第30話 話

文字数 2,195文字

「で、話って何だよ」
レオはエイミーの居る所からあまり遠くはない部屋で足を止めた。思い切り叫べば声が届く位置だ。
「本当に此処でよろしいのですか?君の大事な冒険者に聞こえるかもしれませんよ?」
「お前に殺されそうになったら困るからね」
レオがそう言うと、ギルドールはまあ良いでしょう、と言ってレオに向き直った。
「元気そうでなりより。エルヴァはあなたが居なくなったのに気づくやいなや発狂してしまいまして。大変だったんですよ」
エルヴァというのは、レオの育ての親の事であった。彼女は面倒見がよく、優しかった。逃げた後彼女がそうなることは予想してはいたものの、実際に聞かされるとレオも心が傷んだ。
「本題は?」
レオがそう言うと、ギルドールは腰をかがめてレオの顔をじっと見た。
「ロドニーの魔除けの話ですよ」
レオはビクッと体を震わせた。そして目をギルドールから外らす。
「あの冒険者ならば私が行けなかった所までたどり着くでしょうねえ。計画通りですよ。なんてったって、彼女はノームの鉱山のマスターマインドフレイヤーから生きて帰ってきた。それはエルフにとっても難しい事。それを成し遂げた彼女なら、あの魔除けまでたどり着けるかもしれないと思いませんか?」
レオはそれを聞いて後ろに飛ぶと、短剣を構えた。
「どういう事だ」
ギルドールは肩をすくめた。
「まだ分かりませんか?私があそこにマインドフレイヤーを誘導した、という事ですよ。冒険者ならばあそこは通らざるを得ないでしょうからね」
ギルドールはそう言うと、ニコリと微笑んだ。
レオの短剣を握る手が震えた。
「彼女は、そのマインドフレイヤーとか言うやつのせいで、大事な仲間を失ったって言ってたんだよ」
ギルドールはそれを聞くと、高い声で笑った。
「そうでしたか!では彼女が倒したのではない、という事ですね。まあそれも良い。身の程をわきまえて一度引くというのも良い戦術です」
「…殺す」
レオの中で怒りがふつふつと沸き立ってきた。苦しんでいる彼女の顔が今でもありありと思い出せた。ギルドールはレオの様子を見ると、首を傾げた。
「主語が分かりません、誰が誰を殺すのでしょう?言っておきますがね、レオ。あなたにはまだ私は倒せない。あ、ご安心を。神に誓ったので、私はあなたを殺しませんから。」
「なら、エイミーにこの事を言ってやるぞ。そしたらうちの女戦士とナルフィシュネがお前を調理してくれると思うね」
「ほう、ナルフィシュネ!素晴らしい、もうこの段階でそのレベルの悪魔を手懐けているとは!やはり私の読みは間違っていなかったようです」
ギルドールはパンと手を鳴らした。
「だが、レオ、良いのですか?彼女がこの事を知ったら、それはもう失望するでしょうね。自殺してしまうかもしれませんよ?それとも、彼女はあなたが私と共同してマインドフレイヤーを誘導したと思うでしょうか?」
レオはそれを聞いてはっとする。エイミーなら、ショックのあまり、本当に自殺してしまうかもしれない。それに、僕まで疑われたら?エイミーに疑われるという事は、レオには耐えられなかった。彼は唇をギリギリと噛み、短剣をゆっくりと下ろした。
それを見てギルドールは満足気に頷いた。
「では、本題に入りましょう。私は、あなたの覚悟を確認しに来たのですよ、レオ。そのために私は、他のエルフ達を裏切ってまであなたにチャンスを与えた。それに、分かってますね?もし私を失望させたら、エルヴァの命は無いと思ってください」
「…分かってるよ。必ず僕がロドニーの魔除けを手に入れるから」
「よろしい」
ギルドールはそれを聞いて大げさに微笑んだ。
「では私はもう行きます。健闘を祈りますよ、レオ」
そう言ったと思うと、ギルドールは姿を消した。
「僕は…」
レオは顔を歪めて、その場に座り込んだ。

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「遅い、あまりに遅い」
君はそう言って立ち上がった。
「ナルフ、もう良いよね。もう待ったよね。盗み聞きしに行くんじゃ無くて、ただ、遅いから様子を見に行くだけだからね」
「我も同意だ」
君はナルフがそう言ったのを聞くと、剣を持って部屋を飛び出した。この層にある部屋は6つ、ナルフと手分けをして部屋のドアを所構わず開けた。
彼を見つけ出すのに時間はかからなかった。
「レオ!」
君は、床にうずくまっているレオに駆け寄った。彼の顔からは血の気が引き、その手は震えていた。
君は彼の手を取った。
「何があったの?あのギルドールとかいう奴はもう行ったの?」
レオは君を見ると、無理に微笑んでこう言った。
「僕は大丈夫だよ、少し昔話をしていたら嫌な事を思い出しただけさ」
彼は君の肩を借りて立ち上がると、ヨロヨロと休憩していた部屋にまで戻った。
「レオ殿、無事だったか」
レオが見つかったと聞いて戻って来たナルフはそう言うと広げた翼を畳んだ。
「調子はどう?」
君が水を手渡すが、レオはそれを受け取らなかった。
「僕、少し、疲れたみたいだ。ちょっと横になれば良くなると思うから」
彼はそう言って床に倒れるようにして寝転がった。
君とナルフは顔を見合わせて、自身のローブを彼の上から布団代わりに掛けてあげた。
レオは目を閉じ、静かに顔をしかめたと思うとフイと寝返りをうって壁の方に顔を向けた。
彼はそのまま、涙の跡をひとすじ残して寝てしまった。
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登場人物紹介

エイミー、主人公、ヴァルキリーの少女。

レオ、エルフ。エイミーの仲間。顔が良い

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