレオは目を逸して口笛を吹いた。
「まあ良いけど」
君はそう言ってもうレオの肩を借りて一度立ち上がり、探索を続けようとあるき出す。
レオは君が見えない所まで行ったのを確認すると、そっと立ち上がり、左手の写真を小さく折りたたむとスッと自分のかばんの奥底にしまった。
その声はまるで小さな花が風で揺れているかの様に穏やかで、君の
「もうちょっと
レオは君の様子を見てそう言ったが、君の耳には届かなかった。君は
しゃりん
君は自分の目を疑った。そこにいたのは美しい
彼女はなめらかな長い深緑の髪を
しゃりん
彼女が動くと鈴のような心地良い音がなり、ふんわりとした匂いが君を包み込んだ。彼女は君に気づくと、優しい太陽のような笑顔を向けて、歩き寄ってきた。
「お嬢さん、お一人?」
君は今までこれ程美しい人を見たことがなかった。頭には草で作った質素な冠が乗せてあり、それが一層彼女の美しさを引き立てていて、君には彼女の周りに光る蝶々が飛んでいるようにすら見えた。
君が彼女に見とれて質問に答えられないでいると、彼女はふふふ、と静かに笑った。
「そうみたいね。
彼女は目を伏せて、悲しげにそう言った。
君は、彼女の声があまり頭に入ってきていないことに気がついた。その甘い匂いは、声は、君の頭をぼんやりさせた。
「あなたを私に
そう言って、彼女は君の頬をその細くて美しい手で触れた。その目で見つめられると、君は、吸い込まれそうな、奇妙な感覚に包まれた。
「こんなに重いものを持って...、大変だったでしょう。私が持ってあげましょう。... ほら、鎧を脱いで?」
彼女がそう言ったので、君は喜んで鎧を脱ごうとカバンを下ろした。
「ちょっとお姉さん。何するのかと思えば僕の連れをナンパですか?」
今まで様子を見ていたレオも、流石にこれはおかしいと思い、君の前に立った。
「…一人じゃなかったの。そう。」
彼女はレオを見ると吐き捨てるようにそう言った。
「エイミー、なんでコイツに鎧なんか持たせるんだ?おかしいよ」
レオはそう言って君の肩を揺さぶる。が、君はレオの手を払いのけると彼を睨んだ。
レオは君の様子を見て一歩下がる。君はレオが
彼女はそれを受け取ると、優しく微笑んで、歩き去って行った。君は、しばらくの間、その場でぼーっと突っ立っていた。ああ、美しかった...
…
… 私は、何をしていた?
「ごめん、レオ、私は何を…」
そして君は彼女の事を思い出す。急いで辺りを見渡すが、彼女はもういない。歩き出そうとして、体が異様に軽いことに気づく。
「...鎧がない」
冷や汗が額に滲む。慌てて彼女の歩いていった方に走るが、どこにも見つからない。
「だから僕は止めたんだ」
レオはため息をついた。
不幸中の幸いは、左腰に付いている
すぐに取り返さなければ。
頭に血が上る。騙されたのだ!君はズカズカと歩き出す。何個も部屋を回っていると、君はやっとのことでまた彼女を見つけることができた。彼女は君を見るなり、また優しく微笑みかけて歩み寄ってきた。君はその美しさに目を奪われ、彼女の方に歩み寄ろうと足を出した。彼女が笑いかけてきて、君は赤面する。レオが止める間もなく、君は喜んで君のローブを彼女に手渡した。そして我に返ると彼女はもういない。
「あっ、まただ!」
君は頭を抱える。このままでは歯が立たない。
奥の部屋に彼女を見つけて、また走り出す。ダガーを構えると、彼女は素早く奥の扉から逃げる。君は微笑む。これで追い詰められる、そこは行き止まりだ。
「あれ?」
彼女はまた消えていた。しかし、鎧を取り返さないことには先に進んでも死んでしまうだろう。
君達は道を戻りながら、彼女を探す。結局、最初の部屋まで戻ったところでもう一度彼女を見つけた。彼女が君を見て、逃げる場所がないと気がつくと、怪しく微笑みながら、君の方に向かってくる。
あっという間に彼女はすぐそばに迫ってきていた。剣を振り下ろそうとすると、彼女は急にいなくなる。見ると、持っていたはずの食料が消えていた。
これは、伝説のニンフというモンスターだ。間違いない。襲ってきたり、ダメージを与えることはないものの、冒険者を
「ちょっと落ち着いたら?」
レオはそう言って君に水を手渡した。
君はそれを一気にゴクリと飲み干すと、また歩き出す。
「…騙された、いっぱい盗られた…」
レオはため息をついて、君の頭をぽんと叩いた。
「このまま
レオはそう言って自分の弓を取り出した。
「でも、距離が取れないと」
「ま、試してみよう」
