第17話 策

文字数 3,338文字

君たちはウナギを食べ終えると、一度上の層に戻って休憩をとることにした。さえぎるものがない場所だったため、寝ている間にあのウナギに襲われたらひとたまりもないからである。
レオは寝付けないようであった。彼はまだ、考え事をしていた。

「とんでもない奴って?」
君はついにいたたまれなくなってそう聞いた。レオは君に目をやった。
「あまり覚えていないんだ。めぢーさじゃなくて、めのーさじゃ無くて…。人を石に変えるって言っていたような」
レオはそう言うと空を仰いだ。
「なんだっけ」

君は何かを思い出す。人を石にする強いやつってまさか。
「レオ、それってメデューサのこと?」
「それだっ!!!」
レオはそう叫ぶと手を叩いた。
「流石だね。どこで聞いたんだ?」
「昔、誰かに本を読んで貰ったような」
君はそう言うとうーんと唸って思い出そうと試みるが失敗する。
「でも、お話は少し覚えてる」
君はレオにざっくりとメデューサの神話の話をした。

メデューサはその凝視(ぎょうし)で人を石にすることが出来た。
ペルセウスはメデューサを見ない様に、青銅鏡(あおどうきょう)の盾を使って盾で写った姿を見ながらメデューサを倒した、と。

「でも僕たちは青銅鏡の盾なんて持ってないじゃないか」
「手鏡なら持ってるけど…」
君はそう言ってレオに手鏡を見せた。これは前にニンフを倒した時手に入れたものだ。いつか使うかもしれないと思って取っておいて正解であった。
「今の僕たちじゃ手鏡越しに倒すなんて到底出来っこないだろうね…。なにか他に方法は無いんだろうか」
レオはそう言ってまた考え込んでしまった。
薄暗い部屋の中、ろうそくの明かりだけが静かに揺らいだ。

しばらくしてレオはぱっと顔を上げると、君の方に目をやった。
「前にデルフォイに行ったとき、君がノートに取った情報があったよね?あそこになにかメデューサのヒントがあるかもしれない」
君は慌ててカバンの中からノートを取り出してページをめくった。
「…あった」
前から3ページ目に、君の丁寧な字がしっかりと書かれていた。
二人は顔を見合わせ、ゆっくりとそれを声に出して読んだ。


”恐ろしいメデューサを出抜けんと思いし冒険者よ、最善のアドバイスを贈ろう。汝の目を目隠しで覆い、メデューサの姿を写す鏡を見つけることだ”


これを読むや否や、君とレオはそれぞれのカバンをひっくり返した。
「目隠しは持ってないけどタオルならある。これを代わりに使おう」

試してみる価値はあるかもしれない。レオがフッとろうそくの火を吹き消した。
君たちは明日の戦いに備えて、眠りについた。


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「…い、おーい…、おーーい、そろそろ起きてー」
君は渋々目を開けた。レオの呆れた顔が目に入る。
「どれだけ寝るつもりなのかな君は」
そう言って彼は君に昨日のウナギの残りを手渡した。
君は大きくあくびをして、それを受け取ると、手早く食べ終えて身支度を済ませた。
「行こうか」

階段を降りて、またこの海にやってくる。
メデューサがいるとしたら真ん中の島であろう。

「昨日、どうやって海を渡って真ん中の島に行くか考えてたんだ」
レオはそう言ってピンク色のポーションを取り出した。
「これを使おう」

彼はそう言うとぐびっとそれを飲み干した。
「ちょっと!」
君は止めたがもう遅い。彼は空になった瓶を床に放り投げた。
するとレオは君に向き直り、ひょいと君を抱きかかえると、彼の足が床から離れ、ゆっくりと宙に浮き始めたのである。

「覚えてないかな?これは、空中浮遊(レビテーション)のポーションだよ」
混乱している君を見て彼は笑った。
「準備はいい?」
彼は君の答えも聞かずに走り出した。水の上にまるでなにか足場があるのかのように華麗に飛んでいく。
潮風が君たちの髪を揺らし、美しい波の音が君の心を癒やした。

そして、あっという間に君たちは真ん中の島にたどり着いた!
だが、レオは一向に床に降りる気配がない。

「あの、レオ?そろそろ下ろして」
「…実は、これ、いつ効果が切れるかわからないんだ」
レオはそう言うとバツの悪い顔をした。
「まあ、短すぎて水の真上で落っこちるよりはマシだろ?」
「そんなリスクがあったの…」
君は呆れる。そして、だんだんと自分の今の状況に恥じらいを覚え始めた。

