保護者 1

文字数 1,404文字

 落ち着いた後にサクヤが案内してくれたのは、街の大通りから一本外れているけれど明るい路地裏にひっそりとあるカフェだった。清潔で静かな佇まいの店にあまり客は入っていないけれど、客層はどこか落ち着いた人たちばかりで大人っぽい雰囲気が漂っている。
 狭くない店内、客は各々一定距離を保って座席にいるように見えた。
 一見すると大人び過ぎてて、まだ子どもの自覚があるヒナなどは、ちょっと入るのに戸惑う感じだ。恐らく一人だったら入れない。
 けれど連れてきたサクヤの方は慣れた様子で店に入ると、カウンターの中にいる老紳士にひらっと手を振った。老紳士の方は軽い会釈を返してくれる。サクヤが店の中を見回した後、空いている壁際の座席に行き、向かい合わせで二人は座った。
「このお店、慣れてるの?」
「うん。お父さんがね、仕事で使う関係で私も連れてきてもらったことが何度かあって」
「なんか雰囲気あるよね。高そう……」
「そだね、私たちくらいの子が気軽に来るような値段じゃないのは確かかな。でもその分、変な客もいないから、色々話をするなら丁度いいんだよね」
 話している間に、カウンターの中にいた老紳士が二人の方にやってきた。
「ご注文は?」
「私はカフェラテ、ヒナは何飲める? 苦いの大丈夫? 甘い方がいい?」
「あ、甘い方がいい、けど、甘すぎないやつで……ごめん、何頼めばいいかわかんない」
 こういう店に入る機会なんてなかったから、メニューを見てもどれがどんな飲み物かすらわからない。それを素直に伝えればサクヤは頷いて老紳士を見上げる。
「だって。じゃあこの子の方はマスターにお任せしていいかな?」
「お任せを。ご予算はおありですか?」
「うーん、支払いは半々だけど、合わせて3千くらいで。ついでに甘いお菓子も適当に見繕ってもらえる?」
「かしこまりました。少々お待ちください」
 そのまま丁寧なお辞儀をして去っていく老紳士を見送って、ヒナはちょっと不安になった部分を問う。
「あの、3千って、高いの? この辺の通貨、私知らなくて」
 メニューの内容以前の問題だ。
 国が違えば通貨も変わる。しかも元々住んでいた場所からは相当遠方であるこのダーラの通貨価値など、昨日来たばかりのヒナにはわからない。ここに来るまでは直行の飛空挺の中にずっといたし、お金を使う機会なんて無かった。
 慣れた様子で注文をしていたサクヤがテーブルに肘をついて笑う。
「あんまり安くはないかなー。この街の、私たちくらいの子の、月の小遣いがそれっくらいだと思う」
「ええっ!? カフェで、1回で、そ、そんな金額使っちゃうの?」
「私も普段はそんな使わないけどねー。でも今日のこれはうちのお父さんも許してくれると思うよ。むしろ下手にその辺の店で今からする話をする方が怒られそうだし」
 肩をすくめてサクヤが言うけれど、その意味はやっぱりヒナにはわからない。ただ、家に帰った後でおじさんにまず謝った方が良さそうだということだけは理解した。
 何しろ、ヒナに自分のお金というものはない。
 そもそも前の家では小遣いなんてもらえなかったし、この街に来る時も身一つでやってきた。これからヒナの使うお金は全部おじさんが出すものだ。申し訳ない、と内心思ったけれど、でもそれは店に連れてきてくれたサクヤを責めるようなことじゃない。
 せっかく、初めて出来た友人とお茶をする機会だ。そんなことで雰囲気を悪くしたくなかった。
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