圧倒的制圧 1
文字数 1,868文字
レイと名乗った青い髪の青年は、見た目はケセドと変わらないか少し若いくらいの男だ。
さっき振り向いた顔は整っていたように思う。
ケセドと同じくらいに綺麗な顔だ。
この辺ではあまり見ない、指先まで完全に隠れてなお余るほど袖丈の長い、飾りも多くついた珍しい上着を着ていて、全体的にダーラにはまずいない、異国感の漂う雰囲気がある。実際に異国から来たヒナですらここまで服装は浮いてないだろう。どこから、いつの間にここに現れたのかはわからないが、こんな目立つ人が近くを歩いていたら、興味はなくても視線が奪われそうだった。
それくらい目立っている。
「このままじゃいつ終わるかわかんねーし、ちょっと助けてやるか。な、っと」
言いながらレイが片手を上げる。袖に覆われたその手の先にブワッと解析と思われる文字列が数え切れないほど現れた。それは追いかけるのも難しい速度で手の先から周囲に広がっていく。
「早い……補助機器もないみたいなのに、あんな展開処理速度あり得るの?」
それを見ていたサクヤがポツリと呟いた。
昨日の夜サクヤが見た、ケセドのそれよりも見た感じ早い。
レイの方は二人の方を見ることなく何かを続けている。ただその間も、独り言なのだろう、ずっと声は聞こえてきた。
「直に接続してもいいけど後が面倒だから塔経由で入るか……あーこりゃ混乱してんなー。さっさと立て直せよなぁ。やりづらっ、じゃーもう塔もいいや」
物理経由干渉に切り替え、と言ったレイの周りにある文字列の一部がすっと地面に流れ込む。
その瞬間に地面が一部隆起した。
手のある場所まで隆起した地面の先端に、レイの手が触れる。
「さっすが解析先進国ダーラ。ケセドの手入れしてる首都。街中にもネットワークが敷いてあるから便利だなー」
言いながらレイが手を動かすと地面から何かが引っ張り出されるように流れ出すのを、さらにレイの出す文字列が囲って、もう彼の周囲は解析による表示で埋め尽くされ始めている。
レイの姿が掠れるほどに。
「もー今更バタフライエフェクトもねーだろし。この場は早く終わるほうが確実だよ、なっと」
レイの周囲で何かが起き続けている。
目にも留まらぬ速度で、解析の何かがずっと動き続けている。
それをぼうっと見ていたヒナは、強く手を握られて隣を見た。
サクヤがじっとレイの方を見たまま、無意識なのか、かなり強く手を握ってきている。
「サクヤ?」
「あんなの、あんなのおかしい。あんな速度であんな量、人間にできることなの……?」
小さく問いかけたヒナに、かすれた声でサクヤが独り言のような言葉を返した。解析がわからないヒナにはわからない何かがサクヤにはわかっているらしい。
そしてそれに酷く恐れを抱いている、ように感じる。
「よし新しいジャミングとダミー用意完了」
その言葉と同時、レイの周囲に広がっていた解析の何かが全部ふっと消えた。
「じゃーもうサクッとあれ消すか。今のケセドじゃいつまでかかるかわかんねーし」
地面から視線を外したレイが見るのは、空の上。
そのまま何かをしようとしたレイが、ふっと何かに気づいたような様子で、身動きせずにずっとそばにいる二人の方に視線を向ける。ここまで何を言っていいか悪いかもわからずに、声をかけずずっとレイを見守っていたヒナたちを一瞥し、その口元が小さく笑う。
「もうしばらくおとなしくそこにいてくれ。流石に今動かれたら、何かあっても守りきれないかもだから」
「はい、あの」
「待ってな。もう終わる」
声はかけてくれたけれど、ヒナたちの返事も聞かず。
すっとレイが片手を空に向けた。
長い袖がめくれて、白く長い指の手が現れる。
その指がすっと宙を動くと、その後を追うように光の筋が伸びる。光の筋がくるりと一周して円を描き出した、その縁の内側が光り、周囲にまた文字列や記号、図形がぶわっと広がる。さっきレイの周りに広がっていたよりも更に複雑なそれは、目に追えない速さで一点に収束した。
光の円に。
「全部消えちまえ」
つん、とレイの指先が光の円に触れる。
「アインのパスより強制権利生成。自壊誘発型ウイルス実行」
音もなく円から光が空に伸び、そこに広がる何かを突っ切って空の果てまで伸びて消えた。
巨大な空の何かに、地上からほんの一筋刺さっただけの光。
しかしその光の周囲からボロボロと崩れるように空にあるそれが壊れ始める。それは水面に広がる波紋のようにざあっと周囲へと広がり、端まで届いた頃には空には何も無くなって。