レオは君を世間の言うお姫様抱っこという持ち方で抱きかかえていた。目の前には整った顔立ちのイケメンという言葉では物足りないような銀髪エルフが君に微笑みかけている。こんなに近くで見ても欠点は何一つ見つからず、君は頬を膨らませた。透き通ったアメジストの様な瞳は優しく、その長い耳がピクリと動いた。

「…レオって意外と力あるんだね」
君は何だかいたたまれなくなって言った。
「僕も一応男だからね。女の子一人くらいは持てるよ」
彼はここで一息つくと笑って、こう続けた。
「でも君、重いなー」
…こういうところである。いくら顔が良くとも、こういうところなのである!
「ちょ、今殴られたら二人で仲良くドボンだよ!!」
レオは君の殺気を感じて慌てて言った。
「レオだけドボンってのはどう?」
君が握りこぶしをお見舞いしようとした時、レオの体が空中でグラグラと揺れ始めた。
「しっかり捕まって!」
レオはそう言うと、ぐいと君を抱き寄せた。そしてその直後、君たち、正確にはレオは、床に叩きつけられた。
君はというと、レオが下敷きになってくれたおかげで痛みはなかった。

「レオ、大丈夫?」
君は慌ててレオの上から降りる。
「少し痛いけど問題ないよ」
彼はそう言うと、腰を擦りながら立ち上がった。
「じゃあ、行こうか。メデューサ狩りに」


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君は歩いていた。真っ暗な闇の中を。

手探りでドアノブを探す。あった、ここだ。
君はゆっくりとそれを回し、ドアを押す。君の耳にシュルシュルと蛇がうごめくような音が届く。

今だ!!

君は手鏡を持った右手を前に突き出す。そしてそれを色々な方向に向ける。
君が鏡を右側に向けた突如、一度うめき声がして蛇の音が聞こえなくなった。


君はゆっくりとタオルを目からを外す。
初めは光で目がくらむ。段々と目がなれてくると、君は、狭い石壁の部屋の真ん中に、石になったメデューサを見た。
「レオ!成功だ!」
君が叫ぶと、どこからともなくレオが現れ、スタッと君の横に着地した。
「やったね!君の情報のおかげだ」

君たちの作戦はこうであった。目隠しをし、メデューサを見ないようにした状態で、鏡を突き出す。すると、メデューサは鏡で反射された己の石化凝視を食らって石になってしまうというものである。

「案外あっさりだったね」
君がそう言うと、彼は肩をすくめた。
「巨大ウナギに殺されそうになった上に溺死のリスクを負ってまで海を渡り、考え抜いてやっとメデューサを倒したんだ。これを君があっさりと言うなら別として」
「確かに」

メデューサがいた部屋は他のダンジョンの部屋とあまり変わらなかった。違いといえば、部屋のあちこちにモンスターの石像が置いてあるということだろう。部屋の真ん中には、予想通り、下の層へ行く階段があった。君が早速下に行こうとすると、レオが君を呼び止めた。
「これ見てくれ」
レオはそう言って一つの石像を指差した。それは他のものとあまり違わないように見えるが、よく見ると人の形をしていた
手には丸い盾を持っており、驚愕の顔のまま固まっている。
その丸い盾は変わっていた。ピカピカに磨かれた銀色のシールドで、縁には綺麗な装飾が施されている。顔を覗かせるとそれは鏡のように君の顔を映した。

「君が言ってた、青銅鏡の盾ってやつかも」
レオはそう言うと、まさかね、と言って笑った。君はその盾と石像をもう一度凝視した。
「案外間違いではないかも」
君はそう言ってレオを手招きし、盾の裏に刻まれた文字を見せた。

「Perseus」

「ペルセウスって、君が話してくれた神話に出てきたやつじゃないか。じゃあこれはやっぱり、青銅鏡の盾だったんだ」
君は頷く。そして彼の苦痛と驚きに歪んだ顔を見ないように目を背けた。
「行こう」
レオはもう少し像を観察したいようであったが、君の様子を見て渋々ついて来た。

君たちは階段を降りる。
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登場人物紹介

エイミー、主人公、ヴァルキリーの少女。

レオ、エルフ。エイミーの仲間。顔が良い

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