お茶会 3

文字数 1,426文字

 お互いの飲み物が残り少なくなって。
 もう一杯同じものをお代わりして空いた皿は下げてもらった後に、サクヤが自分の端末を再度動かして何かを表示させた。どこかで見たような建物が映っている。それが、ついさっきまで自分たちがいた学園のそれだと気付くのにちょっと時間がかかった。
 どうやら学校案内か何かのようだ。
 建物の画像のそばには、説明が書かれているけれど、それは表示が小さ過ぎてパッと見ただけでは読めない。
「それでね。なんかヒナは知らなそうだから説明するんだけど。学園の話。あの方から聞いてる?」
「全然。これから通うように、としか」
「だよねぇ」
 表示させたのは単に話のきっかけだったようで、ちょいちょい、と指先で画像を操作してサクヤが画面を閉じた。
 そして話始める。
「あの学園は、このイデーラの街で一番入るのが難しい学校。この国唯一の、国直轄の学校なのね。表向きは誰にでも開かれているんだけど、ある教育に特化してるから、どうしても入りたいって人が多くて、人気が偏ってるの」
「ある教育?」
「解析士よ。あの学園はこの国で最も解析士を輩出してる。解析に関しては、この国だけでなく近隣含めても一番情報が集まってて教育水準が高い学校だって言われてる。だからこそ、世界中から解析士になりたい子たちが集まってくる学園でもある。つまり」
「…………解析不能者は普通入らない、のね」
「そゆこと」
 ちょうどマスターが持ってきた飲み物を受け取って一口飲んでから、サクヤが頬杖をつく。
「入っちゃいけないなんて決まりはない。ただ、普通に入るとすごくお金もかかるし、学校で学べることが解析士に特化してて他の職種の勉強はし難いから、解析不能者が入るメリットはものすごく低い、と思うし、だからなんでだろうって最初私も思ったんだけど」
「だけど?」
「あの方が保護者ってなると、逆に納得したかも」
 しみじみとした様子でそう言われても、ヒナにはよく分からない。じっとサクヤの顔を見て続きを促すヒナに、サクヤは綺麗な茶色の目を瞬かせて続けた。
「あの学園は国直轄。つまり実質あの方直轄とも言える。この街の他の学校に入られるよりは、何かあった時に色々助けやすいってのはあるんじゃない? まぁ他の学校でもあの方に干渉できない場所はないと思うけど、一番何かしやすいのはやっぱりあの学園だと思うのよ」
「何かあった時、って」
「うーん……経験はあると思うけど、この街だって、解析不能者に対しての差別とか、無いわけじゃないってこと」
「あぁ」
 ここまでのサクヤの態度で忘れかけていた。
 長く自分の身に降りかかっていた多くの嫌なこと、それは殆ど全部ヒナが解析不能者だからこそ発生していた。
 被害者意識とかそんなんじゃなく、単なる原因と結果の関係として、ヒナはそれを認識している。過去に、両親を含め多く現れた一見ヒナを無意味に貶めたり虐めたり嬲ったりする者たちが、全員その理由を「こいつは解析不能者だから」と考えていることを理解している。
 最初からの弱者。
 そういう人間たちの行為が正しいと、今でもヒナは思わない。
 けれど、そういう人間たちに、ヒナの声は届かない。いつだって届かなかった。いつしか声を出すのもやめた。
 先進国と呼ばれるこの場所でも、そういうことは消えないらしい。
 この世界は、解析不能者に優しくできていないこと。国が、街が変わってもそれが消えるわけじゃないのだと改めて教えられたヒナは小さくため息をついた。
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