保護者 2

文字数 1,323文字

 口には出さなかったけれど、顔色には出ていたのか。サクヤはすぐに「大丈夫だよ」と笑った。
「これくらいの金額、ケセド様ならきっと何も言わないよ。むしろそんな金銭感覚あるかも怪しいけど」
 そこで出た名前は、さっき端末との通信でおじさんが自ら名乗ったソレで。
 実は会ってから今まで名前も知らなかったヒナは、名前以上におじさんに関して何か知っているらしいサクヤを見る。サクヤはさっきも今も、様とつけたけれど、普通知らない相手にそんな敬称はつけないだろう。
 人づてに相手を探るのは良くないことのような気もするが、好奇心は抑えられなかった。
「サクヤは、おじさんのこと、知ってるの?」
 昨日出会ったばかりの、今後はヒナの保護者になる人。
 とても柔和な物腰が印象的な、ほっそりとした背の高い男。会って間もないのでまだほとんど会話は出来てないけれど、昨日の夜は長距離をやってきたヒナをねぎらってくれたし、迎えてくれた家にはヒナ専用の部屋まで用意してくれていた。まだ何も知らないけれど、いい人そうだという印象がある。
 過度な期待を抱いているわけではないけれど、できれば他の人からの話も聞いて安心したかった。
 ヒナの言葉にサクヤは苦笑する。
「私は、っていうか、この街の人でケセド様の名前を知らない人はいないよ。顔は皆知らないけどね」
「え……?」
 驚いて声が出ないヒナに、サクヤが自分の端末を取り出して操作すると、表のようなものを宙に映した。
 そこに並んでいるのは名前。
 大きな、組織図も兼ねた感じの、名簿のようなものだ。
「これね、ダーラの解析士の中でも、最上級の位を持ってる人たちの一覧。一番偉い解析士って言えばわかるかな」
 その中の一箇所……一番上を指し示す。
「ここにいるのがケセド様。一番偉い方だね。私のお父さんだって見たことあるかわかんない位、偉い人。基本はこの街の解析塔の中で、他の解析士にはできないような高度な業務をやってる、らしいよ。公的な行事とか一切出ないから誰も顔は知らないんだけど」
「そ、そうなんだ」
「だからさっき会話できてすっごい興奮しちゃたんだよね」
 生ケセド様だよー、と笑うサクヤだが、ヒナからすれば昨日初めて会ったあの男性がそんなにすごい人だと言われてもいまひとつ実感が持てない。とても不思議な雰囲気があるのはわかるが、普通の青年に見えたから。
「あの、同じ名前の別の人って可能性は……」
「ないよ。ヒナちゃんは知らないみたいだけど、ケセドっていうのは名前であると同時に特殊な記号なんだよ。生まれつきの名前っていうか、最上級の解析士だけに与えられる絶対の名前。この国に限らず、この世界、解析士という存在がいる場所で同じ名前はつけられないの。仮につけてしまっても改名が要求されるんだよ」
 言いながらサクヤは、表示したままの名前の表を指す。
「ここには名前がないけど、世界中にはそういう特別な名前を持ってる解析士が何人かいるの。仮にその人たちの誰か死んだら、次の人に名前が代替わりする可能性はあるけど、今あるケセドという名前は世界に一個だけ」
 だから、ケセド様はケセド様しかいない。
 まっすぐな視線を向けられそう言われてしまうと、納得するしかなかった。
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