第11話 泉の精
文字数 2,686文字
君はどうすることも出来なかった。ただ、君の大切な仲間が弱って死んでいくのを見ているほかは…。
「そこを退 くのだ」
君は涙で一杯の顔を上げる。そこにはオラクルが君たちを見下ろして立っていた。
「だから妾は知らぬと言ったのだ…世話の焼ける奴め」
オラクルはそう言うと彼の横に膝を付いた。そして、彼の脈を測ると笑った。
「そこのヴァルキリー」
「は、はい!」
君は慌てて返事をする。
「普通ならもう死んでおる…。安心せい、こいつは大丈夫だ」
君は安堵 から泣き崩れた。彼女は彼を抱きかかえ、奥の部屋のベッドへと運んだ。
オラクルはレオの傷口に優しく包帯を巻くと、布団をかけてやった。
「後は知らんぞ」
彼女はそう言うとさっさと部屋を後にした。君はレオの横に椅子を置くと彼の手を取って彼の顔を眺めた。
その顔には血色が戻り、その寝息は穏やかであった。
数時間ほど経つと、レオは目を覚ました。彼は君に気づくと、優しく微笑みかけた。
「怪我はない?」
「無いよ、レオのお陰で…」
君はそう言って彼の手を一層強く握った。
「普通ならとっくに死んでる量の毒を入れられたって聞いた」
君は震える声でそういった。レオはそれを聞いて笑う。
「そうだろうね、でも僕は生きてる」
彼はそう言うと上体を起こした。君はレオに抱きつく。
「…また、仲間を失うと思った」
君はそう言って彼の胸に顔をうずめた。涙が溢れてくる。レオは少し驚いたようであったが、右手をぽん、と君の頭の上に置いた。
「ごめん、心配かけて」
シャッ、と部屋を仕切るカーテンが開いてオラクルが顔を覗かせた。
彼女が見たのは、君がレオの上に覆いかぶさり彼の胸で泣いているところだった。
君たちは固まる。
彼女はゆっくりとカーテンを戻した。
「妾は何も見とらん…」
レオは慌てて君を椅子に座らせ直すと、
「誤解です!!」
と叫んだ。君は良く分からずに首を傾げる。
オラクルがもう一度カーテンの隙間から君たちを覗いた。
「ホントに何もしてなかったんです!!」
「なら、まあ、良いか…」
オラクルは訝 しげな目をレオに向けたまま部屋に入ってきた。
「なんでレオは無事だったんですか?」
君は彼女に顔を向けた。オラクルはうむ、と頷くと、口を開いた。
「簡単だ。汝、毒耐性を持っとるな?」
レオは首をかしげた。
「その事を知らずに蛇に噛まれに行くとは…大した度胸だ」
彼女はそこで言葉を切ると笑って、こう続けた。
「昔、何か毒耐性の付く死体を食べたことはあるか?」
レオはう~んと声をあげる。
「そういえば昔、蜂を一度間違えて食べたことがあったような…?」
「恐らく、その御蔭であろうな。何にせよ、汝が幸運だったのは確かだ」
「耐性って、食べればつくものなんですか?」
君はそう尋ねる。オラクルは頷く。
「だが、リスクもある。毒耐性の付く前に毒を食べるということだからな。最悪の場合、死ぬぞ」
君は、先程殺した蛇を食べるという考えを慌てて頭から追い出した。耐性のために死んでしまっては元も子もない。
「はあ、これだけ情報をあげたのだ。金を取ってもいい位なんだが」
「僕、さっきオラクルさんにお金全部取られちゃってもう無いんです…」
レオは悲しそうに言った。
「あ、いや、本当に金を取るとは言っておらん」
オラクルはレオの顔から目を慌てて逸すとそういった。
「ここでもう少し休むと良い、汝もだ、ヴァルキリー。妾もどうせ暇だ。だが、茶菓子などそういう物は期待するなよ」
彼女はそう言うとそそくさと部屋を出ていった。君たちはお言葉に甘えることにした。
---------------------------------------------------------
一晩経つと、レオもすっかり本調子に戻ったようだった。君たちは身支度を整え、出発に備える。ふと、レオの目に、君の錆びまくった剣が目に入る。
「その剣じゃ戦えないよ。もっかいだけ、湖の精探ししてみないかい?」
君は自分の耳を疑った。
「何言ってるのレオ、またあなたに何かあったら…」
君がそう言うと、レオは肩をすくめる。
「アレより悪いことなんて相当無いんじゃないかな?」
君は迷う。勿論湖の精は探したかったが、レオが傷つくなら意味がない。
「今は君の剣が大事だよ。きっと湖の精も、錆くらいは取ってくれるんじゃないかな?」