いつも通り。
何も無い静かな空が広がっていた。
さっき振り向いた顔は整っていたように思う。
ケセドと同じくらいに綺麗な顔だ。
この辺ではあまり見ない、指先まで完全に隠れてなお余るほど袖丈の長い、飾りも多くついた珍しい上着を着ていて、全体的にダーラにはまずいない、異国感の漂う雰囲気がある。実際に異国から来たヒナですらここまで服装は浮いてないだろう。どこから、いつの間にここに現れたのかはわからないが、こんな目立つ人が近くを歩いていたら、興味はなくても視線が奪われそうだった。
それくらい目立っている。
「このままじゃいつ終わるかわかんねーし、ちょっと助けてやるか。な、っと」
言いながらレイが片手を上げる。袖に覆われたその手の先にブワッと解析と思われる文字列が数え切れないほど現れた。それは追いかけるのも難しい速度で手の先から周囲に広がっていく。
「早い……補助機器もないみたいなのに、あんな展開処理速度あり得るの?」
それを見ていたサクヤがポツリと呟いた。
昨日の夜サクヤが見た、ケセドのそれよりも見た感じ早い。
レイの方は二人の方を見ることなく何かを続けている。ただその間も、独り言なのだろう、ずっと声は聞こえてきた。
「直に接続してもいいけど後が面倒だから塔経由で入るか……あーこりゃ混乱してんなー。さっさと立て直せよなぁ。やりづらっ、じゃーもう塔もいいや」
物理経由干渉に切り替え、と言ったレイの周りにある文字列の一部がすっと地面に流れ込む。
その瞬間に地面が一部隆起した。
手のある場所まで隆起した地面の先端に、レイの手が触れる。
「さっすが解析先進国ダーラ。ケセドの手入れしてる首都。街中にもネットワークが敷いてあるから便利だなー」
言いながらレイが手を動かすと地面から何かが引っ張り出されるように流れ出すのを、さらにレイの出す文字列が囲って、もう彼の周囲は解析による表示で埋め尽くされ始めている。
レイの姿が掠れるほどに。
「もー今更バタフライエフェクトもねーだろし。この場は早く終わるほうが確実だよ、なっと」
レイの周囲で何かが起き続けている。
目にも留まらぬ速度で、解析の何かがずっと動き続けている。
それをぼうっと見ていたヒナは、強く手を握られて隣を見た。
サクヤがじっとレイの方を見たまま、無意識なのか、かなり強く手を握ってきている。
「サクヤ?」
「あんなの、あんなのおかしい。あんな速度であんな量、人間にできることなの……?」
小さく問いかけたヒナに、かすれた声でサクヤが独り言のような言葉を返した。解析がわからないヒナにはわからない何かがサクヤにはわかっているらしい。
そしてそれに酷く恐れを抱いている、ように感じる。
「よし新しいジャミングとダミー用意完了」
その言葉と同時、レイの周囲に広がっていた解析の何かが全部ふっと消えた。
「じゃーもうサクッとあれ消すか。今のケセドじゃいつまでかかるかわかんねーし」
地面から視線を外したレイが見るのは、空の上。
そのまま何かをしようとしたレイが、ふっと何かに気づいたような様子で、身動きせずにずっとそばにいる二人の方に視線を向ける。ここまで何を言っていいか悪いかもわからずに、声をかけずずっとレイを見守っていたヒナたちを一瞥し、その口元が小さく笑う。
「もうしばらくおとなしくそこにいてくれ。流石に今動かれたら、何かあっても守りきれないかもだから」
「はい、あの」
「待ってな。もう終わる」
声はかけてくれたけれど、ヒナたちの返事も聞かず。
すっとレイが片手を空に向けた。
長い袖がめくれて、白く長い指の手が現れる。
その指がすっと宙を動くと、その後を追うように光の筋が伸びる。光の筋がくるりと一周して円を描き出した、その縁の内側が光り、周囲にまた文字列や記号、図形がぶわっと広がる。さっきレイの周りに広がっていたよりも更に複雑なそれは、目に追えない速さで一点に収束した。
光の円に。
「全部消えちまえ」
つん、とレイの指先が光の円に触れる。
「アインのパスより強制権利生成。自壊誘発型ウイルス実行」
音もなく円から光が空に伸び、そこに広がる何かを突っ切って空の果てまで伸びて消えた。
巨大な空の何かに、地上からほんの一筋刺さっただけの光。
しかしその光の周囲からボロボロと崩れるように空にあるそれが壊れ始める。それは水面に広がる波紋のようにざあっと周囲へと広がり、端まで届いた頃には空には何も無くなって。
いつも通り。
何も無い静かな空が広がっていた。