初登校 3
文字数 1,915文字
「ごめん。超ごめん」
最初の休み時間になって、教室を出て二人きりになった途端に、サクヤが平謝りする。
それがさっきの自己紹介のことだというのはすぐにわかった。確かにあの場では驚いたけれど、休み時間になる前までに少し時間があったので、ヒナなりにもう一度自分で考えたのだ。そして出た結論は、やっぱりサクヤを信じようということだった。
昨日会ったばかりでもサクヤが無闇に権威を振りかざすタイプじゃ無いのだけは分かるけれど、同時に必要とあらばそれを使うことができる賢さもある、というのがヒナの見解で。
だけど本来は勝手に相手まで巻き込むようなことは好まない、気がする。
そのサクヤがヒナも巻き込んでああ言ったなら、きっと何か。
「いや別にいいよ。だってサクヤがあそこまでするってことは、何かそれなりの理由があったんでしょ?」
「ううううう! ヒナ話わかるぅぅぅ! あれ半分はお父さんからの命令なんだよー」
申し訳なさそうに白状するサクヤに、やっぱりと苦笑いするしか無い。
お父さんに、ヒナに万が一何か無いように先手を打っておけって言われたから私なりに考えてーっ、と泣きそうな顔で言うサクヤは、きっと相当悩んだ結果、ああしたのだろう。
そしてやり方はどうあれ、あれがサクヤなりにヒナのことを考えてしてくれたというなら、ヒナに文句なんか無い。
元々学校とかそれに似た集団の中なんて、ヒナにとっては最初から孤立する、あるいは嫌な目に会いに行く場所だった。知らない国に来たからといって、そこが変わるかもなんて期待は抱いていない。
むしろ昨日できたばかりの友人に、こんな風に気を使ってもらえることの方が、今までの自分と比べると奇跡的なことだ。
「あの、……お、おじさんに関係してるんでしょ?」
それに、理由だって想定できる。
むしろ他にない。
「そうです。あの方だよ。ヒナに何かあったら確実に現場干渉までしそうだから、出来る限りヒナには平和で楽しい学園生活を送ってもらいたいよーっていうのが、昨日急遽話し合ったお父さんたち管理塔所属の解析士総意の希望らしいよ。まぁその、仮に友達が私だけになっちゃったとして、ヒナがそれで楽しいかっていう問題はあるんだ、けど」
理由を話しながらだんだんと声が小さくなるサクヤに、ヒナは微笑んだ。
サクヤ以外に友人が出来ないかもしれない。確かに、あんな紹介をしてしまったら、学年問わず他の友人が出来るのは難しそうだと思う。
でも、そんな心配自体いらないのに。
今までは友人自体が存在しない、出来る未来もないような場所にいた。サクヤだけ、じゃない。友達と言ってくれるサクヤがいるなら、それだけでヒナには十分だ。それでも、心配してくれるのが嬉しい。それだけで、ヒナはこの先何があってもきっと、この学園に通おうと思える。
「大丈夫だよ。サクヤがいてくれるだけで私は楽しいよ」
「でも」
まだ申し訳ないという表情を崩さないサクヤに、情けないけれど本当のことをヒナは告げる。
「私ね、友達ができたの、生まれて初めてなの。だから、全部楽しい。だから、そんな顔しないで」
この歳まで生きてきて、友人できるのがが初めて、なんて。人によってはきっと呆れるんだろう。
「ひ、ヒナあああ! ありがと! 私いっぱい楽しいこと教えてあげるからねええええ!!」
がばっと抱きついてきたサクヤの体を抱きとめて、ヒナはほっとする。
良かった。呆れられなくて。そしてあんな表情をやめさせることが出来て。
大事な人にはいつだってあんな顔させたくない。
あぁ、もしかして昨日の夜にあの人があんなことをしたのは、自分が今のサクヤと似たような状態だったからなのかもしれない、とヒナはサクヤの背中を撫でつつ思う。
貰える言葉は、ごめんなさいよりありがとうの方がいい。
悲しそうより笑ってるほうがいい。
「じゃあ、その、サクヤにお願いというか、協力して欲しいことががあるんだけど。いいかな?」
昨日の夜のことを思い出したついでに、自分に課せられた問題も思い出した。これは本当に自力ではどうにもならないので、むしろヒナの方がサクヤに頼み込まないといけない。
「いいよ。なになに?」
難しい顔になったヒナに、興味津々、を隠すことなく目に表したサクヤ。その返答として自分の服を買いたいと、そしてその理由として昨日の夜ケセドと交わしたやりとりの一部を伝えたところ、彼女は不思議そうに尋ねてくる。
「あの方がそんなこと言うなんてねー。今は何着持ってるの?」
「2着。昨日着てた服と部屋着と、あ、あとこの制服で3着かな」
素直に答えた瞬間真顔になったサクヤは「今日の放課後すぐ行くわよ!」と叫んだ。