君は渋々納得する。そして、また泉のある部屋に入った。
「汝ら、行くのか?」
「最後にもう一度だけ試してみようかと思いまして」
レオは君の剣を指差してそう言うと頭を掻いた。
「懲りないな。まあ、勝手にするのだ。今度は助けないぞ」
オラクルはそう言ってため息をつく。レオは君の手の上から剣を握り、一緒に泉へと入れた。
するとどうだろう。泉の奥の濁ったところから、ゆっくりと手が上がってきたのだ。
君とレオは慌てて剣から手を離す。剣は一度ボチャンと沈むと、一度水の中で琥珀色に光り、またゆっくりと上がってきた。君はその美しさに心を奪われ、その場から動けず佇んでいた。
その刃はもう汚れても錆びてもおらず、夜の太陽のように輝いて君達を照らした。剣はその強さと力、そしてそれが正義の化身であり、長い年月の眠りの後にその時が来たという事実から輝いていた。刃が水面を破って現れる。
金色の美しく装飾された柄が見え、君の手がその剣を握る。すると、剣は一層グワンと明るくなって、その輝きはゆっくりと落ち着いていった。剣は君の手に不思議なほどぴったりと収まった。青と金で描かれたその模様は誰もを魅了した。刃の根元には、短い一単語が刻まれていた。
”Excalibur”
君はその名前を口に出すと、レオと顔を見合わせる。
君は、ついにあの伝説の聖剣を手に入れたのだ!
レオは安堵 のため息を付く。横ではしゃぐ君を横目に、レオはオラクルに一礼した。
「妾も泉の精を実際に見たのはこれが初めてだ…」
彼女はそういうと、感心したように聖剣を眺めた。
レオは君に目を向けた。その時、彼はあることに気づき、血相をかけて君を急かした。
「よし、エイミー、行こう。早く行こう。もうすぐにでも行こう」
君は彼の様子に戸惑いながら、オラクルに手短にお礼をいい、部屋を出た。
「やっとうるさいのが居なくなった」
オラクルはそう言ってため息を付くが、急に静かになった部屋に寂しさを少し感じた。
「やはり、居なくなると居なくなったで寂しいものなのだな」
彼女はそう言って部屋を見渡す。そして、あるものが無いことに気づく。
そう、泉の精が出てきた泉が、跡形もなく消え去っていたのである。
「お、覚えておけ!!!!」
オラクルは涙目でそう叫んだが、その頃にはもう君たちはその層には居なかった。
「そこを
君は涙で一杯の顔を上げる。そこにはオラクルが君たちを見下ろして立っていた。
「だから妾は知らぬと言ったのだ…世話の焼ける奴め」
オラクルはそう言うと彼の横に膝を付いた。そして、彼の脈を測ると笑った。
「そこのヴァルキリー」
「は、はい!」
君は慌てて返事をする。
「普通ならもう死んでおる…。安心せい、こいつは大丈夫だ」
君は
オラクルはレオの傷口に優しく包帯を巻くと、布団をかけてやった。
「後は知らんぞ」
彼女はそう言うとさっさと部屋を後にした。君はレオの横に椅子を置くと彼の手を取って彼の顔を眺めた。
その顔には血色が戻り、その寝息は穏やかであった。
数時間ほど経つと、レオは目を覚ました。彼は君に気づくと、優しく微笑みかけた。
「怪我はない?」
「無いよ、レオのお陰で…」
君はそう言って彼の手を一層強く握った。
「普通ならとっくに死んでる量の毒を入れられたって聞いた」
君は震える声でそういった。レオはそれを聞いて笑う。
「そうだろうね、でも僕は生きてる」
彼はそう言うと上体を起こした。君はレオに抱きつく。
「…また、仲間を失うと思った」
君はそう言って彼の胸に顔をうずめた。涙が溢れてくる。レオは少し驚いたようであったが、右手をぽん、と君の頭の上に置いた。
「ごめん、心配かけて」
シャッ、と部屋を仕切るカーテンが開いてオラクルが顔を覗かせた。
彼女が見たのは、君がレオの上に覆いかぶさり彼の胸で泣いているところだった。
君たちは固まる。
彼女はゆっくりとカーテンを戻した。
「妾は何も見とらん…」
レオは慌てて君を椅子に座らせ直すと、
「誤解です!!」
と叫んだ。君は良く分からずに首を傾げる。
オラクルがもう一度カーテンの隙間から君たちを覗いた。
「ホントに何もしてなかったんです!!」
「なら、まあ、良いか…」
オラクルは
「なんでレオは無事だったんですか?」
君は彼女に顔を向けた。オラクルはうむ、と頷くと、口を開いた。
