第13話 デイビッドの動物園

文字数 3,211文字

目を開けると、ダンジョンの見慣れた天井が目に入った。

ゆっくりと体を起こすと、いい匂いが漂って来ることに気づく。前にも似たような事があったような…

「起きた?」
レオが何かを頬張りながら君の方に顔を向けた。
「それは?」
「バグベアの肉だよ、意外とうまい」
彼はそう言うと、君にも肉の塊を手渡した。

「私、さっきご飯食べたばっかり」
「運動の後のプロテインだと思って、ほら」
君はしょうがなく一口かぶりつく。ロッシュとはまた違う味…うん、美味しい。

「腕の調子はどうだい?」
レオに聞かれて思い出す。そういえば、槍が刺さったんだっけ。
左手の指を動かす。そして手首、肘、肩。
「うん、痛みも違和感もない」
「良かった」
レオは安心したように微笑んだ。袖をまくってみると、丁寧に包帯が巻かれていた。

「これ、レオが?」
「そう、僕が脱がせ…、って、デジャヴか」
そう言って彼は笑った。

「包帯に回復のポーションを染み込ませておいたんだよ。僕は持ってなかったから君のを拝借(はいしゃく)したけど、悪く思わないでね」
君は、ありがとう、と言って袖を戻す。

「食べ終わったら戦利品を回収しに行こう」
レオが言った。
君はお腹は空いていないはずだったのだが、もうほとんど肉の塊を食べ終えてしまっていた。レオはというと、まだ半分ほど残っているようだ。

「レオ、食べるの遅っ」
「なんだって?」
君が挑発すると、彼は慌てて残りを口に詰め込んで飲み込んだ。
彼は、どうだ、という目で君を見て、胸を張った。
「急いで食べるのは良くないんだよ」
君はそう言って、肩をすくめると、最後の一口をゆっくりと食べた。
「ぐぬぬぬぬ」
レオは頬を膨らませて立ち上がった。

「コホン。お嬢さん、戦利品は早いもの勝ちという事でよろしいですか?」
レオはそう言って弓を手にとった。
「構いませんが」
君はそう言うと、お尻のホコリを払って立ち上がる。君が鎧を着ようとすると、レオの姿が消えた。
「おっ先〜」
彼はもう親指サイズほどまで遠くに行っていた。
「アイツ…」
君は慌てて鎧を着て剣を持ち走り出す。

死体の数は減っていた。君が寝ている間に腐ったのか、レオが食べたのかは分からないが。
そういえば、レオがもう矢が無いと言っていたことを思い出し、オークの死体が握っている毒の付いた矢を9本ほど拾う。
死体に刺さりっぱなしだがまだ使えそうなエルフの矢も数本回収することが出来た。他にも、食べ物や宝石など、収穫はあった。

「レオー、どこー」
君は一通り戦利品の回収を終え、レオを探すことにした。

突き当りまで来て、目の間にドアがあることに気づき、ノブを回す。
「レオー?」
中に入ると、銀髪エルフが君に背を向けて立っていた。

彼は君に気づくと、ちょっと来て、と手招きをして前方を指差した。
「さっきの大量のモンスターたちだけど、彼奴等(あいつら)はこの部屋で寝てたんじゃないかな」
その部屋には、毛が散らばっており、食事をした後が残っていた。
「でも、あんなに沢山のモンスターが一つの部屋に固まってるなんて」
普通ダンジョンであまりモンスターが群れることはないのだ。それを聞いたレオは、入り口を指差した。
「看板を見なかったのかい?」
看板?君は一度部屋の外に出てドアの上を見上げる。


"デイビッドのトレジャー動物園へようこそ!"


「トレジャーって…宝?!」
君は慌てて部屋に走り込む。レオは部屋の隅にあった宝箱の上に足をのせて君を見ていた。一足遅かったか!
「早いもの勝ちって言ってなかったけ?」
彼はそう言うとへへんと鼻を鳴らした。

「分かった、約束は守る。今度はレオの勝ち」
君はそう言って部屋を出ていこうとした。が、彼に手首を掴まれる。
「冗談だよ、はい、一緒に分けよう」
彼はそう言って笑うと宝箱を開けた。
「いいの?」
「僕一人じゃこの人数のモンスターは倒せなかったからね」
君は困ったように笑う。彼はなんだかんだ言ってお人好しである。

