第28話 出立

文字数 2,504文字

君たちはその後、3日ほどノーンの城に泊めてもらった。その間は毎晩宴が開かれ、君たちは歓迎された。誰も此処の城を去りたくは無かったが、君は日に日に急いで進まなければという衝動に駆られた。レオは君に賛成だった。ナルフも、行くにせよ留まるにせよ君についていくと言った。
君はノーンに発つことを伝えると、彼女は君たちに食べ物と新しいマントを用意してくれた。
「エルフのマントほど良いものではないかもしれませんが、あれほど焼け焦げてしまっているものよりはマシでしょう。これでも我々が準備できる中で最上級の物を用意させて頂きました」
君とレオはそう言われて自身のマントに目をやる。火蟻や巨人、サーター卿と戦った時はレオが君のマントを着ていたため、君の木のシールドほど真っ黒く焼け焦げていないものの、所々破れ、ボロボロと言うには十分な状態であった。ナルフのマントは焦げてはいないものの君の古いお下がりだったため新しい物を欲しがっていた。
君たちの目の前に、三人のヴァルキリー達がそれぞれの荷物と新しいマントを運んできた。君の前にはノラが緊張した表情で立っており、ノーンの合図でゆっくりと君に近づいてカバンを手渡した。君は、食べ物が追加され少し重たくなったカバンをしっかりと背負った。次に君は渡された真紅のマントをまじまじと眺める。それには美しい金の刺繍がとても丁寧に施されており、光を受けてキラリと輝いた。
「エイミー様には、魔法耐性のクロークを用意させて頂きました。この先さらに進むとなると不可欠かと思い、私がノーン様に提案した次第です。お気に召すとよろしいのですが」
ノラはそう言って、恥ずかしそうに手を後ろで組んだ。君は微笑んでありがとう、というと、そのマントを丁寧に羽織る。
「凄く素敵です…」
ノラはそう言って手を口に当てて感嘆の息を漏らした。君はレオに目を向ける。
レオが貰ったのは明るい緑色の素晴らしいマントだった。レオはそれを見ると跳ね回って喜んだ。
「新しいマントだって?最高だよ!」
レオはボロボロのマントを畳んで床に置くと、新しいマントをバサリと羽織った。
するとどうだろう!レオの身体がぼんやりと揺らぎ、別の場所に彼が現れたではないか!
「レオ様には幻影のクロークを用意させて頂きました」
ノラはそう言って胸を張った。
「凄いかっこいいと思わないかい?」
レオはそう言うと君にポーズを取ってみせた。だが幻影のせいで君にはあまり見えなかった。
君たちはナルフの方に目をやると、彼はもうそれを羽織っていた。それは紫色のような藍色のようななんとも美しい色で、君もつい見とれてしまった。
「ナルフ様は魔法攻撃がお得意だとお伺いいたしましたので、魔法詠唱時に成功率が上がるローブを用意させて頂きました」
「有り難くいただこう」
ナルフはそう言うと、彼のローブと荷物を持ってきたヴァルキリーに優しく微笑みかけた。
ヴァルキリーはその顔を見て顔を耳まで真っ赤にしたと思うと空気が抜けたかのようにヘタリと座り込んでしまった。
ノラは君たち全員が荷物を受け取ったのを確認すると、床に座ったままのヴァルキリーを引っ掴み3人ともいなくなってしまった。
「今のはノラとここのヴァルキリー達からの感謝の気持ちです。そして、私からもあなた達に贈り物を授けましょう。まずは、レオ」
レオはビクッと姿勢を正し、カクカクしながらノーンの前に跪いた。
「これをあなたに」
ノーンはそう言ってレオに小さな指輪を手渡した。その指輪には真っ赤なルビーがついており、角度を変えると夜空の星星のように輝いた。
「付けてみなさい」
レオは一度息を吐くと、慎重にその指輪をはめた。
その時だった。
レオの足が床からゆっくりと離れたと思うと、彼は宙に浮き始めたではないか!
「これは浮遊の指輪ですね?これがあれば水の上でもいつ効果が切れるかビクビクしなくて良いんだね」
レオはそう叫ぶと、クルクルと空中で回転してみせた。そして指輪を外し、スタッとノーンの前に着地すると頭を下げた。
「ありがとうございます」
ノーンはそれを優しい目で見ていた。
「ナルフ、次はあなたですよ」
ナルフは顔を上げると、静かに立ち上がり、ノーンの前に立った。
「あなたは今、どんな魔法が使えますか」
ノーンの問いかけにナルフは少し考えると、口を開いた。
「我が使えるのはフォースボルト、ファイヤーボール、プロテクション、そして召喚獣の魔法だ」
「では、あなたには、新しい魔法が習得できる魔法書の贈り物で如何でしょう」
ナルフはそれを聞くと目を輝かせた。
「是非それでお願いしたい」
ノーンはそれを聞いて頷くと、ヴァルキリーを一人呼んで彼女になにか囁いた。
少しすると、そのヴァルキリーは手に一冊の魔法書を持って戻ってきた。
「ナルフ、あなたには冷気の魔法書を授けます。これが役に立つことがあるでしょう」
ナルフはそれを受け取り一礼すると、静かに下がった。
「最後はあなたですね、エイミー」
君はノーンの前に進み出た。彼女は君を見ると微笑んで、新しい盾を手渡した。
「何があったのかは想像できませんが、あなたの盾はもう殆ど煤のようではありませんか。これはあなたが今持っているのと同じ、ヴァルキリーの特注品です。使ってください」
君が盾を受け取る前に、ノーンは此処で言葉を切って、彼女の前に大切に置いてある宿命の水晶玉をそっと手に取り、君の前に差し出した。
「これもあなたに授けましょう」
君は自分の耳を疑った。
「ですが、それは、あなたが命よりも大事だと仰っていたものなのでは…」
「良いのですよ」
ノーンは君の言葉を遮ってそう言った。
「サーター卿が居なくなった今、これはもう必要ないのです。ですが、運命を読む力は取り除かせて頂きました。この力はあまりに危険すぎる。さあ、ロドニーの魔除け探しに戻るのです。我々一同、テュール様の祝福を願っております」
君は宿命の水晶玉を丁重に受け取ると、それを割れないようタオルで包んでカバンに入れた。
君たちはヴァルキリー達は君たちの出発を悲しみ、祝福した。
そして君たちは歓声のなか城を出て、ポータルまで戻ってきた。
そして、君たちは、紫色の光に包まれる。
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登場人物紹介

エイミー、主人公、ヴァルキリーの少女。

レオ、エルフ。エイミーの仲間。顔が良い

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