第12話 隠し扉
文字数 2,695文字
君たちは慌てて階段を降りる。
「ちょっと待って、レオ、なんでそんなに急いでたの?」
君がそう尋ねると、レオは弾む息を落ち着かせてから答えた。
「泉の精が出てきた泉が消えてたんだよ」
君はなるほど、と頷いた。それはトンズラしてきて正解である。あのオラクルだ。泉が一個無くなったなんて分かればいくら請求されるか分かったものではない。
助けてもらっておいて恩返しも何もできなかったが…。また今度、生きていれば戻ってこよう。
君は今居る部屋に目を向けた。
ただの部屋である。大きくもないが小さくもない、他の層の部屋と特に何の変哲 も無い部屋である。ただ、一つ言うことがあるとすれば、
「扉がない」
君はそう言ってもう一度部屋を見渡す。うん、無い。
「嘘だろ、閉じ込められた?」
レオはそう大げさに言った。君たちは顔を見合わせて、笑った。
「手分けして探そう」
このダンジョンには、隠された扉や道が存在することがあるのだ。
レオはトラップや隠し扉を探すのが得意であった。そしてやはり、最初に扉を見つけたのはレオであった。
「あった、ここだ」
レオはそう言うと、他と何の変わりもなく見える壁の一部を指差した。確かに叩いてみると、他の壁と音が違う。
レオはそれを押したり引いたりしてみるが、扉はびくともしない。確かにここがドアなんだけどな、とレオは頭を掻く。
「力弱っ」
君がそう言うと、彼はムッとした顔をしたが、ニヤリと笑った。
「君、結構前に蹴りでドアが粉々になるとか言ってたよね?是非、見せてもらうよ!ハッタリを謝るなら今だけど?」
レオはそう言うと、フフンと笑った。
「ちゃんと見てなさいよ」
君はそう言うと、ドアの前に立った。そして、足を後ろに引いて、力を込める。
「それっ」
だぁあああああん!!!
衝撃音と共に煙が舞い上がった。レオは思わず咳き込む。
煙が落ち着いてくると、視界が晴れてきた。
「まじかよ…」
彼の目に写ったのは、粉々に砕け散った無数のドアの破片と、その奥に続く一本の道であった。
「謝るなら今だけど??」
君がそう言うと、レオはうっと息をつまらせる。
「バカにして悪かったよ…」
「よろしい」
君は満足気に頷いた。
レオは頬を膨らませてうつむいた。この馬鹿力め…。
その時、彼の長い耳に、ある音が聞こえてきた。
君はずっとうつむいたままのレオを心配そうに眺めた。そんなにドアを壊したのが衝撃だったのか?
「その、レオ?」
「静かに」
君の言葉はレオの一言によって遮 られた。彼のその声からは焦りが感じ取れた。
「数は、10…、いや、20はいる!敵だ!こっちに向かってくる!」
初めは何も聞こえなかったが、だんだんと足音と唸り声が近づいてくる事に気づいた。
「そんな、さっきまではなんにも…」
「きっと寝ていたところを起こされたんだろうね」
レオはそう言って君をチラと見る。
…まさか、さっきのドアキックの所為 か?
「ご、ごめん…」
「あれは僕も悪かったよ、けど今はこっちが先だ」
レオはそう言って立ち上がると、矢を何本か掴み、弓に番えた。
君はそれを見てうなずくと、聖剣を柄から取り出し、構える。
「私が前衛で戦う。援護を」
「了解した」
レオはそう言うと、マントのフードを深くかぶった。すると彼の姿は部屋の壁と同化して、消えたかのように見えた。
…もしかしたら本当に消えたのかもしれない。
君は前に向き直る。今は心強い仲間がいる。
角笛の音が、もうそこまできていた。
「行くよ!」
君はそう言って走り出した。
通路はあまり広くなかったが長く続いていた。初めにこちらに向かってきたオークの腕を切り落とし、首をはねて止めをさす。すかさず、次に迫ってきた狼男の攻撃を躱しながら剣を腹に突き刺して、抜く。
目の前に現れたバグベアの攻撃を盾で受け止め、その手を切り落とす。するとそれは一度雄叫びを上げ、君に向かって突進してきた。
君がそれを横に移動して避けた刹那 、君の左手に槍が飛んできて突き刺さった。君は唸り声を上げながら、急いでそれを抜いて床に投げ捨てた。奥を見ると、次の槍を君目がけて投げようとしているケンタウルスの姿が目に映った。
