昼食の乱入者 3
文字数 1,789文字
食事が終わった後も、席を立って食器を戻し教室に戻ろうとしたヒナとサクヤにソートがついてきた。
「4年生は教室上ですよね。こっちは1年の方ですよ」
「まーまー固いこと言わずにさー。だってヒナちゃんとあまりお話できてないんだもーん。昼休みはまだ残ってるよ?」
冷たい声のサクヤにも全く動じない辺り、かなり肝が座っている人なんだなぁとヒナは思う。
ただヒナはサクヤに比べてこういう場所で何を言っていいのかあるいは悪いのかの判断がまだつきかねるので、ソートとの会話はほぼサクヤに任せっきりになってしまっていた。わざと相手にしていない、というより相手をしたくても言葉を選ぶことすらまだ不自由なのだ。
別にヒナ個人だけの問題ならば何を言われても知られても構わない。
仮に、ここで解析不能者だと知られたっていい。
けれど不用意な発言は、もしかしたらケセドや、巡り巡ってサクヤやその父にまで迷惑がかかる可能性がある、と考えると、やはり勝手が分かっていないうちは下手に口を出さない方がいいように思えた。
だからずっと静かなままのヒナなのだが、会話しないから余計に気になるのかソートはますます寄ってくる。
「ねーねー。あの端末見せてよー」
「駄目ですよ。そもそも端末なんて親しくもない人に触らせるようなもんじゃないでしょう」
「触らないからーあ。ちょーっとスペックとか知りたいだけなんだからー。何もしないからー。見るだけー」
「信用できません」
そろっと伸ばされたソートの手をペシっと叩き落としたサクヤは、ヒナの背中を押しつつ教室へと急いで歩く。
二人のそばを付かず離れずついてきながら、ソートは興味深げに話しかけてくる、が。
もうすぐ教室が見えるあたりになったところで、廊下中に午後の授業の予鈴らしい音が大きく響き渡った。それを聞いたサクヤがソートを見遣る。
「ほら先輩、今から戻らないと授業に遅れますよ」
「あーんもう。また来るからね!」
「来なくていいです」
悔しそうな顔を見せつつ髪を揺らしながら慌てて走って去っていく(4年の教室はこの辺からかなり離れているらしい、と後でヒナは知った)ソートの背中を二人で見送り、どちらともなく息を吐いた。
好奇心をはっきり見せてずっと粘ってきたけど、かといって無理に端末を奪おうとするほど強引という訳でもなく、下級生に対する態度も尊大というわけでもなく、別の形で会ったならきっと好印象を持てる先輩なのだろうと思う。しかしこの状況で絡まれる相手としては面倒だ。
結局、会話ほぼ全部をサクヤに任せてしまった。
「全部任せちゃって、ごめ……えっと、ありがとう、サクヤ。すごく助かったの」
言いかけた謝罪を飲み込んだのは、昨日のケセドの言葉とさっきのサクヤを思い出したから。
お礼に言い換えたヒナに、サクヤは苦笑いをしながら首を振る。
「いやまぁ仕方ないでしょ。だってヒナ、何か質問されたとしても何を言っていいのかもわかんないだろうし。端末なんて操作すらまだ怪しいでしょ」
「うん。言っちゃダメなこととか、もっと確認しておくべきだったね……」
もしかしたら、昨日の夜にそういうことをケセドに確認しておけば、ソートに対してもう少しましな対処ができたかもしれない、と思ってヒナが言えば、ちょっと考えてサクヤが額に片手をやる。
「うーむ、あの方に確認したところで特に何も言われなさそうな気がしないでもないけどねぇ」
「そうなの?」
「そもそも本気でダメなことなら先に伝えてると思うしさ、仮に後でダメってわかったらこっそり情報操作するだけだと思うんだよ……」
「情報操作!?」
物騒な単語が飛び出して、びっくりしてサクヤを見るヒナに、友人は真顔で頷く。
「一部の解析士にしか許されてない権限だけどさ、確実に権限も技術も持ってるもん、あの方だと。もちろん乱用したりはしないだろうけど、必要な場面で使うのに躊躇もしなさそうなくらいには偉い人だからねぇ」
「ええぇ」
解析自体できないヒナからすれば想像の範囲外の行為をあっさりするらしい。
それを知っているのは父親が上級解析士で塔の関係者でもあるサクヤ故だろうか。真面目な様子からは、冗談を言っているようにも見えない。
本当だとして。
でも、そういう手間をかけさせていいものでもないだろう。
