第14話 氷の大地

文字数 2,728文字

君たちは16層までたどり着いた。

階段を降り、またいつもどおり探索を始めようとすると、君の頭の中に言葉が浮かんできた。

(……私は、ノーン……あなたの助けがすぐに必要です……法の転送…を探し…来て……)

だが、メッセージは切れ切れで、最後は何を言っているのかよくわからなかった。
君とレオは顔を見合わせた。

「レオも聞こえた?」
君がそう聞くと、彼はうんと頷いた。
「なんか、誰かが助けを求めてるみたいだね」
「助けに行こう、是非行こう」
君がそう言うと、レオは微笑(びしょう)してやれやれと首を振った。
「君は、この前そうやって言って大変なことになったのをもう忘れたのかい?」
「あぐっ…」
君はデルフォイでの出来事を思い出す。返す言葉もない…。
「でも、僕も君に賛成だよ」
それを聞いて君はぱあっと顔を輝かせた。
「人助けは良いことだから、積極的にやるのが私のモットー」
君がそう言うと、レオは渋い顔をした。
「そんなこと言って、どうせ報酬目当てだろ?」
君はレオから目を逸した。
「ホントに人助けが好きなんだって」
「こんなにか弱いエルフがベアトラップに捕まってるのを無視しようとしておいて、よく言うねー」
レオはそう言ってやれやれと首を振った。
「結局助けたじゃん」
君は頬を膨らませた。
「まあねー」
レオはそう言うと笑った。
「何かを探せって言ってたよね」
君は頷く。そして慎重に歩き出す。


君たちは殆ど16層を探検しつくしたが、何もそれらしい物は見当たらなかった。残るは最後の一部屋だ。君たちは緊張してドアを開ける。

中には何もなかった。

本当になにもない、ただの小さな部屋である。君はがっくりと肩を落とす。
「助けたくてもこれじゃ助けられないよー」
レオもそう言ってため息を吐いた。

君は部屋に足を踏み入れた。中から見れば何かあるかもしれない。
その時だった。
君は、紫色の光に包まれ、その場から

消えた。



冷たい空気が顔に吹き付け、君はその異変に身をこわばらせた。ダンジョン内の温度設備は万端で、寒いや暑いと言ったことは滅多に無いのだ。君は恐る恐る目を開ける。

するとどうだろう!なんとそこには広大な氷の大地が広がっているではないか。

君は目を疑った。氷に覆われた湖が君の周りを取り囲んでおり、それが光を反射してキラと光った。氷は固く、驚くほどに透明で澄んでいた。奥の方はエメラルドのような深い色合いになっていて、君は思わず感嘆の声を上げる。

ゆっくりと地面にしゃがみ込むと、氷からの冷気が君の顔にかかり、それは君に故郷のノースランドを思わせた。人差し指を氷に近づけ、触れると、懐かしい冷たさが君の指を伝って体に染みた。

足元を見ると、魔法陣のような物が描かれており、淡い紫色に光っていた。君がそれから降りると、また魔法陣が光りだし、シュッとレオがその上にどこからともなく現れた。
「急に君が消えたからびっくりしたよ!」
レオはそう言って腰に手を当てる。が、直ぐにその異様な寒さに気づく。
「寒い寒い寒い」
彼はそう言いながら慌ててマントをピッタリと体の周りに巻き、ガチガチと震えだした。

君はその様子を見て、自分のマントを彼の上にかけてあげた。
「君は寒くないの?」
レオは君のマントを受け取ろうか迷っていた。

「寒いのには慣れてる。故郷に比べたら全然寒くないから、気にしないで使って」
レオはそれを聞くと、有り難く君のマントを受け取り、それを羽織った。

「ここはどこだろう」
君がそう呟くと、レオが口を開いた。
「ダンジョンの中のどこか別の場所だろうね。これがあの、何だっけ、ノーンさん?が探せって言ってたやつじゃないかな」
「じゃあ、ここを探検しないことには始まらないよね」
君は、もう一度辺りを見渡した。目の前には大理石の一本道が続いており、その奥には石でできた立派な城が立っていた。建物の裏には丘が見え、その上の噴気孔からはガスが勢いよく吹き出していた。周りの氷は溶け、水となりふつふつと泡を立てていた。

「行こうか」
君たちは目の前の一本道を進み、城に近づいた。実際に近づいてみるとそれは遥かに高く、華麗であった。壁は丁寧に磨かれた庵治石で作られており、ところどころ宝石のようなものが埋められていた。
正面にはドラゴンのノッカーが付いた立派な大扉があり、その左右にはヴァルキリーと思わしき強靭(きょうじん)な女性が二人、立っていた。二人は君たちを見るなり、頭を深々と下げると、重い大扉を軽々と開け放った。

君は中に足を踏み入れる。床には赤絨毯(あかじゅうたん)が真っ直ぐに置くまで続いており、壁には、金で縁取られたヴァルキリーの紋章のタペストリーが飾られていた。中には数人のヴァルキリーたちがおり、君とすれ違うと頭を下げた。

奥に進んでいくと、そこには玉座があり、その上には気品のある、紅蓮のマントに身を包んだ女性が座っていた。
彼女は濃い紫色の髪を綺麗に結っていたが、その頬はやつれていた。

「ああ、エイミー、私の娘、やっと運命の神社に戻って来られたのですね!私のテレパシーが聞こえたのでしょう?」
ん?君は目を丸くする。この人、自分のことを前から知っていた?
「私達のことをご存知なのですか」
彼女はそれはもう、と言って頷いた。
「ええ、知っていますとも。我らヴァルキリーの代表としてこのダンジョンに来てくださった!知らないわけがありません」
彼女はここで言葉を切った。その顔が不安と絶望で沈む。
「私たちはあなた方の助けを心から必要としているのです。その為に、ここにわざわざご招待した次第です。ですが、まずその前に。あなた方が、サーター卿と戦う準備ができているかを確かめなければなりません。私があなた方の運命を読んで差し上げましょう...。」

そう言うと、彼女は黙ってしまった。話の内容に君はついて行けなかった。神社?助け?心当たりは一つもない。レオも何も分かっていないようだ。
「見えます、あなたとサーター卿が戦っているのが見えます、エイミーとレオ。でもまだ、あなた方は準備ができていない。ああ、いけない!このまま進めばあなた方はサーター卿の手によって死ぬでしょう。あの世界へ戻るのです。そして、もっと戦いの経験を積みなさい。あなたが本物の戦士になったとき、サーター卿を倒すことができるでしょう…」
彼女はそう言うと、寂しげに笑った。
そう聞いたと思うと、視界がゆらぎ、重力がなくなるような感覚が君を襲った。



気がつくと、君はもとのダンジョンに立っていた。少しすると、君の横にレオも現れた。
生暖い風が君の髪を揺らす。準備ができていない、経験を積め、彼女はそう言った。
「まだ僕たちには早いって事しか分からなかったけど」
レオはそう言って肩をすくめた。
「うん、また戻ってこよう」

君がそう言うと、レオは大きく頷いた。
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登場人物紹介

エイミー、主人公、ヴァルキリーの少女。

レオ、エルフ。エイミーの仲間。顔が良い

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