第31話 城

文字数 2,944文字

レオは1時間ほど経つと目を覚ました。
「よく寝れた?」
君がそう聞くと、彼は大きく伸びをして立ち上がった。
「うん、大分疲れも取れたよ!ごめん、待たせちゃったみたいだね」
君は心配そうにレオを見つめる。が、彼は先程の事が嘘だったかのようにいつもどおりであった。
「行こうか」
彼はそう言って自分の明るい緑色のマントを羽織ると、部屋のドアを開けた。君も慌てて支度をする。
「レオ殿、一つ聞いてもよろしいか」
レオはナルフの方を振り返る。
「どうぞ?」
ナルフは一度口を開けるが、また閉じた。彼は少し考えると、もう一度息を吸った。
「誰も聞かぬから我が聞くが、あの、ギルドールとかいう奴とは何者なのだ?」
レオの顔が暗くなったような気がしたが、彼は直ぐにいつもの笑顔を取り戻すと、
「アイツは、昔からの知り合いみたいなものさ」
と言った。
「僕が赤ん坊の時から、アイツは僕に6層より下の層の事を教えてくれてたんだ。それでメデューサの事とか悪魔とか、そういう事を知ったんだよ」
ナルフはそれを聞いて首を傾げた。
「レオ殿は6層より下に行ったことがなかったのであるか?」
君はナルフにレオと会った時のことを説明して聞かせた。自分がダンジョンの中ではなくある村から来たことも。
「私は自分でこのダンジョンに入る事を決めた、後悔はしてないけど。丁度今年はヴァルキリーの村の順番だったから、村の人達も私が居なくなって皆んな清々してると思う」
ナルフは自分が今まで何も知らなかった事に少し怒っているようだった。
「レオ、話を戻そう。何を話してたの?昨日は様子がおかしかった」
君がそう言うと、レオの顔からフッと笑顔が消えた。彼は君から目をそらすと、
「…世間話さ」
と言った。沈黙が君たちを包んだ。

初めに口を開いたのはナルフだ。
「で、ギルドールは強いのであるか?我よりも?」
レオの顔にはいつもの優しい笑顔が戻っていた。彼は顎に手を当ててうーんと唸ると、
「アイツは僕よりは強い、でも流石にナルフには敵わないと思うな。だけどね、アイツはずる賢いんだよ」
と言って顔を上げた。
「でもアイツは"城"を超えられなかったんだよ。だから、僕が"城"を超える前に会いに来た」
「城って?」
君はカバンを背負いながらそう聞く。
「城だよ、見れば分かるさ。アイツが来たってことは、僕たちもそろそろ付くと思うね」
レオはそう言うと歩き出した。君とナルフも後に続く。

