圧倒的制圧 2
文字数 1,869文字
何も無くなったのを見届けた後、パンっとレイが手を叩く。
その瞬間に円が消えた。
彼の足元にあった、隆起した地面もスルスルと戻っていく。
ここでようやくヒナは、こんなに派手なことをしたら目立っていたのではないかと思い出したけれど、周囲を見回してみても誰一人ヒナたちのことを気にしていなかった。皆、解析の何かが消えた空を見て何かを言い合っているが、明らかに目の前でそれに関係しただろう青い髪の男の存在を気にしている様子はない。
異常なくらい、誰もヒナたちを見ていなかった。
さっき何か光のようなものが降ったのに。
地面もこんなに黒くなってる、そのほぼ中央にいるヒナたちの存在を、誰も気にしてないなんてあるんだろうか。
さすがにちょっと異常なのではないか、と思ったヒナの疑問に気付いたか、レイが言う。
「目立ちたくないから、この辺全域の人間の認識にちょっと干渉してる。今の俺たちは野良犬よりも注目されない道端の落ち葉のような存在だよ。例え全裸になったって誰も気にしない。まぁそろそろ切るけど」
その前に適当に移動しようぜ、と言ってレイが歩き出す。
この場から離れるのに、当たり前のようにヒナたちを一緒に連れて行こうとしているレイ。
明らかに助けてもらったかもしれないとはいえ、なにも知らない相手だ。本当はここで黙ってついていく必要はないのだろうが、じゃあさよならと言うのは何か違うような気がしてしまう。
恐らく怖がって逃げ出したとしても、レイは追ってこないように思える。が、そうしたら最後2度と会うこともなく、そしてなにも知る機会もないのだろう。こうやって移動に誘ってくれていること自体、気まぐれに差し出された機会のような予感がする。
逃せば2度目はない類の。
そう感じているのはサクヤも同じなのか、気づけば示し合せる事さえなく黙って二人同時にレイの方へと歩いていて、繋いだままの手には何の抵抗も感じなかった。
そのまま三人で街中をちょっと歩いて、レイが止まったのは誰もいない広い公園の中。いつもは昼間ならきっと誰かいる、人の手の入った綺麗な公園だ。
さっきのあの騒ぎから考えて、元々公園にいただろう人はおそらくどこかに避難していると思われた。今は終わった直後だからこそ誰もいないのだろう。
その公園の、大きな木のそばで。
「この辺でいっか」
振り返ったレイが二人に向き合う。
「すごい質問があるって顔してんな」
「それは、まぁ、その」
むしろここまででなにも浮かばない方がおかしいだろう。
「残念だけどほとんど答えられないぞ? それくらいお嬢ちゃん達ならわかるだろ」
言われて、頷く。
聞いたらなんでも答えてもらえると思うほどヒナも子どもじゃないし、ヒナよりも頭がいいだろうし解析のことも知っているサクヤなら更に正しくその言葉を理解してるはずだ。けれどさっきの一連を見て、目の前の原因に何も聞くなというのも心理的には難しい。
気になる中で、答えて貰えそうなもの、を必死に探してみる。
だって今レイはほとんど答えられない、といった。何も答えられない、ではなかった。ものによっては答えてくれる気があるのだ。
「どうして助けてくれたんです?」
「ちょっとした依頼。助けたっつっても、正しくはヒナじゃなくて『ケセドの宝物』を助けたって言うべきか」
うーん、と唸りつつレイが言った言葉に、ヒナも意味がわからなくて同じように唸ってしまった。
ケセドの宝物。
自分じゃないらしいソレが何を意味しているものなのかわからない。特にケセドから渡されたものはなかったはず。そんな重要な何かを持っていただろうか、と考えてハッとする。今持っているもので唯一、渡されたものがあった。ポケットから取り出してそれを見る。
「この端末?」
ヒナとしては大真面目に言ったのだけど。
「いやいやいやいや。えっと、そっちがヒナちゃんか? ボケるにしてもそりゃちょっと下手だぞ」
「でも他に何も貰ってないので」
「そーいう意味じゃなくてな。えー、何この子本気なのか?」
ヒナの言葉に呆れた顔をするレイが、助けを求めるような表情でサクヤの方を見た。
「ヒナはこういう子ですよ? 昨日会ったばかりですけど、これがヒナですよ」
「うーわー……あいつ苦労しそうだなー。どうでもいいけど」
が、それに対してサクヤはなぜか自信満々に何かを断言し、聞いたレイは何かを諦めたように両手を挙げた。
完全に会話に置いていかれている。複雑な気分で二人を見るヒナは、けれど二人に何を言っていいのかわからなかったので黙るしかなかった。
