序列外の数字 1
文字数 1,611文字
現れたケセドはそのまま残り。
さすがにこのままただの公園で会話を続けるのも憚られ、三人が向かったのはケセドとヒナの家だった。
現在地ではサクヤの家の方が近かったけれど、それはケセドに断られ、じゃあ自分は今日はもういない方がいいかとサクヤは気を利かせたけれど「別に構わない」とケセドに言われて帰るタイミングも失ったため、サクヤも一緒だ。
名前は有名だというケセドだが、街を歩いていても誰も気づかないくらいには、顔は知られていないらしい。
まだごたついている街の中、三人はほとんど何も話さずに歩いた。
その終点、二人が今住む場所として普通の民家に案内されたサクヤは最初驚いたようだったけれど、家に入った瞬間ついた廊下の灯りに何やら唸っていた。
「さっきの……空のあれとかは、聞いてもいいんですか?」
ケセドに案内されるまま居間に通され一人がけの椅子に座ったサクヤが問いかけてくる。
「答えられる範囲しか言わないけどね。あと、申し訳ないけど仕事しながらでいいかな? まだ残ってるんだ」
「あ、はい、私が見ててもいいなら、それはどうぞです。むしろお気づかないなくお仕事なさってください」
ケセドとヒナは三人がけのソファーの方に並んで座って、サクヤが了解してヒナが頷くのを確認したと同時、昨日の夜のようにケセドが目の前に何かを展開し始める。
空いた方の手は昨日と同じようにヒナの頭を撫でていて、二人きりならともかくサクヤの前ではさすがにちょっと恥ずかしいと思ったが、なんとなく文句も言えずにヒナはされるがままだ。
そしてケセドは語る。
「さっきのは反政府、というより解析士の現体制に対してのテロだね。それ自体は世界中に点在してるものだよ。今回はこの街、というより僕個人を狙ってたようだ」
「だから、ヒナを?」
「あぁそれは違う。あれは結果的に偶然。ただし最も効果的だった訳だけど」
ケセドの指先がヒナの髪を弄ぶ。
それはあまりに優しく動くから、嫌だと思う間もない。
「解析士という立場や集団は表向きまとまってるように見えるけど、いろんな理由で現体制を認められず自分たちの主張をする組織もある。その中の幾つかが今回の攻撃をしてきた。かなり前から準備をしていたようだね」
「ケセド様でも難しいほど、の」
「いや、あれ自体はそんなに珍しいことではなくて、普段だったらあんな事になる前に全部潰してるから街に何も起きてないだけなんだけど、今回はちょっとね。今日までに幾つか見落としてしまってて」
大事になっちゃった、とあっさりとケセドが言うのを、サクヤが不思議そうな顔で聞く。もちろんヒナもその辺はよくわからない。
「でも、もう2度とこんなことは起こさせない。もう2度とごめんだからね。あいつに借りを作るのも、ヒナをこんな目に遭わせるのも」
「あ、あー、あの」
あいつ、の言葉にヒナが青い髪の青年を思い出したように、サクヤも思い出したらしい。
二人を助けてくれた、珍しい格好をした解析士。しかもあの空を一人で元に戻して、姿を消した。解析のことをよく知らないヒナですらわかる、普通でない解析士。
「やっぱりご存知なんですか、あの、レイっていう人」
「残念ながらね」
嫌そうな顔をしてケセドが言う。そんな会話の間もずっと仕事の手は止めない。その表情に、好奇心はあるけれども詳細は聞き辛いと思うのはヒナだけではなかったらしい。
「あの人のことは、聞かないほうがいい、んですよね」
「別にあいつの存在自体は機密ってわけじゃないんだけどね。本人が表に全く顔を出さないだけで」
レイの話をするケセドは微妙に苦々しそうな顔をしている。
かなり浮世離れした雰囲気や言動はあったけれど、どうしようもない悪人にも見えなかった。でもケセドはあの人のことがそんなに好きじゃないのだろうか、とその横顔を見ていたヒナに気づいたのか、視線は仕事に向けたままでケセドの指先がヒナの額をこんっと小突いた。