後ろからはまたさっきのバグベアが君に向かってくる。どちらかを避けたらどちらかに当たるのは確実である。君は焦る。
その時だった。
バグベアが音を立てて倒れたと同時に、ケンタウルスも槍を手から落として苦しんでいる。ケンタウルスの手首に刺さっているのは…
「エルフの矢、レオ!」
ヒュンヒュンと銀色の矢が君の横を通り過ぎて敵に命中していく。レオは壁の装飾の上に座って次の矢を番えながら叫んだ。
「まだ生きてる!油断するなよ!」
君は慌ててバグベアに目をやる。バグベアは、背中に刺さっている矢を雄叫びと共に抜くと、また立ち上がった。
君は左手のシールドを投げ捨てると、左腕の槍傷を服を破った布できつく縛った。右手のエクスカリバーが鈍く光った。
君はバグベアの股の間に滑り込むと、その太ももを切り裂いた。それが血を吹き出して膝から崩れ落ちたのを横目で確認すると、レオの矢が刺さったのとは反対の手で槍を構えているケンタウルスのもとへ走った。槍を器用に左右に躱しながら近づいて、その首を落とす。
「伏せろ!!」
レオの声だ。君はとっさに転ぶようにして伏せる。すると、君の頭の上ギリギリを魔法攻撃、マジックミサイルがかすめた。
「た、助かった…」
直撃していたら即死だったことは容易に想像できた。飛んできたほうを見ると、魔法使いのノームがマジックミサイルの杖をふりかざし、もう一度使おうとしているのが見える。
「あの魔法野郎は任せろ!」
レオはそう叫ぶや否や、矢を3本放った。ノームの魔法の詠唱が止まる。
君はノームから視線を外す。そして、すかさず君目がけて飛んでくる殺人蜂を切り殺す。
「レオ!後どのぐらい残ってる?」
「敵はあともう少しだ! 僕の矢はあと4本しかないけど!」
遠くからレオの声が聞こえる。レオが見ているモンスターで全てではないかもしれない。
「残りは私がやってみる! 矢はなるべく温存しておいて」
君はそう叫ぶと走り出した。木のゴーレムを蹴り飛ばすと、その上に飛び乗って剣を突き刺す。剣を抜いてゴーレムを踏み台にヴァンパイアの上半身を切断する。
「そいつで最後だ!」
レオの言葉を背に、ゾンビの首に剣を振るう。スパーンと音がして首が飛んだと思うと、ゾンビの肉体はドロドロと溶けて、消えた。
沈黙が君たちを包む。
「や、やった…」
君はそう言うと膝から崩れ落ちるように倒れた。疲労からか、体に力が入らなかった。
レオの足音が近づいてくるのが聞こえる。
「やったね…って、その怪我!おい、大丈夫か!!」
意識が遠のいていく。
「ちょっと待って、レオ、なんでそんなに急いでたの?」
君がそう尋ねると、レオは弾む息を落ち着かせてから答えた。
「泉の精が出てきた泉が消えてたんだよ」
君はなるほど、と頷いた。それはトンズラしてきて正解である。あのオラクルだ。泉が一個無くなったなんて分かればいくら請求されるか分かったものではない。
助けてもらっておいて恩返しも何もできなかったが…。また今度、生きていれば戻ってこよう。
君は今居る部屋に目を向けた。
ただの部屋である。大きくもないが小さくもない、他の層の部屋と特に何の
「扉がない」
君はそう言ってもう一度部屋を見渡す。うん、無い。
「嘘だろ、閉じ込められた?」
レオはそう大げさに言った。君たちは顔を見合わせて、笑った。
「手分けして探そう」
このダンジョンには、隠された扉や道が存在することがあるのだ。
レオはトラップや隠し扉を探すのが得意であった。そしてやはり、最初に扉を見つけたのはレオであった。
「あった、ここだ」
レオはそう言うと、他と何の変わりもなく見える壁の一部を指差した。確かに叩いてみると、他の壁と音が違う。
レオはそれを押したり引いたりしてみるが、扉はびくともしない。確かにここがドアなんだけどな、とレオは頭を掻く。
「力弱っ」
君がそう言うと、彼はムッとした顔をしたが、ニヤリと笑った。
「君、結構前に蹴りでドアが粉々になるとか言ってたよね?是非、見せてもらうよ!ハッタリを謝るなら今だけど?」
レオはそう言うと、フフンと笑った。
「ちゃんと見てなさいよ」
君はそう言うと、ドアの前に立った。そして、足を後ろに引いて、力を込める。
「それっ」
だぁあああああん!!!