その瞬間に円が消えた。
彼の足元にあった、隆起した地面もスルスルと戻っていく。
ここでようやくヒナは、こんなに派手なことをしたら目立っていたのではないかと思い出したけれど、周囲を見回してみても誰一人ヒナたちのことを気にしていなかった。皆、解析の何かが消えた空を見て何かを言い合っているが、明らかに目の前でそれに関係しただろう青い髪の男の存在を気にしている様子はない。
異常なくらい、誰もヒナたちを見ていなかった。
さっき何か光のようなものが降ったのに。
地面もこんなに黒くなってる、そのほぼ中央にいるヒナたちの存在を、誰も気にしてないなんてあるんだろうか。
さすがにちょっと異常なのではないか、と思ったヒナの疑問に気付いたか、レイが言う。
「目立ちたくないから、この辺全域の人間の認識にちょっと干渉してる。今の俺たちは野良犬よりも注目されない道端の落ち葉のような存在だよ。例え全裸になったって誰も気にしない。まぁそろそろ切るけど」
その前に適当に移動しようぜ、と言ってレイが歩き出す。
この場から離れるのに、当たり前のようにヒナたちを一緒に連れて行こうとしているレイ。
明らかに助けてもらったかもしれないとはいえ、なにも知らない相手だ。本当はここで黙ってついていく必要はないのだろうが、じゃあさよならと言うのは何か違うような気がしてしまう。
恐らく怖がって逃げ出したとしても、レイは追ってこないように思える。が、そうしたら最後2度と会うこともなく、そしてなにも知る機会もないのだろう。こうやって移動に誘ってくれていること自体、気まぐれに差し出された機会のような予感がする。
逃せば2度目はない類の。
そう感じているのはサクヤも同じなのか、気づけば示し合せる事さえなく黙って二人同時にレイの方へと歩いていて、繋いだままの手には何の抵抗も感じなかった。
そのまま三人で街中をちょっと歩いて、レイが止まったのは誰もいない広い公園の中。いつもは昼間ならきっと誰かいる、人の手の入った綺麗な公園だ。
さっきのあの騒ぎから考えて、元々公園にいただろう人はおそらくどこかに避難していると思われた。今は終わった直後だからこそ誰もいないのだろう。
その公園の、大きな木のそばで。
「この辺でいっか」
振り返ったレイが二人に向き合う。
「すごい質問があるって顔してんな」
「それは、まぁ、その」
むしろここまででなにも浮かばない方がおかしいだろう。
「残念だけどほとんど答えられないぞ? それくらいお嬢ちゃん達ならわかるだろ」
言われて、頷く。
聞いたらなんでも答えてもらえると思うほどヒナも子どもじゃないし、ヒナよりも頭がいいだろうし解析のことも知っているサクヤなら更に正しくその言葉を理解してるはずだ。けれどさっきの一連を見て、目の前の原因に何も聞くなというのも心理的には難しい。
気になる中で、答えて貰えそうなもの、を必死に探してみる。
だって今レイはほとんど答えられない、といった。何も答えられない、ではなかった。ものによっては答えてくれる気があるのだ。
「どうして助けてくれたんです?」
「ちょっとした依頼。助けたっつっても、正しくはヒナじゃなくて『ケセドの宝物』を助けたって言うべきか」
うーん、と唸りつつレイが言った言葉に、ヒナも意味がわからなくて同じように唸ってしまった。
ケセドの宝物。
自分じゃないらしいソレが何を意味しているものなのかわからない。特にケセドから渡されたものはなかったはず。そんな重要な何かを持っていただろうか、と考えてハッとする。今持っているもので唯一、渡されたものがあった。ポケットから取り出してそれを見る。
「この端末?」
ヒナとしては大真面目に言ったのだけど。
「いやいやいやいや。えっと、そっちがヒナちゃんか? ボケるにしてもそりゃちょっと下手だぞ」
「でも他に何も貰ってないので」
「そーいう意味じゃなくてな。えー、何この子本気なのか?」
ヒナの言葉に呆れた顔をするレイが、助けを求めるような表情でサクヤの方を見た。
「ヒナはこういう子ですよ? 昨日会ったばかりですけど、これがヒナですよ」
「うーわー……あいつ苦労しそうだなー。どうでもいいけど」
が、それに対してサクヤはなぜか自信満々に何かを断言し、聞いたレイは何かを諦めたように両手を挙げた。
完全に会話に置いていかれている。複雑な気分で二人を見るヒナは、けれど二人に何を言っていいのかわからなかったので黙るしかなかった。