二人で一斉に中を覗き込む。中には…
「ピンクのポーションと、巻物、手袋と、それに…卵?」
君はこの4つを宝箱から出して床に置く。
「鑑定の巻物を使ってこれが何のポーションなのか、巻物なのか、見てみようか」
レオはそう言って自分のかばんから巻物を取り出した。
表紙には、

"TEMOV"

と書いてある。
「それが鑑定の巻物?」
君がそう聞くと、レオは頷いた。
「僕が昔、内緒で読んだときはそうだったよ」
レオはそう言うと、声を出してその巻物を読み始めた。

「Hi na- scroll -o identifui. Im, celu -o rod plural rodyn will conn-, na identifui an object in níf -o nin!」

君は彼が何を言っているのかさっぱりわからなかった。エルフの言葉だろうか?

レオがそう言い終えると、巻物は粉になって消えた。レオは少し黙っていると、驚いた顔をして君に向き直った。

「やっぱり鑑定して良かった!見てくれ」
彼はそう言ってピンクのポーションを君の前に突き出した。
「これは空中浮遊のポーションだ!そしてこの巻物は虐殺(ジェノサイド)の!そんでもって…」
彼は手袋を持ってニヤリと笑うと、それを君に手渡した。
「ま、とにかく付けてみてくれ」
君は訝しげな目で彼を見る。まあ、悪いものではなさそうだし…付けてみるか。

綺麗に装飾されたその長手袋をゆっくりと手にはめる。両手にはめ終わると、君は指を曲げ伸ばししてみる。
「特に何も…」

その時だった。
君の体の体温が急激に上がった。心拍数が上昇し、体の奥底から力が湧き上がってきた!
「こ、これは…?」
君は混乱してレオを見た。
「力の籠手(こて)だよ!」

君はそれを聞いて頷いた。
「…試してみるか」
君はそう言ってレオの前に立つ。
「え?エイミー?何をしようと…って、待ってくれ!」
君は彼の腰を掴む。そして。
ブオン。
レオは華麗に飛んでいった。彼の体重はもとから重い方ではない上に、君の馬鹿力と力の籠手が合わさったのだ。
その後、レオは夜空の星となったのであった。

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「待ちくたびれたよ」
君は、やっと戻ってきたレオを見て、ため息を付いた。
「暇すぎてほら、私の剣はご覧の通り」
君は磨かれて新品同様にキラキラになったエクスカリバーをレオに突き出す。
「人を投げ飛ばしておいて最初に掛ける言葉がそれね…」
レオは倒れるように座り込んだ。

「疲れたよ!投げ飛ばされた先には敵がいっぱいいたけどもう矢がないしさ、短剣で戦ったけど近距離は苦手なんだよ僕!まあいい練習になったんだけど!」
彼はそう言うとへなりと床に寝転がった。
「悪かったって」
「別に怒ってませんー」
レオはそう言うとそっぽを向いた。

「このピンクのポーションあげるから」
君がそう言うと彼はため息を付いた。
「空中浮遊なんていつ使うんだよ…まあ、有り難く貰っておくけど」
彼はそう言ってポーションを丁寧にカバンに入れた。

「で、この卵なんだけど、私貰っていい?」
君はそう言って卵を手に取る。レオは、別にいいけど、いいの、と言いながら短剣を腰に戻した。
「オムレツを作りたいの」
君がそう言うと彼は頭をかしげた。
「おむれつ?」
「まあ、見てのお楽しみ」
君はそう言って卵をタオルで包みカバンに入れた。
「じゃあこの虐殺の巻物は僕が持っておくよ」
そう言って君たちは立ち上がった。


「あ、そうだ」
君は、横を歩いているレオに顔を向けた。
「これ、拾ったの」
そう言って君は彼に矢束を渡した。

彼は目を見開くと、それを手で包み込むようにして受け取った。
「僕に?」
「もう無いって言ってたから」
彼はそれを聞くとぱあっと顔を輝かせた。
「ありがとう」
レオはそう言って、空になった矢筒にそれを丁寧に入れた。

目の前のドアを君が蹴り倒す。レオももう慣れてきていた。
「あっ、下階段発見」

二人で並んで階段を降りる。
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登場人物紹介

エイミー、主人公、ヴァルキリーの少女。

レオ、エルフ。エイミーの仲間。顔が良い

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