学園入学 2
文字数 1,677文字
生まれつき解析ができない人間を解析不能者と呼ぶ。
それ自体に蔑視するような意味は本来ないのだが、誰もが当たり前に可能なその行為ができない者を指すということで蔑視の意味合いで使う人は多い。
どんなに勉強しても練習しても、努力では決してどうにもならない解析不能者は、数万人に一人くらいの割合で存在するという。生まれつき目や耳が正常でない人と同じように、自然に生まれてくるものだ。
ヒナはその解析不能者だった。
早い子ならば学校に行く前から出来るようになる解析が、学校に行き始めてからも出来なかった。両親は、正式に解析不能者だという判断が下された頃にはヒナに興味を失って、下の妹に目をかけるようになっていた。
ヒナは、家にも学校にもどこにも居場所がなかった。
そんな彼女を遠い親戚だと名乗り出た誰かが引き取ると言い出した時、両親は反対しなかった。口では「ヒナがいいなら」と言いつつも、その態度は顕著に彼女を差し出したそうにしていた。引き止める言葉など最後まで出なかった。
解析不能者を抱えた家族も、周りからそういう目で見られることが多い。何の後ろめたさもなくそれを手放せるなら両親も別れを望んでいるのだ、というのが言外に伝わってきて。
だからヒナも断らなかった。
悲しみは沸かなかった。
そして次の未来へ不安を抱えるほど、今が幸せでもなかった。
付き合いなんてほとんどない、どういう人かもわからない遠い親戚(と相手が言っているが両親はまともに確認もしてなかったらしいので真偽は定かでないままだ)に引き取られることになった。
その人が解析先進国である遠い地ダーラの、しかも首都であるイデーラに住んでいると聞いた妹などはしきりに羨ましがっていた。田舎であるヒナの住んでいた街からは想像もできない都会の方だったから。単に都会への憧れが強い子ども故の無邪気な言動だが、ほぼ親に捨てられるような状態の姉に対して羨ましがる妹を見てもヒナは何も思わなかった。
今の家族がなくなり、新しい誰かもわからない人と家族になるだけ。
今の家族だって血のつながりが濃いというだけで、他に何の安寧もなかったのだ。この先にどんな不幸が訪れても受け入れる覚悟だけ、した。
そんな状態でイデーラまでやってきたヒナは、新しい保護者の家に着いた翌日には保護者に言われるまま学園へと入学手続きに来た。
そこで声をかけてきたのがサクヤで、自己紹介をした今現在に至る。どうせすぐバレるのだからと自分から解析不能だと伝えたら、さっきの実演を希望されたのだ。
「解析不能でこの学園に入れるって珍しいね」
「そうなの? 私、昨日イデーラに来たばかりで……」
たまたま入学する日が同じになったサクヤという少女は、すらっとした体躯に整った顔で、同じ歳とは思えない落ち着きがあるとても綺麗な子だった。明るめの茶髪に同色の目で、身なりや所作で見るからにどこかのお嬢さんといった風格がある。
学園は随時入学を受け入れているらしく、学期始めでなくても自分たちのような入学者は多い、と教えてくれたのもサクヤだった。
手続きの間に二人並んで待っている状態で、こそこそと雑談をする。
解析不能者だと知った後もサクヤは普通に接してくれていた。故郷ではこんな同年代の少女はいなかったから、サクヤの態度はヒナにはとても斬新に映った。
「そうなんだ。じゃあこの学園がどういうとこかもまだ知らないってことか」
「うん……私を引き取ってくれたおじさんが、入るように用意してくれたみたいで」
昨日初めて会った新しい保護者の青年は、おじさんと呼ぶにはちょっと見た目が若すぎるような気がしたけれど、保護者となる相手をお兄さんと呼ぶのもおかしい気がしてヒナはとりあえずおじさんと呼んだ。遠い親戚という話だったがどういう繋がりかはわからない。少なくとも見た目は全く似ていない。
ただ、悲壮な未来への覚悟を決めてやってきたけれど、昨日初めて会ったその人はとても優しい態度と口調で、初めて挨拶した時にはその穏やかな様子にちょっと拍子抜けしてしまったほどだった。
