第18話 へびすけ

文字数 2,471文字

17層の階段のある部屋は暗く、一寸先も見えないほどの闇であった。君とレオは背を合わせ、レオは短剣を、君は片手直剣を手に辺りを警戒した。

モンスターの気配は無いようであった。
君はランプを取り出そうと背中のカバンを下ろした。

「待って!なにか音がしないか?」
君は慌てて耳を澄ませる。するとどうだろう、確かに少しだけ、ピキッと言う音が鳴ったような気がした。
「近いぞ」
君はカバンは床に置いたまま、また剣を手に取り構えた。すると今度は、また、先程よりも確実に、君とレオはそのピキッという音を聞いた。
が、モンスターの気配は依然として無く、何かが襲ってくる気配も殺気も感じない。

君はもう一度剣を鞘に収め、カバンからランプを取り出そうと手を突っ込んだ。


かぷり


「??!?!」
「どうした?大丈夫か!」
君は声にならない悲鳴を出してカバンから手を抜く。レオは辺りを警戒しながら君の隣に膝をついた。

「か、噛まれた」
君はやっとの思いでそう言った。
「噛まれた?手を見せて」
レオは君の手を取るとじっくりと眺めた。確かに人差し指の先端の方に噛まれたような小さな穴が2つ付いているが、血は出ていなかった。

レオは君の手をそっと下ろすと、今度は君のカバンに目を向けた。
「開けるよ」

彼はそう言うと、一気にカバンの口を開いた!
すると中から何かが飛び出して、君の顔面にぶつかった。
「?!?!!?」
君はその勢いで後ろに倒れる。レオは慌てて君の顔に張り付いている何かを取ろうと試みる。が、この闇の中でそれは簡単ではなかった。
「先にランプ出しても大丈夫?」
「…うん、なんか、絡まってるだけで、噛まれたりはしてないけど、なるべく早く」
君の顔に、ヌメヌメとした細長いものが顔に巻き付いている。虫は苦手ではないほうだが、さすがの君でもこれは気持ち悪い。

ぱっと、目の前が明るくなる。レオはランプを床に置くと、君の顔の物を見て笑った。そして、ゆっくりと、だが丁寧にそれを外してくれた。

それは、子供の蛇であった。

子供の蛇と言っても、長さは君の頭を一周できる程度で、だが太くはなく、そのまだ白っぽい皮はやはり生まれたてなのだろう。
「な、なんでカバンの中から蛇が」
君はカバンを確認する。するとどうだろう、トレジャー動物園で見つけた、オムレツにしようと思っていた卵が、殻だけになっているではないか。

「卵が、(かえ)った」
君は呆然として言う。まさか、卵から蛇が生まれるなんて誰が予想しただろう。
その蛇は嬉しそうに、君の頬を長細い舌でペロペロと舐めていた。
「君のことママだと思ってるんじゃない?」
君は座り込んだまま蛇に目をやる。蛇は嬉しそうにキューと鳴いた。

「…よろしく、ヘビすけ」
「まさか飼うの?」
レオは目を見張った。
「君なんかが世話したらすぐに死んじゃうんじゃ…」
「なにか言った?」
「何も」

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その後、君たちはヘビすけとダンジョン攻略に励んだ。ヘビすけはすぐに居なくなって何事もなかったかのように小動物の死体を咥えて帰ってきた。戦いのときはカバンの口をきつく締めて中に入れとかなくては、飛び出して殺されそうになるのだ。穴に落ちそうになったり、石の下敷きになりそうになったり、危なっかしいヘビすけの面倒を見るのは一筋縄(ひとすじなわ)ではなかった。実際、攻略の効率は確実に下がっていた。

「なあ、ヘビすけ、捨てたほうが良いんじゃないか…」
レオのこの一言を聞いて、君は彼に軽蔑(けいべつ)の目を向けた。
「生まれたばかりのヘビをこの罠だらけのダンジョンに捨てるって、最低」
「でも、効率が悪すぎるよ。こいつは僕たちと旅するには弱すぎる」
「じゃあ、強くなるまで育てる」
君はそう言って、ふん、と鼻息を出した。
「どれだけ時間がかかるのかな…」
レオはため息を付いて、肩をすくめた。

そういえば、ヘビすけの姿が見当たらない。君は慌てて辺りを見渡す。すると、まだ探索していない部屋に勝手に入っていこうとするヘビすけが目に入った。
「あ!そっちだめ!!」
君は慌ててそう叫ぶ。だが、小さくて素早いヘビすけはドアの下をすり抜けどんどんと君たちを引き離していく。
君たちは走ってヘビすけの後を追う。レオの方が先にドアにたどり着き、その部屋のドアを押し開けた。

広い部屋だ。レオは飛ぶように走りヘビすけを捕まえようと試みる。が、突如(とつじょ)彼は足でブレーキをかけて叫んだ。
「だめだ!そこにトラップがあるぞ!!」
時既に遅し。君は後ろからヘビすけの体が緑色の光で包まれるのを見た。
ヘビすけの足元で三角模様が使われた魔法陣が怪しく光った。ヘビすけはその場から少しも動けず固まっていた。
「レオ!」
君が叫ぶと、レオが魔法陣に走り、ヘビすけに手を伸ばす。
「痛っ」
バン、とレオの手が見えない壁に跳ね返された。その反動で彼は後ろに尻もちを付く。
「これはレベルの高いトラップだ!!発動したら僕でももう止められない!」
「そんな…!」

君はヘビすけのそばに膝をつく。魔法陣の光は段々と強くなり、中の動けないヘビすけの周りを取り巻く。
ヘビすけと出会ってまだ2日も経っていないが、君の目には涙が溢れる。私は、また、仲間を失うのか。
「離れろ!」
レオは魔法陣の変化に気づき、君を抱き上げて後ろに跳んだ。その直後、鈍い爆発音とともに、光が飛び散った。レオが君を庇うように抱き寄せ、君は反射的に目を瞑る。


段々と光が収まってきた。君は恐る恐る目を開ける。だが、霧のような靄が辺りに広がっており、先は見えなかった。
「ヘビすけ…」
君はそう呟くとヨタヨタとあるき出した。すると、君の目に、ぼんやりと何者かのシルエットが浮かぶ。
「ヘビすけ?!」
君は目を擦る。そして、そのシルエットに走り寄る。
「待って!もっと慎重に!」
レオがそう叫ぶが、君は聞く耳を持たずに走り出す。彼は君が止まらないのを見ると、矢を番えてそのシルエットを狙った。

近づくにつれて、その姿は段々とはっきりしてきた。そして、君が目にしたのは。


レオよりも背が高い、漆黒の翼を生やした青年であった。
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登場人物紹介

エイミー、主人公、ヴァルキリーの少女。

レオ、エルフ。エイミーの仲間。顔が良い

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