保護者 3

文字数 1,384文字

 自分を引き取った人がそんなにすごい人だとは知らなかった。
 ヒナの元いた国にも解析士はいたけれど身近な存在ではなかったし、そもそもヒナ自身が解析不能だったこともあってあまり接点もなければ知識をつける機会もなかったから、何も知らないのは仕方なかったけれど。
 えらい解析士の中でもさらにえらい人。
 そんなすごい人だったなんて、帰ったらどういう顔をすればいんだろう、と思う。
「ケセド様はうちのお父さんよりめっちゃ稼いでる人だから、お金の心配ないよ。一応さっき上限確認した時もないって言ってたでしょ? お金はいくらでも好きに使いなさい、って言われたんだよアレ」
「ええ……そんな、使えないよ」
 好きにどうぞ、と言われたってそれは自分の金じゃないのだから困る。
 引き取ってもらった立場であるが、だからと言って好き放題甘えていいわけがない。実の親にすら許されなかったことを、他人に等しい誰かに求めるなど想像もつかない。
 端末を握りしめて困るヒナに、サクヤは表示していた表を消しつつ更に言う。
「それに認証リアタイするって言ってたから、仮にダメなら認証時点で気づいて向こうから注意してくれるよ。大丈夫」
「あの、そもそも、まず意味わかんないんだけど」
 お金は持たされた記憶がないし、さっきから出て来ている認証云々の言葉も意味がわからない。
 それを伝えようとしたところで「お待たせしました」と老紳士の声がかかる。盆の上に茶器や菓子を載せた老紳士が目の前にやってきていた。話している間に注文が届いたらしい。
 それを見上げてサクヤが「丁度いいわ。実際やってみた方がわかるでしょ」と笑う。
「マスター、今その分を決済していいよね?」
「少々お待ちを……支払いは折半でよろしいですか?」
「うん。ヒナ、ちょっと見ててね。まず私が先に半分支払うから」
 お盆をテーブルに置いてエプロンのポケットから黒い端末らしきものを出して何か素早く操作した老紳士がそれを差し出すと、その上にサクヤが自分の端末をかざす。
 二つの端末の間をシュッと白い光が二度走った。
「はい、これで私の分の支払いは終わり」
「え!? お金は?」
「この町のほとんどはこういう端末でこうやって支払いが出来るようになってるの。いくら使えるかは設定によるし、すぐ使えるか毎回認証が必要かも端末の設定によるけど。私の場合は、端末はお父さん名義で、月々で使っていい上限額があらかじめ設定されてて、その範囲でなら認証なしで使えるのよ」
 この街の子どもは、みんな持ってるし、大体私と同じ端末の使い方かな。
 端末を戻しつつサクヤは言い、マスターが今度はヒナの方に端末を差し出してくる。
「同じように端末をかざしてみて」
 言われるまま、ヒナも自分の端末をマスターのそれの上にかざす。
 さっきと同じようにシュッと白い光が走った。さらに青い光がさっと走って、再度白い光が走る。
 何が起こったか、それが終わったかもわからずに固まったまま戸惑うヒナをよそに、先に端末を戻したマスターが少しの操作で何かを確認し、綺麗な一礼をした。
「お支払い確認しました。ありがとうございました。おかわりや追加注文はお気軽にお申し付けください」
「ありがとうね」
 そのまま去っていくマスターにサクヤが礼を言う。
 後には、いい匂いのするお茶とお菓子、そして嬉しそうなサクヤと戸惑うヒナだけが残った。
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