買い物
文字数 1,823文字
結局、次の日の学園帰りではなく。
学園は休みだが店は開いている休前日に買い物へ出かけることになった。
実際に部屋を見た感想として、買うものが多すぎるから帰り道にちまちまよりは休みの日に一通りまとめてまず買い揃えたほうがいい、というのがサクヤの主張。その理由はまとめて買うほうが部屋も雑貨も合わせたコーディネートしやすいから、というものだったけれど、そもそもおしゃれに縁のなかったヒナには、サクヤが言うコーディネート自体よくわかっていない。
それを正直に伝えれば、休前日までの放課後は毎日のようにいろんな雑誌を見せられた。
服や家具のカタログだというそれを次々と用意したサクヤに、どれが好きがどれは嫌いかをあれこれ尋ねられ続ける毎日。本音を言えば、それらの違いがそんなにわからない、だったのだが、そう言うとちょっと悲しそうな困った顔をされた。
だからどうにか自分の中の小さな感覚まで拾い上げては答えるようにして。
何かに対して正直に好きや嫌いを表現していいなんて初めてだったから、それだけでもういっぱいいっぱいになった。
そして毎日家に帰った後でケセドにその日あったことを報告するのだけど、そういう辺りをうまく言えないながらも伝えたら嬉しそうな顔をされたので、きっとそれでいいのだろうとヒナは思った。前とは違う。ここではそういうことを求められているんだろう、と理解して。
そして休前日。
「……どうしたんですか!?」
サクヤとの待ち合わせ場所。
しれっとサクヤの隣にいる青い髪の青年に、ヒナは驚いて声をかける。隣のサクヤは苦笑いだ。
「今日はいろいろ買い物するんだろ? 荷物持ちがいるかと思って」
「そんなレイさんに荷物持ちなんて。いやその前に、ここにいていいんですか?」
あの日結局ケセドの前には現れなかった青年に問いかければ、あの日と同じ特徴的な袖の長い服を着た青年は、黒い目を輝かせて笑う。
「あいつに会うのは面倒なだけで、俺がいちゃいけない場所なんて世界中どこにもないよ」
「そうなんですか」
「そうなんです。どこにも所属はしてねーけど、どっからも拒絶される謂れもねーから。まぁあいつにバレるのは面倒なので今は存在データ偽装してるけどね」
あいつには俺が女の子に見えてる、とレイが言うとサクヤがぷっと吹き出した。なにやらツボに入ったようだ。
あの日以降サクヤがレイに乗っ取られる場面は一度もなかったが、二人の関係はそんなに悪いものでもなく、普通に笑いあえる程度には良好らしい。普段どういう風になっているかはわからないけれど、レイが現れてても、サクヤが嫌がっている様子はなかった。
「あとまぁせっかくなので便乗して最近の流行だのも教えてもらおうかなーって」
「私たちが今日回るのは女の子用のものだけなんですけど」
一応、という様子で言うサクヤに、レイがパタパタと手を振る。
「いーのいーの。俺用じゃないからさー」
言いながらヘラッと笑ったレイの顔が以前見た優しい目をしていて、もしかしてあの存在関係なのだろうかとヒナは思う。
女の子の姿をしている、のだろうか?
あまり想像がつかない。
「情報収集すりゃいくらでもそういうのは出てくるけどさー、俺も詳しいわけじゃないし、逆に多すぎるそれを吟味すんのも大変なのだよ。それにやっぱ実物を生で見るのは大事じゃん? でもさすがに俺一人じゃそういう店って入りづらいしーそのために隠れるのもなー。変態っぽくね?」
大真面目にレイが理由を語る。
そんなものだろうかとヒナは想像してみて、確かにレイ一人でそういう店に入ってる姿はちょっとどうかなと思ったので納得した。
「そういうことなら私はいいですけど。ヒナは?」
「いいよ。むしろ私よりもそっちをちゃんと探す方がいいような気も」
レイの言う存在が想像する相手で間違いないのならば、とても偉い存在のはず。だからそう言えば、顔を見合わせたサクヤとレイがほぼ同時に手を振った。
「いやいやいやいや何を言ってるのかねヒナちゃんや」
「ヒナ、それはなんか違うから」
「そう、なの?」
わからないと疑問符を浮かべるヒナを見て、二人は顔を見合わせると同時にため息をつく。
「こいつは先が長そうだなぁ」
「そーですねぇ。まぁ大丈夫ですよー、私がいますし。ついでにケセド様もいますし」
サクヤが胸を張って答えるのを見て、レイが笑い出す。
二人が何を言っているのか最後までわからないまま、ヒナはただ困っていた。