最初の休み時間になって、教室を出て二人きりになった途端に、サクヤが平謝りする。
それがさっきの自己紹介のことだというのはすぐにわかった。確かにあの場では驚いたけれど、休み時間になる前までに少し時間があったので、ヒナなりにもう一度自分で考えたのだ。そして出た結論は、やっぱりサクヤを信じようということだった。
昨日会ったばかりでもサクヤが無闇に権威を振りかざすタイプじゃ無いのだけは分かるけれど、同時に必要とあらばそれを使うことができる賢さもある、というのがヒナの見解で。
だけど本来は勝手に相手まで巻き込むようなことは好まない、気がする。
そのサクヤがヒナも巻き込んでああ言ったなら、きっと何か。
「いや別にいいよ。だってサクヤがあそこまでするってことは、何かそれなりの理由があったんでしょ?」
「ううううう! ヒナ話わかるぅぅぅ! あれ半分はお父さんからの命令なんだよー」
申し訳なさそうに白状するサクヤに、やっぱりと苦笑いするしか無い。
お父さんに、ヒナに万が一何か無いように先手を打っておけって言われたから私なりに考えてーっ、と泣きそうな顔で言うサクヤは、きっと相当悩んだ結果、ああしたのだろう。
そしてやり方はどうあれ、あれがサクヤなりにヒナのことを考えてしてくれたというなら、ヒナに文句なんか無い。
元々学校とかそれに似た集団の中なんて、ヒナにとっては最初から孤立する、あるいは嫌な目に会いに行く場所だった。知らない国に来たからといって、そこが変わるかもなんて期待は抱いていない。
むしろ昨日できたばかりの友人に、こんな風に気を使ってもらえることの方が、今までの自分と比べると奇跡的なことだ。
「あの、……お、おじさんに関係してるんでしょ?」
それに、理由だって想定できる。
むしろ他にない。
「そうです。あの方だよ。ヒナに何かあったら確実に現場干渉までしそうだから、出来る限りヒナには平和で楽しい学園生活を送ってもらいたいよーっていうのが、昨日急遽話し合ったお父さんたち管理塔所属の解析士総意の希望らしいよ。まぁその、仮に友達が私だけになっちゃったとして、ヒナがそれで楽しいかっていう問題はあるんだ、けど」
理由を話しながらだんだんと声が小さくなるサクヤに、ヒナは微笑んだ。
サクヤ以外に友人が出来ないかもしれない。確かに、あんな紹介をしてしまったら、学年問わず他の友人が出来るのは難しそうだと思う。
でも、そんな心配自体いらないのに。
今までは友人自体が存在しない、出来る未来もないような場所にいた。サクヤだけ、じゃない。友達と言ってくれるサクヤがいるなら、それだけでヒナには十分だ。それでも、心配してくれるのが嬉しい。それだけで、ヒナはこの先何があってもきっと、この学園に通おうと思える。
「大丈夫だよ。サクヤがいてくれるだけで私は楽しいよ」
「でも」
まだ申し訳ないという表情を崩さないサクヤに、情けないけれど本当のことをヒナは告げる。
「私ね、友達ができたの、生まれて初めてなの。だから、全部楽しい。だから、そんな顔しないで」
この歳まで生きてきて、友人できるのがが初めて、なんて。人によってはきっと呆れるんだろう。
「ひ、ヒナあああ! ありがと! 私いっぱい楽しいこと教えてあげるからねええええ!!」
がばっと抱きついてきたサクヤの体を抱きとめて、ヒナはほっとする。
良かった。呆れられなくて。そしてあんな表情をやめさせることが出来て。
大事な人にはいつだってあんな顔させたくない。
あぁ、もしかして昨日の夜にあの人があんなことをしたのは、自分が今のサクヤと似たような状態だったからなのかもしれない、とヒナはサクヤの背中を撫でつつ思う。
貰える言葉は、ごめんなさいよりありがとうの方がいい。
悲しそうより笑ってるほうがいい。
「じゃあ、その、サクヤにお願いというか、協力して欲しいことががあるんだけど。いいかな?」
昨日の夜のことを思い出したついでに、自分に課せられた問題も思い出した。これは本当に自力ではどうにもならないので、むしろヒナの方がサクヤに頼み込まないといけない。
「いいよ。なになに?」
難しい顔になったヒナに、興味津々、を隠すことなく目に表したサクヤ。その返答として自分の服を買いたいと、そしてその理由として昨日の夜ケセドと交わしたやりとりの一部を伝えたところ、彼女は不思議そうに尋ねてくる。
「あの方がそんなこと言うなんてねー。今は何着持ってるの?」
「2着。昨日着てた服と部屋着と、あ、あとこの制服で3着かな」
素直に答えた瞬間真顔になったサクヤは「今日の放課後すぐ行くわよ!」と叫んだ。