第32話 扉の先

文字数 2,282文字

ナルフの魔法の詠唱を聞きながら、君はゴクリと唾を飲む。
ナルフがカッと目を見開いた。
「フォースボルト!!」
彼がそういった瞬間に、大量の魔力がナルフの両手から放出された。辺りが光に包まれ、衝撃音がしたと思うと、大量の砂埃が舞い上がった。それとともに、城の中からは戦いの始まりを告げる角笛とラッパが響き、ドタドタと足音や鉄をぶつける音が響く。
「このまま行くぞ。我の前に立ちはだかるものを凍り尽くせ、冷気の矢(コーンオブコールド)
そう彼が言うやいなや、辺りの空気がほんの一瞬凍り、音が無くなったと思われた。だが次の瞬間、砂埃の中で何かがキラリと光ったと思うと、大きな氷の矢がナルフの頭の上に現れ、冷気と一気に飛び出した。衝突音とピキピキという何かが凍る音が辺りをこだました。
君は砂埃の中を走り出す。そして目の前に現れた火の精霊から放たれた炎を躱しながら剣を振る。すかさず短剣を投げてもう一度剣で精霊を斬る。
君の横を矢がかすめ、精霊にドスドスと刺さる。そして精霊は塵の様に消えた。
段々と砂埃が落ち着いてきて、君は自分の目を疑った。
跳ね橋の奥に居たのは、君の目に入るだけでも数は百を超える量のモンスターたちであった。一体ずつなら君1人でも問題ないものの、この量を3人で倒すのはあまりにも無理があった。ナルフによれば、この中には彼よりも強い物がいるとも言っていたことを思い出す。
「エイミー、奴らを広間に通すな!入り口から出すな!そこで食い止めないと囲まれるぞ!」
レオはそう叫んで矢を放つ。それは巨大蟻の脳天を貫通して床にドスリと刺さって折れた。
「頑張るっ、けど!」
君はそう叫びながら目の前のミイラの両手を切断してその胸に剣を突き刺して抜く。その屍を踏んで現れたゾンビの攻撃を躱して首を刎ねる。ミイラに夢中になっていた君は、巨大蟻達が君の足元をすり抜けて後ろに回っているのに気づくのが遅れた。
しまった!
君は慌てて足に噛み付いてきた蟻を振り払おうと剣を蟻に向ける。
「落ち着け!」
レオの矢が君の後ろに回った蟻達を突き抜けてゆく。ブシュと音を出して矢が通った所から緑色の液体が吹き出したと思うと、蟻はバタリと倒れた。
蟻達が全員死んだのを確認すると君は慌てて振り返る。が、遅すぎた。
いつのまにか間近に迫っていたミノタウロスが仁王立ちで君を睨みつけながら、両手でふりかぶった斧を思い切り叩きつけてくる。君はそれを剣で受けようとするが、その動きはあまりに遅い。
間に合わない! 斧の刃先が君の目前に迫る。

「プロテクション!」
斧は君の鼻先でガチンと何かに当たって止まると、勢いよく跳ね返された。
「ママ殿、無事か!」
ミノタウルスは斧を持ち直し、もう一度君めがけてそれを叩きつけた。その瞬間、君を覆っていた魔法の壁がパリンとガラスのように砕け散った。君はそれを剣を受け止めるが、後ろにズリズリと押されてしまう。
君は苦痛の声を上げる。凄い力だ、このままでは押し潰される!

突然、ミノタウルスの力が弱くなった。君はその瞬間に斧を押し返すとその勢いで腹をバサリと斬る。血が吹き出して、それが君のマントに盛大にかかる。ミノタウルスは斧を手から落とすと傷口を抑えた。そして、君はミノタウロスの右肩に刺さっている緑色の矢を見た。その矢が刺さった所はどす黒い紫色に変色していた。
「毒矢をなめるなよ!」
レオの勝ち誇ったような声が後ろから聞こえた。ミノタウロスの首に刺さった毒矢が止めとなり、それは膝から崩れ落ち横の堀にドプンと落ちる。
君の横をすごいスピードでナルフの骨の悪魔達が通り過ぎたと思うと、それらは城の中に入っていき、敵を一気に切り裂いて、消えた。
「ママ殿、そこを避けるのだ」
君は転がるように右に移動した。その瞬間にナルフの手の上に大きな火の玉がぽんぽんぽんと三個出来上がった。
「大炎球」
彼がそう呟くと、球は城の中の敵が密集している場所に落ちた。そしてそれは物凄い爆発音とともに敵を吹き飛ばし、キノコ雲のような煙が辺りを立ち込めたため君は咳き込む。
「練習の成果が出たな」
ナルフはそう言うとガクリと膝を付いた。
「少し、魔法を使いすぎた。疲れたな…」

君も負けじとゴーレムを軽やかに斬り、上に跳ぶと、トロールに落下攻撃を仕掛けてその頭を潰した。兵隊の腕を落とし、飛んでくる槍を避け、オークを蹴り倒す。
そして君は、次に現れた敵を切ろうと足を前に出し走ろ出そうとする。

が、体が動かなくなった。
どくん、と心臓が脈打つ。
何で動かない?敵陣の真ん中で止まっていたら格好の餌だぞ!
汗がドバドバと吹き出す。息が止まりそうだ。
他の敵が一斉に君に襲いかかってきた。
君は体を動かそうと必死になるが、石になってしまったかのように言うことを聞かなかった。
ゴブリンの振り下ろした短剣が、城の兵士の突き出した槍が、ハグベアの突進攻撃が、ラッパの音が、一気に君に降り掛かってくる。
「エイミー!!」
レオの叫び声が君の耳にボワンとこだました。君はどうすることも出来ずに、目を瞑った。
その時。
シャッ、と音がして、君に襲いかかってきたモンスターの気配が消えた。
君は震える体で、ゆっくりと目を開ける。
周りには、無残にも胴体を切断されて殺された何十ものモンスターたちの死体が血にまみれて倒れていた。
これはレオやナルフの倒し方ではない。じゃあ、誰が。
何者かの、コツコツという足音が君にゆっくりと近づいてきた。
肌がビリビリとした。体は以前にまして硬直したようになっている。
「俺の客を殺されちゃたまんないからね〜」
耳に残る、不快な声がケケケッと笑った。
「城へようこそ〜、冒険者さん?」
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登場人物紹介

エイミー、主人公、ヴァルキリーの少女。

レオ、エルフ。エイミーの仲間。顔が良い

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