さすがにこのままただの公園で会話を続けるのも憚られ、三人が向かったのはケセドとヒナの家だった。
現在地ではサクヤの家の方が近かったけれど、それはケセドに断られ、じゃあ自分は今日はもういない方がいいかとサクヤは気を利かせたけれど「別に構わない」とケセドに言われて帰るタイミングも失ったため、サクヤも一緒だ。
名前は有名だというケセドだが、街を歩いていても誰も気づかないくらいには、顔は知られていないらしい。
まだごたついている街の中、三人はほとんど何も話さずに歩いた。
その終点、二人が今住む場所として普通の民家に案内されたサクヤは最初驚いたようだったけれど、家に入った瞬間ついた廊下の灯りに何やら唸っていた。
「さっきの……空のあれとかは、聞いてもいいんですか?」
ケセドに案内されるまま居間に通され一人がけの椅子に座ったサクヤが問いかけてくる。
「答えられる範囲しか言わないけどね。あと、申し訳ないけど仕事しながらでいいかな? まだ残ってるんだ」
「あ、はい、私が見ててもいいなら、それはどうぞです。むしろお気づかないなくお仕事なさってください」
ケセドとヒナは三人がけのソファーの方に並んで座って、サクヤが了解してヒナが頷くのを確認したと同時、昨日の夜のようにケセドが目の前に何かを展開し始める。
空いた方の手は昨日と同じようにヒナの頭を撫でていて、二人きりならともかくサクヤの前ではさすがにちょっと恥ずかしいと思ったが、なんとなく文句も言えずにヒナはされるがままだ。
そしてケセドは語る。
「さっきのは反政府、というより解析士の現体制に対してのテロだね。それ自体は世界中に点在してるものだよ。今回はこの街、というより僕個人を狙ってたようだ」
「だから、ヒナを?」
「あぁそれは違う。あれは結果的に偶然。ただし最も効果的だった訳だけど」
ケセドの指先がヒナの髪を弄ぶ。
それはあまりに優しく動くから、嫌だと思う間もない。
「解析士という立場や集団は表向きまとまってるように見えるけど、いろんな理由で現体制を認められず自分たちの主張をする組織もある。その中の幾つかが今回の攻撃をしてきた。かなり前から準備をしていたようだね」
「ケセド様でも難しいほど、の」
「いや、あれ自体はそんなに珍しいことではなくて、普段だったらあんな事になる前に全部潰してるから街に何も起きてないだけなんだけど、今回はちょっとね。今日までに幾つか見落としてしまってて」
大事になっちゃった、とあっさりとケセドが言うのを、サクヤが不思議そうな顔で聞く。もちろんヒナもその辺はよくわからない。
「でも、もう2度とこんなことは起こさせない。もう2度とごめんだからね。あいつに借りを作るのも、ヒナをこんな目に遭わせるのも」
「あ、あー、あの」
あいつ、の言葉にヒナが青い髪の青年を思い出したように、サクヤも思い出したらしい。
二人を助けてくれた、珍しい格好をした解析士。しかもあの空を一人で元に戻して、姿を消した。解析のことをよく知らないヒナですらわかる、普通でない解析士。
「やっぱりご存知なんですか、あの、レイっていう人」
「残念ながらね」
嫌そうな顔をしてケセドが言う。そんな会話の間もずっと仕事の手は止めない。その表情に、好奇心はあるけれども詳細は聞き辛いと思うのはヒナだけではなかったらしい。
「あの人のことは、聞かないほうがいい、んですよね」
「別にあいつの存在自体は機密ってわけじゃないんだけどね。本人が表に全く顔を出さないだけで」
レイの話をするケセドは微妙に苦々しそうな顔をしている。
かなり浮世離れした雰囲気や言動はあったけれど、どうしようもない悪人にも見えなかった。でもケセドはあの人のことがそんなに好きじゃないのだろうか、とその横顔を見ていたヒナに気づいたのか、視線は仕事に向けたままでケセドの指先がヒナの額をこんっと小突いた。