レオはそう言うとニンフを探して歩き出す。周りを見回すと、部屋の奥の方で、逃げようとしている彼女が目に入る。
レオはサッと矢を番え、彼女を狙って一発放った。
彼女はレオと自分めがけて飛んでくる矢に顔を引きつらせ、慌てて避けようと向きを変える。が、その矢は彼女の太ももに命中した。
ニンフはおぞましいうめき声をあげたと思うと、その場から姿を消した。そして、もう一度君の前に姿を表す。
「お嬢さん、お願い、あなたの仲間に私を傷つけないように伝えて
君は
「じゃあ、君が僕たちから盗んだものを返してくれるなら良いよ?」
ニンフはチッと舌を鳴らしてレオを睨んだ。が、彼女はレオの顔を見ると固まってしまった。
「た、た、タイプの顔…」
ニンフはそう言って後ずさりをする。彼女の魔力から解放された君は、怒りがこみ上げてくるのを感じ、剣に手をかける。
「私の鎧、返して」
君はそう言って彼女を睨む。が、ニンフはもう交渉は出来ないと分かると、ペッと唾を吐き、
レオは矢を
「…覚えてろ、よ…」
ニンフはそう言って君たちをひと睨みすると口からゴフッと血を吐いてバタリと倒れた。
レオは目を伏せた。
君はゆっくりとニンフの死体に近寄る。あれほど美しかったはずが、もう既に
白く透き通った肌は茶色く変色し、細かった指は更に細く、骨ばっていた。君は彼女が着ていたローブをそっとめくると、ちゃっかりと君の鎧を着ていることが分かった。
一瞬ためらうが、女同士だ、良いだろう。
「...ん?」
他のガラクタに紛れて、君の目に一枚の紙切れが映る。それは古く、だが丁寧に折りたたまれていた。破らないように丁寧にそれを開くと、君はそれが写真だということに気づく。その白黒写真には、男の人と女の人が二人並んで家の前に立っていた。
所々焦げているのか黄ばんでいるのか、見えづらいところもあった。誰かが写真を持ってきたけど、ニンフに盗られたんだ。君はその写真をぼーっと眺めていた。
君は目を見開く。一度目を擦り、もう一度写真を見つめる。
何かが心に引っかかると思ったのだ。写真の背景に写っている、この家。この家は、自分の家にそっくりじゃないか!
君がダンジョンに来る前に一人暮らしをしていた、木でできた、小さめの、でも綺麗な一軒家。写真の中の物は君が見慣れているものよりは新しくみえた。このドア、この屋根、この壁。間違いない。君の家だ。
だが、何だ?ヴァルキリーの村は広くない。ただ単に、以前、自分のようにここに来た人があの家に前住んでいた人というだけだろう。異様に早まり続ける鼓動に違和感を覚える。君は、今度は真ん中の男女に目を向けた。
二人とも若かった。服装は決して豪華ではなかったがどこか気品があり、優しげだった。女性は美しく、長い黒髪は綺麗に結われており、男性は力強く、はにかんだその顔はどこか懐かしかった。この二人、どこかで...。
「...っ!」
頭がズキズキと割れるように痛みだす。まただ。手が震えて、写真を落とす。視界がぼやけて、ガクッと頭を垂らす。汗がドバドバと出た。吐き気が君を襲う。
「エイミー?どうした?大丈夫か!?」
レオは君の様子に気づき、慌てて君の身体を支えた。
君は段々と意識が遠のいていくのを感じた。
---------------------------------------------------
目を覚ますと、レオが君の顔を覗き込んでいた。
「君のカバンの中に頭痛薬って書いてある小瓶があったから、ごめん、勝手に飲ませたんだけど、どう?」
君はレオが手に持っている空の小さな瓶に目をやった。これは、ジェームズが前に君のために、ユーカリの葉から作ってくれたものだ。
「ありがとう、レオ」
君はそう言って上体を起こす。レオが置いておいてくれたのであろう君の鎧にふらふらとそれに手を伸ばし、着る。君は鎧を着終わると、立ち上がろうとするが、膝に崩れ落ちてしまった。
「... 私、なんで気絶なんかしたんだっけ」
君はレオに目をやる。何かを見たようなそんな気はするのだが、濃い霧がかかっているようで思い出せない。レオは右手には空の小瓶を、左手は彼の体の後ろに回して、何かを隠している様であった。
「レオ、なんか隠してる?」
「い、いや、何も?」
君がそう聞くとレオは目を逸して口笛を吹いた。
「まあ良いけど」
君はそう言ってもうレオの肩を借りて一度立ち上がり、探索を続けようとあるき出す。
レオは君が見えない所まで行ったのを確認すると、そっと立ち上がり、左手の写真を小さく折りたたむとスッと自分のかばんの奥底にしまった。