昼食の乱入者 1

文字数 1,894文字

 昼食の時間になって、お弁当を持ってきていない二人は早速施設内にある食堂に向かった。
 購買で買ってきて教室で、という方法もあったけれど、あんな自己紹介をした結果として周囲から遠巻きに見られている状態で、自然と一緒に教室から離れて食事する方に流れた。
 ヒナは食事に関してもケセドから「しっかり食べるように」と言い含められている。これまでの生活の影響もあって、体型という以前の問題でヒナの体は華奢だった。
 無理して食べることはないけど、とケセドは笑っていたけれど、変に金銭面で遠慮して安く済ませようとすれば何か言われそうな雰囲気はあって、とりあえずしばらくはサクヤと同じように食べようと思っていたから、当たり前のように二人で食事する流れはありがたかった。
 何しろ支払いは全部見られているので、食べた内容は誤魔化しようもない立場だ。変に心配させない為にも、普通に食事した方がいいだろう。
「学園の食堂はだいたいどれも美味しいってお父さん言ってたよ」
「そうなんだ」
 話しながら着いた食堂には既に多くの学生がいて、食事を受け取る場所には行列が出来ている。
 座席は生徒の数より多く用意されているらしいので埋まる心配はない、らしい。
「ここは単なる学校の食堂じゃなくて、国の行事の時とかにも使われる場所だから、広く作られてるんだよ」
 学園の中も同じように、時に国際的な会議などで使用する前提で作られているから大講堂などが多いのだそうだ。そういう日には学園は休みになったり、生徒は手伝いに駆り出される、らしい。
 厨房直結の受付で注文をして、ちょっと離れた同じく直結の提供場所で食事を受け取り、その先にある会計で支払いを済ますのだとサクヤが教えてくれた。受付から会計まで、流れるように進めるから人数の割にスムーズに列は進む。
 サクヤが中に詳しいのは、彼女の父がこの学園出身だかららしい。このイデーラの街にいる解析士の多くは学園出身なのだという。異国は少数派だが、国内でもかなりの遠方から学びにやってきてこの街に居着く者も多いらしい。
 食堂のメニューの多くは名前からしてヒナがよく知らない料理だったけれど、この食堂で出している料理は全部、ダーラでは珍しくない内容の料理らしい。サクヤから内容に関して教えてもらってどうにか注文を終え、料理を受け取り支払いする場所に行く。
 食堂の職員が差し出す端末に、昨日のカフェのように自分の端末をかざして、昨日と同じように一瞬光が走った。
「えええええええええ!!!??」
「ひゃあっ!?」
 突然背後からの大きな声にびくっと驚いて振り返ったヒナは、自分を……否、自分の持つ端末を凝視する少女を見つける。
 それもただの凝視じゃない。
 ものすごく間近にまで迫ってきての凝視。
 濃い茶の髪を後ろで一つに束ねたその少女はヒナの顔を見ることもなく端末を見ている。教室では見かけなかった。ヒナたちは一番下の学年なので、この相手は当然先輩、だろう。その人は鋭い目をヒナの手元に向けたままで、何やらブツブツと呟きはじめる。
「今のはリアタイ認証……しかもこっちの受信から認証が来るまでほとんどタイムラグのない処理……なにこれなにこれなにこの端末」
「あ、あの」
「リアタイで処理してる向こう側の認証の速さは当然なんだけどそれを携帯端末でここまで早く送受信処理できるってのはどういうことなの内的な認証処理速度も見るからに異常これは誰の作ったものなのどういうスペックなの」
「あのー!」
 ヒナの声が聞こえていない。
 会計の前で、先に進もうともせずにずーっと端末を睨んでぶつぶつと何か言っている少女の背後には、待機の行列が出来始めている。その列の生徒たちが明らかに迷惑そうにしているのが見えて、とにかくどうにかしなければ思ったけどどうしていいかわからずヒナは焦った。
 そのヒナに、先に会計が終わっていたサクヤが気づいて寄ってくる。
「ヒナー、どした? 何かあった?」
「さ、サクヤあ」
 視線で、自分の端末から離れない少女を示せば、うわぁという表情をした後でサクヤがグイッとヒナの腕を引っ張った。
 そのまま強引に連れて行かれるヒナの持つ端末を追いかけるように少女もやってこようとするが。
「ちょっとあんたお会計まだだよ!」
「ああ〜っ」
 ヒナの後ろにいたその人は、まだ会計が済んでなかった。当たり前だが、会計係の職員に引きとめられてついてこれなかったようだ。
 やっと謎の相手から解放されてヒナはほっと息をつく。
「ありがとうサクヤ」
「いーのよいーのよ」
 そのまま、二人で一緒に座れる席を探して、広い食堂の中を少しだけ歩いた。
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