序列外の数字 2

文字数 1,660文字

「サクヤならナンバーズ、が何かはわかるね?」
「はい、あの、ケセド様たちのように特別な名前を授かった解析士を指しているものですよね」
「そう。特別な名前を持つものであるセフィラが、全員何らかの数字を示しているからナンバーズと呼ばれてる」
 レイも言っていた単語が出てきた。
 それを思い出してヒナはケセドが続きを話すのを待つ。
「これは学園でも習うことだけど、それを授けているのが解析士の頂点にいるもの。神の端末にして世界の欠片、アイン・ソフ・オウル。この世で唯一セフィラを命名できるもの。そして君たちが見た男は、そのアイン・ソフ・オウルにのみ仕える解析士。決してナンバーズには入らない、重複した例外存在」
 はぁ、とため息を吐いてケセドがヒナの手を握る。
 まだ視線は仕事の方に向いたままなので、どうやら無意識の仕草らしい。
 痛いわけでも怖いわけでもないから、こういう風にされること自体は別に構わないのだけど、なぜこの人はいつもこんなに触れてくるんだろう? とヒナは不思議に思う。
 仕事中にこんな風に手を遊ばせて、気が散らないだろうか、と。
「あいつは基本、まず人前には出てこない。しかも君やヒナも見ただろうがあの実力だ。僕らの警戒網なんて簡単にくぐり抜けていつも自由に動き回る。正直、テロリストなんかよりもっと面倒な存在だよ」
 機嫌が悪そうに見えるのは、面倒な相手だから、だろうか。
「そういえば、ヒナが解析不能者だから仕方なく出てきた、みたいなこと言ってました」
「あぁ……あいつは、解析可能な相手の意識に自分をダウンロードして乗っ取り操作することが可能だから」
「はぁっ!?」
「少なくとも過去僕のところに来た時は全部その状態だった。実は僕は一度も、あいつに直接会った事はないんだ。僕以外のセフィラもおそらくほぼ全員がそうだろう」
 絶句しているサクヤに対し、さらにケセドが言う。
「ちなみにだけど。気に入られてるのか、僕のところに来るときにあいつが毎回ダウンロードしてる先は、君の父だ」
「えええー」
「その状態でもダウンロード先の人間が持つ容量とスペックの範囲内なら、あいつは自由に解析を使える。今回それをしなかったのは、ヒナの周りに今回のことをする上で丁度いいダウンロード相手がいなかったか、あいつにもそんな余裕がなかったかのどちらかだろう」
 自分の父がレイに使われていると知って複雑そうな顔をするサクヤだが、ケセドの方はそれを気にすることなく話を続ける。
「あいつが動くのは常にアイン・ソフ・オウルの希望を受けてだけど」
「そういえば、ケセド様が暴走してイデーラが壊滅する未来がって」
「……イデーラ壊滅自体は気にしないだろうけど、ナンバーズ暴走は問題だから止めに来たってところか。でもアイン・ソフ・オウルであっても遠い未来の確実な予測は不可能だろう。恐らくあいつが希望を伝えられたのはかなり直前、じゃないかな」
 はぁ、とため息をついてケセドがヒナの手をちょっとだけ強く握った。
 ヒナにはわからない部分が多い中でもどうにか情報をすくい取ってみれば、ケセドの話している内容は大筋がレイと言っていたことと同じで、恐らくそれが事実なのだろう。
 だけどそれならそれで、やはり特定の部分が、ヒナにはどうしてもわからないのだが。
「なんで、私を助ければ、暴走が防げたんですかね?」
 その辺の繋がりが、どうにもわからない。
 あの時レイには微妙な反応をされたけれど、やっぱり端末なのか、と空いた片手でポケットから端末を出して眺めつつ見るヒナは、強い視線を感じて顔を上げる。
 正面にいるサクヤ、そして隣にいる仕事をしているはずのケセドまでが動きを止めて、物言いたそうにヒナを見ていた。
 顔を上げたヒナにサクヤが呆れたように言う。
「ヒナ、あんた、ここまで来てそれはどうなの」
「そういうところも可愛いけどね」
「はい? え? 何?」
 苦笑しているケセドを前に何か間違ったかとおろおろした時。

「あっはははははははははは」
 サクヤが突然大きな声で笑い出して、ぎょっとした。
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