第34話 玉座、の裏

文字数 3,152文字

死の魔法が唱えられてから数十秒が経過して、君は目を開けた。目の前には涙をボロボロと流しているレオの情けない顔がある。
「エイミー、無事なのか?!」
「うん、なんか、大丈夫みたい…」
君は自分のマントに目をやった。するとどうだろう。君のマントはうっすらと輝いて魔力を跳ね返しているではないか!
「ノルンさんは君に魔法耐性のマントをくれたんだったね!」
君は安堵から息をつく。まだ生きていられるのだ。
手の震えを止めると、ジグマスを睨み返す。
「痛くも痒くもない!」
君はそう叫んで剣を抜いた。
ジグマスは信じられないというように、ぎょろ目を剝き出しにして奇声を上げた。
「なんでだよぉ、何で効かないんだよぉ!おかしい、おかしい、おかしいいい!くそ、ふざけるのもいい加減に…」
彼の言葉は此処で切れた。それは、彼に向かって3つの大きな火の玉が飛んできたからである。油断していた彼にそれは見事に命中し、君たちを包んでいた闇は消えた。
「悪魔に死の攻撃は効かないと習わなかったのか?」
「ナルフ!!」
君は思わずそう叫ぶ。レオも涙でいっぱいの目を更に潤わせた。
「ママ殿、無事であったか!」
ナルフは顔ほころばせた。
「エイミー、今だよ!強い魔法の後には代償があるんだ、ナルフだっていっつも倒れてるだろ?」
レオはそう言って君のマントから出ると弓を構えた。君も頷くと走り出す。
「くそ、くそ、俺がこんなヴァルキリーなんかに…!ごふっ」
黒焦げになり床に投げ出されたジグマスは、上体を起こすが、彼の首に冷たい刃が当たった。
「これで私達の勝ち」
ジグマスは君を見て、君の刃を見て、両手を上げた。
「エイミー、何で止めを刺さないのさ!コイツは僕たちを殺そうとしてきたんだよ?」
君はジグマスに目をやる。
「でも、今はその意志は無いみたい」
ジグマスはため息をつく。
「その慈悲、敗者の俺は有り難くいただくよ。今回も負けかぁ〜。前よりは強くなったんだけどなぁ」
「今回も?」
「前に一回ヴァルキリーの女の子と戦ったんだよ〜」
彼はそういうとよいしょっと立ち上がった。レオとナルフが身構える。
「ああ、安心して〜。俺はもう魔力残ってないから」
ジグマスはそう言って手をひらひらと振った。
「それに俺は潔ぎ良いからぁ、負け惜しみはしないよ〜」
君は剣を下ろした。
「じゃ、俺は行くよ〜。あ、その前に」
彼はそう言って君にずいと近づいた。
「敗者の俺は君に情報をあげる〜。Elberethの文字を探すんだねぇ」
彼はそういうとシュッとどこかに姿を消した。

ジグマスが死の魔法を使ったお陰で、周りにいたモンスターたちは全滅していた。
「まあ、助かった、のかな?」
レオはそう言って頭を掻いた。
「流石ママ殿。魔法耐性のマントならば死の攻撃は効かぬと分かっていてレオ殿を守ったのだな」
君はまあね、と目を逸して言った。
「いや絶対分かってなかったでしょ」
レオはジト目で君を見る。君は口笛は吹けないので口をとんがらせてヒューと言った。
「ま、とにかく、城の奥の方にいっていみようよ」
「まあ、それもそうだね」
今までずっと戦いに集中していた君たちは辺りを見渡す。君たちがいる部屋は広間の様な場所で、真ん中には噴水が1つ美しく水を流していた。広間の奥には大きな木の扉があり、その両脇には松明が輝いていた。
木の扉に鍵はかかっておらず、君が押すと直ぐにキィと音を立てて開いた。
奥には暗い廊下が続いているが、奥の扉は開け放たれていた。
「橋ぶっ壊したときに奥の部屋からも来たんだろうね」
レオはそう言って廊下を歩きながら君の方を振り返った。