衝撃音と共に煙が舞い上がった。レオは思わず咳き込む。
煙が落ち着いてくると、視界が晴れてきた。
「まじかよ…」
彼の目に写ったのは、粉々に砕け散った無数のドアの破片と、その奥に続く一本の道であった。
「謝るなら今だけど??」
君がそう言うと、レオはうっと息をつまらせる。
「バカにして悪かったよ…」
「よろしい」
君は満足気に頷いた。
レオは頬を膨らませてうつむいた。この馬鹿力め…。
その時、彼の長い耳に、ある音が聞こえてきた。
君はずっとうつむいたままのレオを心配そうに眺めた。そんなにドアを壊したのが衝撃だったのか?
「その、レオ?」
「静かに」
君の言葉はレオの一言によって
「数は、10…、いや、20はいる!敵だ!こっちに向かってくる!」
初めは何も聞こえなかったが、だんだんと足音と唸り声が近づいてくる事に気づいた。
「そんな、さっきまではなんにも…」
「きっと寝ていたところを起こされたんだろうね」
レオはそう言って君をチラと見る。
…まさか、さっきのドアキックの
「ご、ごめん…」
「あれは僕も悪かったよ、けど今はこっちが先だ」
レオはそう言って立ち上がると、矢を何本か掴み、弓に番えた。
君はそれを見てうなずくと、聖剣を柄から取り出し、構える。
「私が前衛で戦う。援護を」
「了解した」
レオはそう言うと、マントのフードを深くかぶった。すると彼の姿は部屋の壁と同化して、消えたかのように見えた。
…もしかしたら本当に消えたのかもしれない。
君は前に向き直る。今は心強い仲間がいる。
角笛の音が、もうそこまできていた。
「行くよ!」
君はそう言って走り出した。
通路はあまり広くなかったが長く続いていた。初めにこちらに向かってきたオークの腕を切り落とし、首をはねて止めをさす。すかさず、次に迫ってきた狼男の攻撃を躱しながら剣を腹に突き刺して、抜く。
目の前に現れたバグベアの攻撃を盾で受け止め、その手を切り落とす。するとそれは一度雄叫びを上げ、君に向かって突進してきた。
君がそれを横に移動して避けた
後ろからはまたさっきのバグベアが君に向かってくる。どちらかを避けたらどちらかに当たるのは確実である。君は焦る。
その時だった。
バグベアが音を立てて倒れたと同時に、ケンタウルスも槍を手から落として苦しんでいる。ケンタウルスの手首に刺さっているのは…
「エルフの矢、レオ!」
ヒュンヒュンと銀色の矢が君の横を通り過ぎて敵に命中していく。レオは壁の装飾の上に座って次の矢を番えながら叫んだ。
「まだ生きてる!油断するなよ!」
君は慌ててバグベアに目をやる。バグベアは、背中に刺さっている矢を雄叫びと共に抜くと、また立ち上がった。
君は左手のシールドを投げ捨てると、左腕の槍傷を服を破った布できつく縛った。右手のエクスカリバーが鈍く光った。
君はバグベアの股の間に滑り込むと、その太ももを切り裂いた。それが血を吹き出して膝から崩れ落ちたのを横目で確認すると、レオの矢が刺さったのとは反対の手で槍を構えているケンタウルスのもとへ走った。槍を器用に左右に躱しながら近づいて、その首を落とす。
「伏せろ!!」
レオの声だ。君はとっさに転ぶようにして伏せる。すると、君の頭の上ギリギリを魔法攻撃、マジックミサイルがかすめた。
「た、助かった…」
直撃していたら即死だったことは容易に想像できた。飛んできたほうを見ると、魔法使いのノームがマジックミサイルの杖をふりかざし、もう一度使おうとしているのが見える。
「あの魔法野郎は任せろ!」
レオはそう叫ぶや否や、矢を3本放った。ノームの魔法の詠唱が止まる。
君はノームから視線を外す。そして、すかさず君目がけて飛んでくる殺人蜂を切り殺す。
「レオ!後どのぐらい残ってる?」
「敵はあともう少しだ! 僕の矢はあと4本しかないけど!」
遠くからレオの声が聞こえる。レオが見ているモンスターで全てではないかもしれない。
「残りは私がやってみる! 矢はなるべく温存しておいて」
君はそう叫ぶと走り出した。木のゴーレムを蹴り飛ばすと、その上に飛び乗って剣を突き刺す。剣を抜いてゴーレムを踏み台にヴァンパイアの上半身を切断する。
「そいつで最後だ!」
レオの言葉を背に、ゾンビの首に剣を振るう。スパーンと音がして首が飛んだと思うと、ゾンビの肉体はドロドロと溶けて、消えた。
沈黙が君たちを包む。
「や、やった…」
君はそう言うと膝から崩れ落ちるように倒れた。疲労からか、体に力が入らなかった。
レオの足音が近づいてくるのが聞こえる。
「やったね…って、その怪我!おい、大丈夫か!!」
意識が遠のいていく。