圧倒的制圧 3

文字数 1,669文字

 ちょっとだけ沈黙した後、レイは腕を組んでため息をつく。
「誰かさんの予測で、ケセドが暴走しイデーラが壊滅する未来が出た。基本的に俺たちは国政だの戦争だのには与しないしイデーラ壊滅はどうでもいいが、セフィラの暴走となったら問題は異なってくる。それを阻止するための確実な布石として、ヒナちゃんを助けた。話せるのはコレだけだな」
 俺自身は別にここがどうなろうが知ったこっちゃなかった、とレイは言い捨てた。
 間違いなく恐ろしい事を含む内容を喋っているのに、決して悪ぶってるわけでもなく、内容を嘆く様子も深刻な様子もなく、まるで昨日の天気の話をしているような様子で。彼は決して冷酷には見えないけれど、本当に興味が無さそうな様子は演技にも思えない。
 遠い世界の物語の結末でも語るような、そんなよそよそしさ。
 完全に他人事を喋るような熱の無さで、話し続ける。
「もしヒナちゃんが普通の子なら俺がここまで出張ることはなかったかもなんだけどな、解析不能者じゃ遠隔から確実に助けるのは難しい。周りに他に丁度いいのもいなかった。しかもあんな規模の攻撃だし。一番確実な方法をとった」
「空のあれを消したのは」
「うん? ついでに。まぁ、サービス? 暴走のきっかけではあるから、あのまま放置ってのもな」
 サクヤの言葉に、いやー面倒臭い疲れた、と言いつつレイが笑う。
 道に落ちていたゴミを捨てた、そんななんでもない事のように話している。
 街中の誰もが動揺していたあれをたった一人でどうにかした男は、その行為自体はなんの意味も見出していないようだった。二人を助けたという事を認めつつも、恩に着せる様子すら見せない。
 本当に、大した事をしたつもりがないと考えている。
「正直何が一番きつかったって、あんなもん消すより、ケセドのねちっこい監視掻い潜って潜伏すること……おっと」
 話している途中でレイが口を噤んでヒナの方を見た。
 その数瞬後にヒナの持っている端末が何もしていないのに起動し、周囲に解析の文字や図形が動き出す。それも単純なものでなく、さっきレイが広げていたような複雑さのものが一気に広がっていく。
 それを見てレイが片手を振ると、レイの周囲にも解析のそれが一瞬で現れふわっと広がる。
「もう出てきたか。じゃー俺はここで失礼するよ。他に何か知りたいならヤツに聞いてみればいい。答えるかは知らんけど」
「え、待って」
 思わず引きとめたヒナの言葉を聞いたかもわからないタイミングでレイの姿が消えた。同時にレイが広げていた解析も。
 後には何も残っていない。
 一瞬でレイとその周囲の解析全部が消えた。
「嘘。単独で転送処理までするのあの人……しかも一瞬ってそんな」
 それを見てサクヤが呆然と呟いた。
 が、その間にもヒナの周囲に広がっている解析の展開の方は更に細かく複雑になっていく。何がどうなってるんだろうと、とりあえず解析の何かの処理を続けている端末を見ていたヒナだったが、いきなり背後から抱きしめられて「ひゃっ」と小さな悲鳴をあげた。
 一瞬サクヤかと思ったが、サクヤは目の前にいて、その目はヒナ……のちょっと上に向けられている。
 何を見ているかはすぐわかった。
「ヒナ、無事だね?」
「あ」
 知っている声。
 顔だけ振り返れば、現在の自分の保護者がいた。さっきまで背後には誰もいなかったのに、明らかに実体を持ったケセドがヒナを抱きしめている。
 どっからどう現れたのか。
 一瞬浮かんだ疑問は、けれど今さっきレイが目の前から消えた事で、なんとなくそういう解析なのだろうという結論に繋がる。ヒナには信じられないけれど、それはきっと可能な事なのだ。
 だから、レイは消えたし、ケセドが現れた。
「け、せど?」
「すぐに助けられなくてごめん。ヒナが無事でよかった」
 見上げた先、泣きそうな顔のケセドに、確かめるような動きで頭を撫でられて、何を言っていいかわからずヒナは返事の代わりにそっとケセドの手に触れる。
 突然のことで、二人を見るサクヤも何も言わない。
 しばらく二人はそのまま、互いに触れ合っていた。
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