レオの言った通り、奥の部屋にはモンスターの気配は無かった。皆君たちを倒しにやってきたがあのデミリッチに巻き添えに殺されたのだろう。
今度の部屋は先程より幾分か広く、空の玉座が置かれていた。
壁は綺麗な装飾が施してあり、所々見事なタペストリーが掛けてあった。床は大理石で出来ており、玉座の前には赤絨毯が引かれていた。天井は高く、割れてはいたがシャンデリアがかかっており、怪しげな光を放っていた。
「ママ殿!座ってみてもよろしいか」
ナルフは玉座を見るとそう言って跳ね回った。
「ナルフ、めっ」
君が短くそう言うとナルフはシュンと頭をたれた。
「その見た目だから忘れちゃうけど、中身はヘビすけのままなんだもんね…」
レオはやれやれと頭を抱えた。そして彼の目にあるものが映る。
「君たち、玉座よりもこっちじゃないかな?」
レオはそう言って玉座の後ろに隠されるように置かれた宝箱を指差す。
「気づかなかった…」
君はそう言ってレオに駆け寄った。ナルフも後に続く。
「開けるよ?」
レオはそう言ってゴクリと唾を飲んだ。これだけの敵を倒したのだ。凄いものが入っているに違いない。
レオが宝箱の蓋を勢いよく開ける。
そして三人一斉に中を期待の目でのぞき込んだ。
「これは…」
君は中に入っているものを一つずつ取り出した。
「粉々に砕け散った緑色のガラスの破片、フルート、紫色の魔除けとカバン」
君は肩を下ろした。
「はい、フルートはレオにあげる」
「ほんとかい?」
完全ハズレのフルートをレオは意外と喜び、大事にカバンにしまった。彼曰く、エルフは楽器を演奏するのが好きなんだとかなんとか。
「ガラスの破片は置いといて、この魔除けは何か良いものかも」
レオは鑑定の巻物を取り出し、それを読んだ。
レオの顔が引きつり、手に持っていた魔除けをポイと放り投げた。
「レオ殿、それは何だったのだ?」
ナルフがそう聞くと、レオは顔を引きつらせた。
「窒息の魔除けだよ。呪われてるから一度つけたら…」
レオはそう言って首を切る素振りをした。君はヒッと声を上げる。
「付ける所だった…」
君ははぁとため息を付く。
「ハズレであったな」
ナルフはそう言って立ち上がる。
「待って待って、このカバンは良いものかもしれない。見て、私の今のカバンよりちょっと可愛い」
君はそう言ってそれを持ち上げた。レオは肩をすくめた。
「殆どおんなじじゃないか。それに、僕はもう鑑定の巻物は持ってないよ」
「多分大丈夫」
君はそう言って今自分が背負っているカバンを下ろすと中身を入れ替えた。そして前のカバンを宝箱に交換で入れる。
「これでよしと」
君は満足気に新しいカバンを持ち上げた。そして驚く。
「軽い」
レオは何言ってるんだと君を訝しげな顔で見た。
「あ、信じてないな?」
君はそういうとレオにカバンを持たせた。
「あれ?ホントに僕でも持ち上げられる」
レオはそう言って目を丸くした。
「では、全部ハズレでは無かったな」
ナルフは喜ぶ君を見てそういった。
君は新しい、保持のカバンを背負うと立ち上がった。
「この部屋で終わりかな」
レオは少し考えて首を振った。
「まだ部屋があると思うな」
「我も同意であるぞ。あのデミリッチがエルベレスの文字を探せと言っていたではないか」
君はそっかと頷く。そしてこの玉座の間を皆で手分けして探すことになった。
君はタペストリーの裏や絨毯の下を探したが、一匹のネズミ以外は何も見つけられなかった。
ナルフは名残惜しそうに玉座の周りをぐるぐると歩いていたが、ある時ピタッと歩みを止め、君たちを手招きした。
「これはドアではないか?」
ナルフはそう言って玉座の裏の宝箱が置いてあった壁を指差した。君とナルフで宝箱を動かすとレオがその前に立った。
「こんなところによく見つけたね、ナルフ。お手柄だよ」
レオはそう言ってドアを押すがビクトもしない。君はレオと場所を入れ替わりその扉を蹴って破壊した。
扉の先には先ほどとそっくりな通路が続いていた。
「今度は我が先に行こう」
ナルフはそう言って歩き出した。
「ナルフ!!」
レオは何かに気づいて顔をこわばらせるとそう叫んだ。ナルフは足を止めること無く振り向いた。

その瞬間、ナルフが君の視界から消えた。
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登場人物紹介

エイミー、主人公、ヴァルキリーの少女。

レオ、エルフ。エイミーの仲間。顔が良い

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