学園は休みだが店は開いている休前日に買い物へ出かけることになった。
実際に部屋を見た感想として、買うものが多すぎるから帰り道にちまちまよりは休みの日に一通りまとめてまず買い揃えたほうがいい、というのがサクヤの主張。その理由はまとめて買うほうが部屋も雑貨も合わせたコーディネートしやすいから、というものだったけれど、そもそもおしゃれに縁のなかったヒナには、サクヤが言うコーディネート自体よくわかっていない。
それを正直に伝えれば、休前日までの放課後は毎日のようにいろんな雑誌を見せられた。
服や家具のカタログだというそれを次々と用意したサクヤに、どれが好きがどれは嫌いかをあれこれ尋ねられ続ける毎日。本音を言えば、それらの違いがそんなにわからない、だったのだが、そう言うとちょっと悲しそうな困った顔をされた。
だからどうにか自分の中の小さな感覚まで拾い上げては答えるようにして。
何かに対して正直に好きや嫌いを表現していいなんて初めてだったから、それだけでもういっぱいいっぱいになった。
そして毎日家に帰った後でケセドにその日あったことを報告するのだけど、そういう辺りをうまく言えないながらも伝えたら嬉しそうな顔をされたので、きっとそれでいいのだろうとヒナは思った。前とは違う。ここではそういうことを求められているんだろう、と理解して。
そして休前日。
「……どうしたんですか!?」
サクヤとの待ち合わせ場所。
しれっとサクヤの隣にいる青い髪の青年に、ヒナは驚いて声をかける。隣のサクヤは苦笑いだ。
「今日はいろいろ買い物するんだろ? 荷物持ちがいるかと思って」
「そんなレイさんに荷物持ちなんて。いやその前に、ここにいていいんですか?」
あの日結局ケセドの前には現れなかった青年に問いかければ、あの日と同じ特徴的な袖の長い服を着た青年は、黒い目を輝かせて笑う。
「あいつに会うのは面倒なだけで、俺がいちゃいけない場所なんて世界中どこにもないよ」
「そうなんですか」
「そうなんです。どこにも所属はしてねーけど、どっからも拒絶される謂れもねーから。まぁあいつにバレるのは面倒なので今は存在データ偽装してるけどね」
あいつには俺が女の子に見えてる、とレイが言うとサクヤがぷっと吹き出した。なにやらツボに入ったようだ。
あの日以降サクヤがレイに乗っ取られる場面は一度もなかったが、二人の関係はそんなに悪いものでもなく、普通に笑いあえる程度には良好らしい。普段どういう風になっているかはわからないけれど、レイが現れてても、サクヤが嫌がっている様子はなかった。
「あとまぁせっかくなので便乗して最近の流行だのも教えてもらおうかなーって」
「私たちが今日回るのは女の子用のものだけなんですけど」
一応、という様子で言うサクヤに、レイがパタパタと手を振る。
「いーのいーの。俺用じゃないからさー」
言いながらヘラッと笑ったレイの顔が以前見た優しい目をしていて、もしかしてあの存在関係なのだろうかとヒナは思う。
女の子の姿をしている、のだろうか?
あまり想像がつかない。
「情報収集すりゃいくらでもそういうのは出てくるけどさー、俺も詳しいわけじゃないし、逆に多すぎるそれを吟味すんのも大変なのだよ。それにやっぱ実物を生で見るのは大事じゃん? でもさすがに俺一人じゃそういう店って入りづらいしーそのために隠れるのもなー。変態っぽくね?」
大真面目にレイが理由を語る。
そんなものだろうかとヒナは想像してみて、確かにレイ一人でそういう店に入ってる姿はちょっとどうかなと思ったので納得した。
「そういうことなら私はいいですけど。ヒナは?」
「いいよ。むしろ私よりもそっちをちゃんと探す方がいいような気も」
レイの言う存在が想像する相手で間違いないのならば、とても偉い存在のはず。だからそう言えば、顔を見合わせたサクヤとレイがほぼ同時に手を振った。
「いやいやいやいや何を言ってるのかねヒナちゃんや」
「ヒナ、それはなんか違うから」
「そう、なの?」
わからないと疑問符を浮かべるヒナを見て、二人は顔を見合わせると同時にため息をつく。
「こいつは先が長そうだなぁ」
「そーですねぇ。まぁ大丈夫ですよー、私がいますし。ついでにケセド様もいますし」
サクヤが胸を張って答えるのを見て、レイが笑い出す。
二人が何を言っているのか最後までわからないまま、ヒナはただ困っていた。