お茶会 1

文字数 1,772文字

「とりあえず、説明するけど、冷めちゃうしまずこれ飲もう?」
「うん」
 カフェラテを自分の方に取りつつ言うサクヤに、もう片方のお茶を取りつつヒナは頷く。どっちもまだ湯気が出ている状態で、カップに触れると熱いくらいだ。
 三段になった皿の上には、それぞれに形の違う菓子が乗っている。食べたことどころか見たこともないような綺麗な菓子は、本当に食べていいのかちょっと戸惑うくらいに可愛い。
 サクヤに合わせて一口飲んだお茶は、ほどよい甘さで美味しかった。
「さっきので、ヒナも支払いをしたことになるのはわかったよね」
「うん。でもサクヤとはちょっと違ってたね」
「そう。私のは認証が走ってないけど、ヒナのやつは認証が走ったんだよ。それもたった今ケセド様がちゃんと確認して認証をしてくれたやつが。リアルタイム認証、略してリアタイって呼ばれてるやつね。ケセド様にはもう何をいくらで買ったか全部伝わってて、あの場で認証して支払ったのもケセド様だよ」
「ええ〜っ」
 その場にいないままで支払う、ということが俄かに信じられないけれど、マスターも支払い確認したということはそれは全部事実なのだろう。
 解析の感覚もないヒナには、何がどうすればそれが出来るのかも分からないのだけど。
 驚くヒナにサクヤは話を続ける。
「ケセド様は全部リアタイ認証するって言ってたでしょ? つまりヒナが何か買う時は全部ケセド様がその場で確認してくれてるから、仮にもし支払いたくないものだったらケセド様の認証が来なくて支払いができない。つまり買うことは出来ないってこと」
「じゃ、じゃあ無駄遣いはしないように見張られてるのね?」
 全て見張られてると思うことに、不安感より安心感があるのは、自由に使っていいという状態に慣れないから。
 端末を見つついうヒナに、サクヤは苦笑いで首をかしげる。
「うーん……どうだろうね。上限ないとも言ってたし、さっきも言ったようにケセド様には普通の金銭感覚があるかも怪しいからなぁ。よっぽど酷い金額のものじゃない限り、全部認証してくれそう」
「そんな、高い買い物なんてしないよ」
 今までですら買い物の経験もあまりなく、この国の通貨の感覚もまだ分からないけれど、それでも普通に高いと言われるような買い物をする気は起きない。ずっと暮らしていた家があまり裕福な方でなく、両親が言い争う時はお金の問題が多かったせいかもしれなかった。
 このお茶とお菓子ですら安くはないと聞いてハラハラしているのに、自由にしていいと言われていたってこの端末で好き放題買い物する自分は想像できない。
 そこまで考えた時に、ハッとヒナは気づく。
「も、もしこの端末を落としたりとかしちゃって……他の誰かが勝手に使ったりしたら」
 財布などで大金が入っている時に当然に浮かぶ心配事だ。だが物理的に中身に上限がある財布と違ってこの端末となると、不安はさらに肥大する。
 おじさんに会って最初にもらったのがこの端末だが、使ったことがないからわからないことだらけだ。
 一応、通信方法は教えてもらったけれど、昨日から今日にかけてあまりゆっくり会話する時間はなかったので、他に何ができるのかは後で説明すると言われていた。
「大丈夫。端末に誰が触っているかはログでわかるし、しかもリアタイ認証なら他の誰かが使おうとした瞬間ケセド様にバレちゃうよ。その後は本人登場……はなくても、速攻で警備隊か何かが送られて犯人確保されると思う」
「そうなんだ」
「この端末は解析の技術の塊だし、しかもソレはケセド様のだからね。機能もスペックも、私の端末とは比較にならないやつだろうし、渡すからにはケセド様だってヒナが使うって想定してるだろうから、ヒナが心配することは何もないと思うよ」
 暗に、解析不能者が使うことは想定されてるだろう、というサクヤの言葉に、それはそうだとヒナも思う。
 おじさんが本当にそんなすごい人だったとしたら、ヒナ程度が想定するような問題なんて全部どうにかする手段を事前に確保しているだろう。仮に事前に想定がなくても、実際に何かあった時にはどうにかできるのかもしれない。
 最上級の解析士。
 普通の解析士だって色んなことができる凄い存在なのに、その一番偉い人。
 ああだこうだと何も知らないヒナが思うのは余計なお世話かもしれない、ということだ。
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