第35話 隠し扉

文字数 1,849文字

君は自分の目を疑った。
「ナルフ!」
ようやくそう一言叫んで、ナルフが消えた所まで近づく。
「少し驚いたな」
ナルフの声がぼわんとこだましてどこからともなく聞こえた。君は困惑して辺りを見渡すが彼の姿はない。
「あ、下だよ!」
レオはそう言って足元を指差した。
君の今立っている所から数センチのところにあったのは、ポッカリと穴の開いた床であった。床の一部がなくなり、真っ暗闇からは生暖かい風が吹き上げてきた。
バサリとナルフの翼が羽ばたす音がして、その穴から顔を出し昇ってくると、ふぅとため息を付いた。
「まさか落とし戸があるとは。レオ殿、ママ殿、気をつけると良い」
落とし戸。上に立つと戸が開き下に落とされるという罠である。他の床と区別がつかないほどに巧妙で、探すのはレオでもない限り難しいだろう。君の下の落とし戸は幅が約2メートルほどある大きなもので、飛び越えては行けないようだ。
君は頭をひねる。どうしたものか。
「そうだなぁ」
君の横でレオはそう言うと背中からカバンを下ろし小さな紫色の小包を取り出した。
「僕はこれがあるけど、問題は君だね」
レオはそう言って小さな指輪を取り出して君に見せた。その指輪には真っ赤なルビーが付いており、何やら文字が刻まれている。
そう、この間ノーンに貰った空中浮遊の指輪である。
レオはそれをするり指にはめると、ゆっくりと宙に浮き始め、気づけば落とし戸の遥か上を漂っていた。
「問題ない、我が運ぼう」
いつの間にか君の前まで上がってきていたナルフは、そう言うとひょいと君を抱きかかえた。
「あ、ずるいぞナルフ!それ僕の役目なんだぞ」
ナルフはそれには答えず、落とし戸の上を飛んで通過した。レオも頬を膨らませたまま彼に続く。
完全に先程の落とし戸を通過したのを確認すると、君はツンツンとナルフをつついた。
「もうそろそろ下ろしてもらっても?」
ナルフは君に目を向けると、承知した、と言って微笑んだ。ナルフのその細いけど鋭い目が優しく君を反射していることに気づき、君は慌てて目を逸らす。別に、かっこいいと思ったわけではない。別に、思ってない。ただ、整っているな、と。
「ほらそこ、イチャイチャするなよ!」
レオが君をナルフから引き剥がそうとするが、あっさりとナルフに避けられてしまった。レオは拗ねてそっぽを向いてしまった。
ナルフは君を降ろそうとゆっくりと降下する。ナルフの足が後少しで床に着くその時、パカッと音がして床が無くなり闇がポッカリと口を開けていた。
君とナルフは言葉を失う。後少し気づくのが遅れていれば奈落の底に落ちていたであろう。流石城だけのことはあり、防衛は徹底している。
「もう少だけこのままでお願いします…」
君はそう言って引きつった顔でナルフにギュッとしがみついた。
「何やってんのさ!もう離れてよ!」
レオはいよいよ泣きそうな顔でそう叫んだが、君たちの下の落とし穴を見て渋々納得したようだ。
「ナルフ、次からは僕を運んでくれ。エイミーには僕の指輪を貸してあげるから。そうしたら僕はこんな光景二度と見なくていいからね」
そのレオの貰った浮遊の指輪の浮遊能力は人1人を浮かせるの分しか無いため、レオは君を運ぶことが出来ないのだ。
「我はレオ殿は運ばないぞ」
ナルフはそう言って君を抱き寄せた。
「僕だって御免だけど、エイミーのためだ」
レオはそう言ってフンと鼻を鳴らし、2つ目の落とし戸の上を通り過ぎると、慎重に着地した。今度は落とし戸は無いようだ。ナルフも彼に続き、君をゆっくりと下ろす。レオは君の手をしっかりと握ってナルフから離した。
レオは急にピタリと止まると、辺りをキョロキョロと見渡し始めた。
「どうしたの」
君がそう聞くと、レオは眉を潜めた。
「なんかある気がするんだよ」
君とナルフも彼に習って辺りを見渡すが何も見当たらない。
レオはクンクンと匂いを嗅いだり、目を細めたりして、彼の横の壁を眺めていた。
少し経つと、レオは君に向き直って壁の一部を叩いた。
「隠し扉さ。これだけ慎重に隠されてるのは初めて見るよ」
レオはそう言うと、君の背中を押して扉の前に立たせた。
「よろしく」
君はため息をつくと、足を思いっきり振りかぶってドアを蹴っ飛ばした。

ドアが壊れ、崩れる音と重なって、なんだか荒い息遣いが聞こえた気がした。
その時、砂埃の中で2つの怪しい緑色の光がグオンと光った。
「え?」
君が目を見開いた。レオは顔を蒼白にして立ちすくんでいる。ナルフは君の前に盾のように立った。
劈くような唸り声に君は耳を塞ぐ。
君たちの目の前にいたのは。
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登場人物紹介

エイミー、主人公、ヴァルキリーの少女。

レオ、エルフ。エイミーの仲間。顔が良い

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