「簡単だ。汝、毒耐性を持っとるな?」
レオは首をかしげた。
「その事を知らずに蛇に噛まれに行くとは…大した度胸だ」
彼女はそこで言葉を切ると笑って、こう続けた。
「昔、何か毒耐性の付く死体を食べたことはあるか?」
レオはう~んと声をあげる。
「そういえば昔、蜂を一度間違えて食べたことがあったような…?」
「恐らく、その御蔭であろうな。何にせよ、汝が幸運だったのは確かだ」
「耐性って、食べればつくものなんですか?」
君はそう尋ねる。オラクルは頷く。
「だが、リスクもある。毒耐性の付く前に毒を食べるということだからな。最悪の場合、死ぬぞ」
君は、先程殺した蛇を食べるという考えを慌てて頭から追い出した。耐性のために死んでしまっては元も子もない。
「はあ、これだけ情報をあげたのだ。金を取ってもいい位なんだが」
「僕、さっきオラクルさんにお金全部取られちゃってもう無いんです…」
レオは悲しそうに言った。
「あ、いや、本当に金を取るとは言っておらん」
オラクルはレオの顔から目を慌てて逸すとそういった。
「ここでもう少し休むと良い、汝もだ、ヴァルキリー。妾もどうせ暇だ。だが、茶菓子などそういう物は期待するなよ」
彼女はそう言うとそそくさと部屋を出ていった。君たちはお言葉に甘えることにした。
---------------------------------------------------------
一晩経つと、レオもすっかり本調子に戻ったようだった。君たちは身支度を整え、出発に備える。ふと、レオの目に、君の錆びまくった剣が目に入る。
「その剣じゃ戦えないよ。もっかいだけ、湖の精探ししてみないかい?」
君は自分の耳を疑った。
「何言ってるのレオ、またあなたに何かあったら…」
君がそう言うと、レオは肩をすくめる。
「アレより悪いことなんて相当無いんじゃないかな?」
君は迷う。勿論湖の精は探したかったが、レオが傷つくなら意味がない。
「今は君の剣が大事だよ。きっと湖の精も、錆くらいは取ってくれるんじゃないかな?」
君は渋々納得する。そして、また泉のある部屋に入った。
「汝ら、行くのか?」
「最後にもう一度だけ試してみようかと思いまして」
レオは君の剣を指差してそう言うと頭を掻いた。
「懲りないな。まあ、勝手にするのだ。今度は助けないぞ」
オラクルはそう言ってため息をつく。レオは君の手の上から剣を握り、一緒に泉へと入れた。
するとどうだろう。泉の奥の濁ったところから、ゆっくりと手が上がってきたのだ。
君とレオは慌てて剣から手を離す。剣は一度ボチャンと沈むと、一度水の中で琥珀色に光り、またゆっくりと上がってきた。君はその美しさに心を奪われ、その場から動けず佇んでいた。
その刃はもう汚れても錆びてもおらず、夜の太陽のように輝いて君達を照らした。剣はその強さと力、そしてそれが正義の化身であり、長い年月の眠りの後にその時が来たという事実から輝いていた。刃が水面を破って現れる。
金色の美しく装飾された柄が見え、君の手がその剣を握る。すると、剣は一層グワンと明るくなって、その輝きはゆっくりと落ち着いていった。剣は君の手に不思議なほどぴったりと収まった。青と金で描かれたその模様は誰もを魅了した。刃の根元には、短い一単語が刻まれていた。
”Excalibur”
君はその名前を口に出すと、レオと顔を見合わせる。
君は、ついにあの伝説の聖剣を手に入れたのだ!
レオは
「妾も泉の精を実際に見たのはこれが初めてだ…」
彼女はそういうと、感心したように聖剣を眺めた。
レオは君に目を向けた。その時、彼はあることに気づき、血相をかけて君を急かした。
「よし、エイミー、行こう。早く行こう。もうすぐにでも行こう」
君は彼の様子に戸惑いながら、オラクルに手短にお礼をいい、部屋を出た。
「やっとうるさいのが居なくなった」
オラクルはそう言ってため息を付くが、急に静かになった部屋に寂しさを少し感じた。
「やはり、居なくなると居なくなったで寂しいものなのだな」
彼女はそう言って部屋を見渡す。そして、あるものが無いことに気づく。
そう、泉の精が出てきた泉が、跡形もなく消え去っていたのである。
「お、覚えておけ!!!!」
オラクルは涙目でそう叫んだが、その頃にはもう君たちはその層には居なかった。