第26話 休息

文字数 1,583文字

レオは男湯に向かった。
ドアを開けると、ナルフがレオを見たが、直ぐに視線を戻した。
「ママ殿ではないのか」
「…どういう意味だよ」
レオはため息をついた。
「そのままの意味である。子が母親と一緒に風呂に入るのは当たり前であろう」
「説明しなくていいよ。それにお前、もう子って見た目じゃ無いんだよ」
レオはバシャンとお湯に入った。
「きもちー」
レオはそう言って、置いてあったドリンクを口に運んだ。
ナルフはレオをじっと見ていたが、ついに口を開いた。
「レオ殿は、ママ殿の事がスキなのか?」
レオは口のドリンクをブーっと吐き出して、むせた。
「何だよ急に!びっくりするじゃないか!」
「違うのか」
ナルフは顎に手を当ててうーんと唸った。
「だが、レオ殿、顔が赤いぞ」
「のぼせたんだよ!」
レオはそう叫んだ。そしてはぁ、と息を吐いた。
「僕はね、ナルフ、彼女のことはそういう風には思ってないよ。仲間としては大事だし、それに、す、好きだけど…。仲間としてね?!」
彼はここで言葉を切った。
「それに、彼女には殆ど許嫁みたいな男がいるんだよ。そいつは優しいし、何より彼女のことがホントにずっと前から大好きなのさ。僕なんかが出る幕じゃない」
レオはそう言って深い溜め息をついた。ナルフはじーっとレオの横顔を見つめる。
レオはその視線に耐えられずにそっぽを向いた。
「お前はどうなんだよ」
「我?勿論ママ殿の事は好きであるぞ。育てて頂いたのだ」
レオはそれを聞いて頬を膨らませた。
「僕だってお前のこと育ててたんだよ?卵のお前を見つけたの、僕だからね、言っとくけど」
ナルフは、何も言わずに風呂から出ていった。レオは肩をすくめる。
彼は、ナルフがいなくなったのを確認すると、小声でこう付け足した。
「僕は、君の事を好きになんてなったらいけないんだよ…。だって、僕は、君を…、だましてるんだから」
彼はここで言葉を切って、もう一度ため息をついた。
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君は風呂から上がり、部屋で一人座っていた。
こうして一人でいると、昔の事を思いだす。
村で唯一両親をなくした君は、ジェームズの家で一緒に育てられた。
彼の両親は君と彼を二人とも分け隔てなく愛した。君も幸せだった。
だが君は、君のせいで彼と彼の両親が村の他の人たちに嫌がらせを受けていることに気づき、一人暮らしを初めたのだ。
ナルフにママ殿と呼ばれるたびに、自分の母親の事を思い出そうとする。だが頭に浮かぶのは唯の空白だった。彼女の顔も、匂いも、声も、何一つ君の中には残っていない。自分を5歳まで育ててくれた両親のことも思い出せずに、何を自分はのうのうと生きているのだろう。
君はため息をつく。こんな事を考えるために座っていたのではないのだ。
「わっ」
君は背中をぱっと叩かれて振り返る。そこにはレオが立っていた。
「考え事邪魔しちゃったかい?」
君は首を横に振った。
「ママ殿、聞いていただきたい」
ナルフもレオに続いて部屋に戻ってきた。
「レオ殿が、ママ殿の事が好きではないと」
「おい、ちょっと!僕そんな事言ってないよ?!」
レオは慌てて弁解する。君はレオの様子をぽかんと見ていた。
「レオ、私の事嫌いだったんだ…」
君はわざとらしく泣き真似をして、手で顔を覆い隠した。
「いや、違うんだよ!えっと、僕は、君の事、その…、仲間として、好きだよ?な、仲間としてね?」
君は手の隙間からレオを見た。彼は顔を真っ赤にして慌ただしく動き回っている。
「レオ、私の事好きなの?」
「仲間としてね?!」
レオは叫ぶ。君はそれを聞いて笑った。
「私も好きだよ、仲間として」
君はそう言って、ねー、とナルフを見た。
ナルフは君たちのやり取りをじっと見つめていたが、ノーンのヴァルキリーが君たちを宴会に招きに来たため君たちは立ち上がった。
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登場人物紹介

エイミー、主人公、ヴァルキリーの少女。

レオ、エルフ。エイミーの仲間。顔が良い

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