とりあえずその辺に関しては後でケセドに確認をしよう、とヒナは決めた。
「4年生は教室上ですよね。こっちは1年の方ですよ」
「まーまー固いこと言わずにさー。だってヒナちゃんとあまりお話できてないんだもーん。昼休みはまだ残ってるよ?」
冷たい声のサクヤにも全く動じない辺り、かなり肝が座っている人なんだなぁとヒナは思う。
ただヒナはサクヤに比べてこういう場所で何を言っていいのかあるいは悪いのかの判断がまだつきかねるので、ソートとの会話はほぼサクヤに任せっきりになってしまっていた。わざと相手にしていない、というより相手をしたくても言葉を選ぶことすらまだ不自由なのだ。
別にヒナ個人だけの問題ならば何を言われても知られても構わない。
仮に、ここで解析不能者だと知られたっていい。
けれど不用意な発言は、もしかしたらケセドや、巡り巡ってサクヤやその父にまで迷惑がかかる可能性がある、と考えると、やはり勝手が分かっていないうちは下手に口を出さない方がいいように思えた。
だからずっと静かなままのヒナなのだが、会話しないから余計に気になるのかソートはますます寄ってくる。
「ねーねー。あの端末見せてよー」
「駄目ですよ。そもそも端末なんて親しくもない人に触らせるようなもんじゃないでしょう」
「触らないからーあ。ちょーっとスペックとか知りたいだけなんだからー。何もしないからー。見るだけー」
「信用できません」
そろっと伸ばされたソートの手をペシっと叩き落としたサクヤは、ヒナの背中を押しつつ教室へと急いで歩く。
二人のそばを付かず離れずついてきながら、ソートは興味深げに話しかけてくる、が。
もうすぐ教室が見えるあたりになったところで、廊下中に午後の授業の予鈴らしい音が大きく響き渡った。それを聞いたサクヤがソートを見遣る。
「ほら先輩、今から戻らないと授業に遅れますよ」
「あーんもう。また来るからね!」
「来なくていいです」
悔しそうな顔を見せつつ髪を揺らしながら慌てて走って去っていく(4年の教室はこの辺からかなり離れているらしい、と後でヒナは知った)ソートの背中を二人で見送り、どちらともなく息を吐いた。
好奇心をはっきり見せてずっと粘ってきたけど、かといって無理に端末を奪おうとするほど強引という訳でもなく、下級生に対する態度も尊大というわけでもなく、別の形で会ったならきっと好印象を持てる先輩なのだろうと思う。しかしこの状況で絡まれる相手としては面倒だ。
結局、会話ほぼ全部をサクヤに任せてしまった。
「全部任せちゃって、ごめ……えっと、ありがとう、サクヤ。すごく助かったの」
言いかけた謝罪を飲み込んだのは、昨日のケセドの言葉とさっきのサクヤを思い出したから。
お礼に言い換えたヒナに、サクヤは苦笑いをしながら首を振る。
「いやまぁ仕方ないでしょ。だってヒナ、何か質問されたとしても何を言っていいのかもわかんないだろうし。端末なんて操作すらまだ怪しいでしょ」
「うん。言っちゃダメなこととか、もっと確認しておくべきだったね……」
もしかしたら、昨日の夜にそういうことをケセドに確認しておけば、ソートに対してもう少しましな対処ができたかもしれない、と思ってヒナが言えば、ちょっと考えてサクヤが額に片手をやる。
「うーむ、あの方に確認したところで特に何も言われなさそうな気がしないでもないけどねぇ」
「そうなの?」
「そもそも本気でダメなことなら先に伝えてると思うしさ、仮に後でダメってわかったらこっそり情報操作するだけだと思うんだよ……」
「情報操作!?」
物騒な単語が飛び出して、びっくりしてサクヤを見るヒナに、友人は真顔で頷く。
「一部の解析士にしか許されてない権限だけどさ、確実に権限も技術も持ってるもん、あの方だと。もちろん乱用したりはしないだろうけど、必要な場面で使うのに躊躇もしなさそうなくらいには偉い人だからねぇ」
「ええぇ」
解析自体できないヒナからすれば想像の範囲外の行為をあっさりするらしい。
それを知っているのは父親が上級解析士で塔の関係者でもあるサクヤ故だろうか。真面目な様子からは、冗談を言っているようにも見えない。
本当だとして。
でも、そういう手間をかけさせていいものでもないだろう。
とりあえずその辺に関しては後でケセドに確認をしよう、とヒナは決めた。