第27話 宴

文字数 2,353文字

案内された部屋に入ると、君たちは拍手喝采で迎えられた。宿命の水晶玉を取り返し、サーター卿を倒した英雄として君たちは歓迎され、讃えられた。パーティーにはノーンは勿論、他のヴァルキリーたちも出席していた。ノーンは君たちに好きなだけ食べるように言った。君たちは有り難くお言葉に甘えることにした。
ナルフは食べる必要は無いものの、そこで出された甘いスイーツをこれほどかというほど食べた。レオは出されたお酒がよほど気に入ったようで、何杯もおかわりをした。君はというと、初めて見る食べ物を色々と試してみた。だが、人参の入っている料理だけは手を付けなかった。
「あれれ?エイミーさんは人参が嫌いなのかなー?」
レオはそう言って君の肩をバシッと叩いた。
「どう?一杯」
レオはそう言ってグラスを一杯君に差し出す。
「レオ、あなた何杯飲んだの…」
うーん、とレオは考える。
「まあ、10杯以上は飲んだかな?」
君は頭を抱えた。
「はい、もう駄目、没収」
君はそう言ってグラスをひったくる。レオはえーっと声をあげた。
「そんな事言うならナルフはどうなんだい。アイツ、僕より酔ってるよー?」
君はナルフに目を向けた。
「みゃまどのであるか?ひっく」
ナルフはレオを見てそう言った。
「ほらなー?こいつ、僕のことママって呼ぶんだよー」
レオはそう言うとナルフの肩をバシっと叩いた。
「痛いであるぞ!まみゃどの、酷いであるぞ…グスッ」
ナルフはそう言うと泣き始めてしまった。君はため息を付く。
「…レオ、何杯飲ませたの」
レオは心外だ、という顔をした。
「僕は一杯も飲ませてないよ!ちゃんとジュースにしたさ、ノンアルコールの」
君はナルフが手に持っているグラスを取り上げると、それをチビリと飲んだ。
「…ホントにスライムジュースだ…」
「ママどにょ、なにをするのだ!我のどりんくをかえすのだ!ひっく」
「シラフでここまでって凄いよね!」
レオはそう言って大声で笑い出した。君は頭を抱える。
「お楽しみのようですね、何よりです」
君は振り返る。そこにはノーンが立っていた。
彼女は美しいドレスに身を包んでおり、頬のやつれが少し戻ったように見えた。
君はまだ笑い続けているレオをバシッと叩いて鎮めると、ノーンに向き直った。
「ありがとうございます、こんなご馳走いただいたのは久しぶりです」
君はそう言って頭を下げた。
「とんでもございません、あなた方は我らの英雄なのです」
彼女はそう言って微笑んだ。
「それで、ご提案がございます。あなた方にはここで心ゆくまで休んでいただきたい。そして、出発の前に私にお知らせください。それまでに今回の報酬を用意しておきましょう」
君は目を輝かせた。
「ほ、報酬!」
彼女は、はい、と頷いた。
「では、お楽しみください」
彼女はそう言って歩き去った。君は目の前の小さく切られたケーキをパクっと口に運ぶ。
すると、君の前に、あるヴァルキリーがモジモジと現れた。
「あの、あなたがエイミー様ですか?」
君は頷く。
「わ、私はノラって言います。あの、突然で本当に申し訳無いのですが、あの、エイミー様は、レオ様と、やはりお付き合いしておられるのですか…?」
君は首を横に降った。
「唯の仲間」
彼女はそれを聞くと、後ろを振り返って、
「唯の仲間だそうよー!」
と、叫んだ。後ろで他のヴァルキリー達がキャーッと声をあげた。
「ちょっと、こっちに来てください」
ノラはそう言うと君をむんずっと掴んで、女子の輪の真ん中に立たせた。
「でもやっぱり好きですよね?レオ様イケメンですしね!!」
誰かが言った。
「いや、実は本命はナルフ様とか?クールな感じがタイプですか??」
別の誰かが叫ぶ。
「いや、えっと、二人共、仲間だけど、そういう好きではなくて…」
人前でしゃべるのが苦手な君はまごついてしまう。
「でも、レオ様はイケメンですよね?」
ノラが身を乗り出して尋ねた。君はうーんと唸る。
「まあ、顔は整っているとは思うけど」
君がそう言うと、またキャーッと大歓声が上がった。
「違うわよ!きっと誰か故郷に本命の人がいるんだわ」
誰かがそう言うと、皆が君に期待の視線を向けた。
「まあ、幼馴染は居るけど…」
「男の子ですか?」
ノラが叫ぶ。
「うん、ジェームズって言って、これをくれた子で」
君はそう言って首からオパールのネックレスを出した。
「こ、これは…」
彼女らは息を呑んだ。
「明らかに友達のプレゼントの域を超えてますよ!」
「そ、そうかな…?」
君は困った顔をして頭を掻いた。
「こらこら、エイミーをあまり困らせてはいけませんよ」
そう言ってノーンが現れた。ヴァルキリー達はノーン様、と叫んで頭を下げた。
「で、エイミー。やはり本命はレオですか?」
ノーンの言葉に君は頭を抱える。ここには恋愛バカしかいないのか。
「んー、君たち、僕の話してるなー?」
レオはそう言ってフラフラと君の肩に肘を載せた。
「ちょっとレオ、重い」
君がそう言うと、レオは頬を膨らませた。
「これくらい良いじゃんか、ケチー」
すると、レオの後ろから、一人のヴァルキリーが走ってきた。
「エイミー様、申し訳ございません!止めたのですが、レオ様がどうしてもと言うのでワインの樽を出したのですが、まさか全部飲まれるとは思ってもいなくて…!」
彼女はそう言って頭を下げた。
「気にしないで、あなたは悪くない」
君は彼女に優しく微笑んだ。そして、レオに向き直りため息を付く。
「バカレオ、もう寝ろ」
「まだまだこれからさー!」
君はレオの頭をバコッと叩いた。
「ノーンさん、せっかくパーティーまで開いていただきましたが、連れがこんなんなので、我々はもう休もうと思います。では」
君はそう言うと、レオとナルフの服を引っ掴み、引きずりながら会場を出ていった。
残されたヴァルキリー達は顔を見合わせて、最後にもう一度キャーッと声を上げた。
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登場人物紹介

エイミー、主人公、ヴァルキリーの少女。

レオ、エルフ。エイミーの仲間。顔が良い

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