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君たちは26層への下り階段を見つけ、降りた。
君は階段を降りると、今までとは明らかに違う空間に違和感を持った。
そこは部屋ではなく狭い通路のような場所で、薄暗く、道に沿って高い壁が立っていた。君は階段から降りるとランプを取り出し火打ち石で火を付けた。辺りがパッと明るくなる。
「狭いから、気をつけて」
君はそう言ってレオの足元を照らす。レオはヒュンと階段から降りて、ナルフの手を取って自分の居る所まで誘導した。
「ここがレオ殿が言っていた城であるか?」
ナルフはそう言って壁一面の辺りを見渡す。
「そうかもしれないね。だとしても、まず広いところに出ようか」
君は頷いて、ランプを高く持ち上げると自分の前の一本道をあるき出した。
道は真っ直ぐではなく、迷路の様にうねっていた。だが分かれ道がある訳ではなかったので、君たちは道に沿って歩いていった。途中ガーゴイルやニンフにも会ったが、今の君たちの敵ではなかった。
そして、視界が開ける。
君は思わず感嘆の声を上げた。
「ホントに城だ…」
「やっぱりかい?」
君の後からレオも広間に出る。そしてナルフも続く。
「これが、ギルドールが越えられなかったという"城"であるか」
ナルフはそう言ってあたりを見渡した。
君たちの周りには深い堀があり、目の前には上がったままの跳ね橋があった。城はノルンの居たものより随分と大きく、灰色の石が積み重なって出来ていた。
「エイミー、あまり水に近づかない方がいいよ」
レオはそう言うと弓を取り出した。君は堀から一歩離れる。
レオが矢を一本放つと、何かが水面下で暴れている音がした。
彼は続けて3本放つ。そして2本、また3本。
そうすると、音の主が姿を表した。
「サメ!」
大きなサメであった。バシャンと音を立てて水面から頭を出すと、レオに噛みつこうとその大きな口を開け、鋭く尖った牙を光らせると、上体をひねった。が、堀から離れているレオに届くはずもなく、水から出てきたばっかりにもう3本体に矢を食らい、大きな水しぶきをあげて、ドボンと落ちた。
「お仕事完了っと」
レオはそう言って弓を下ろす。君はレオをまじまじと見つめた。
「レオ、なんで見えないのにサメがいるって分かったの?」
レオはそれを聞くと首を傾げた。
「赤外線で分かるじゃないか。君だって分かってたんだろ?」
「私は見るまで気づかなかった。ナルフは?」
君がそう聞くとナルフは首を振った。
「何かしら敵が居るのは気配で気づいていたが、種類までは我にも分からなかった。流石レオ殿であるな」
「僕だけだったのかい?!」
レオはそれを聞くとあんぐりと口を開けた。
「もっと早く知ってたらな!そしたら近くに敵がいる時教えてあげられたし、自慢だって出来たのに。てっきり、君たちにも赤外線が見えると思ってたよ」
レオはそう言うと弓をしまって、跳ね橋に目を移した。
「まあ、それは置いておこう。まずやらなきゃいけないのは、この跳ね橋を下ろして進むことだね」
「でも、どうやって降ろすんだろう」
君はそう言って辺りを見るが、ボタンなど便利なものは見当たらない。
「我が破壊してもよろしいか」
ナルフはそう言って君を見た。君は首を振る。
「橋が壊れたら堀が渡れない」
君がそういったっきり、君たちの間で沈黙が続いた。
だが、何か道はあるはずである。
「そうだ」
沈黙を破ったのは君だ。
「跳ね橋ぶっ壊した後に、ナルフがノルンに教えてもらった氷魔法で堀の水を凍らせて渡るってのはどう?」
ナルフはそれを聞いて目を輝かせた。
「我が?氷魔法を使って良いと?それは本当か!」
ナルフは待てないとでも言うように落ち着きなく歩き回った。
「本気かい?それはここの城の人に喧嘩を売るって事だよ?」
それを聞いて君はうなだれた。まったくもって正論である。
「レオ殿、それは心配しなくていい」
ナルフはそう言うと城を睨んだ。
「強大な魔力と殺意を感じるぞ。それも魔力は我より強いものだ。先程から何者かが魔法を唱えてこの城中の魔物共に我々の存在を教えている。我々より先に奴らが喧嘩を売ってきている」
君はレオに目をやった。
「その、赤外線で見れないの?」
レオは首を振った。
「この城の壁のせいだろうね。でも確かに、この跳ね橋が壊せれば見えるようになると思う」
君はそれを聞いて心を決める。これしか策はなさそうだ。
「でも心の準備もしておいてね。跳ね橋を壊すってことは向こうも僕たちを襲ってこれるってことだ」
君は頷いて聖剣を抜く。エクスカリバーは君に応えるように輝いた。
レオは飛び上がると城の塀の段差の上に立ち、矢を弓に番える。
「良いか」
君とレオが頷いたのを見ると、ナルフは目を閉じた。
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登場人物紹介

エイミー、主人公、ヴァルキリーの少女。

レオ、エルフ。エイミーの仲間。顔が良い

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