それ自体に蔑視するような意味は本来ないのだが、誰もが当たり前に可能なその行為ができない者を指すということで蔑視の意味合いで使う人は多い。
どんなに勉強しても練習しても、努力では決してどうにもならない解析不能者は、数万人に一人くらいの割合で存在するという。生まれつき目や耳が正常でない人と同じように、自然に生まれてくるものだ。
ヒナはその解析不能者だった。
早い子ならば学校に行く前から出来るようになる解析が、学校に行き始めてからも出来なかった。両親は、正式に解析不能者だという判断が下された頃にはヒナに興味を失って、下の妹に目をかけるようになっていた。
ヒナは、家にも学校にもどこにも居場所がなかった。
そんな彼女を遠い親戚だと名乗り出た誰かが引き取ると言い出した時、両親は反対しなかった。口では「ヒナがいいなら」と言いつつも、その態度は顕著に彼女を差し出したそうにしていた。引き止める言葉など最後まで出なかった。
解析不能者を抱えた家族も、周りからそういう目で見られることが多い。何の後ろめたさもなくそれを手放せるなら両親も別れを望んでいるのだ、というのが言外に伝わってきて。
だからヒナも断らなかった。
悲しみは沸かなかった。
そして次の未来へ不安を抱えるほど、今が幸せでもなかった。
付き合いなんてほとんどない、どういう人かもわからない遠い親戚(と相手が言っているが両親はまともに確認もしてなかったらしいので真偽は定かでないままだ)に引き取られることになった。
その人が解析先進国である遠い地ダーラの、しかも首都であるイデーラに住んでいると聞いた妹などはしきりに羨ましがっていた。田舎であるヒナの住んでいた街からは想像もできない都会の方だったから。単に都会への憧れが強い子ども故の無邪気な言動だが、ほぼ親に捨てられるような状態の姉に対して羨ましがる妹を見てもヒナは何も思わなかった。
今の家族がなくなり、新しい誰かもわからない人と家族になるだけ。
今の家族だって血のつながりが濃いというだけで、他に何の安寧もなかったのだ。この先にどんな不幸が訪れても受け入れる覚悟だけ、した。
そんな状態でイデーラまでやってきたヒナは、新しい保護者の家に着いた翌日には保護者に言われるまま学園へと入学手続きに来た。
そこで声をかけてきたのがサクヤで、自己紹介をした今現在に至る。どうせすぐバレるのだからと自分から解析不能だと伝えたら、さっきの実演を希望されたのだ。
「解析不能でこの学園に入れるって珍しいね」
「そうなの? 私、昨日イデーラに来たばかりで……」
たまたま入学する日が同じになったサクヤという少女は、すらっとした体躯に整った顔で、同じ歳とは思えない落ち着きがあるとても綺麗な子だった。明るめの茶髪に同色の目で、身なりや所作で見るからにどこかのお嬢さんといった風格がある。
学園は随時入学を受け入れているらしく、学期始めでなくても自分たちのような入学者は多い、と教えてくれたのもサクヤだった。
手続きの間に二人並んで待っている状態で、こそこそと雑談をする。
解析不能者だと知った後もサクヤは普通に接してくれていた。故郷ではこんな同年代の少女はいなかったから、サクヤの態度はヒナにはとても斬新に映った。
「そうなんだ。じゃあこの学園がどういうとこかもまだ知らないってことか」
「うん……私を引き取ってくれたおじさんが、入るように用意してくれたみたいで」
昨日初めて会った新しい保護者の青年は、おじさんと呼ぶにはちょっと見た目が若すぎるような気がしたけれど、保護者となる相手をお兄さんと呼ぶのもおかしい気がしてヒナはとりあえずおじさんと呼んだ。遠い親戚という話だったがどういう繋がりかはわからない。少なくとも見た目は全く似ていない。
ただ、悲壮な未来への覚悟を決めてやってきたけれど、昨日初めて会ったその人はとても優しい態度と口調で、初めて挨拶した時にはその穏やかな様子にちょっと拍子抜けしてしまったほどだった。