お茶会 2

文字数 1,584文字

 菓子を手に取りつつ、サクヤが話を続ける。
「まぁ、個人的に何が凄いって、リアタイ認証してることなんだけどさ」
「そうなの?」
 解析不能者である上に、解析の知識もあまりないヒナにはわからないが、サクヤは真顔で頷いた。
「この端末は、解析ができる人ならある程度自由なアクセス可能なのね。まして解析士となったら、人によっては遠距離から操作したりとかも可能なの。ただそれをする時にはどうしても自分に一定の負荷がかかるから、解析士だって基本的にリアタイ認証なんてせずに、私のやつみたいに端末の中に上限を用意するのがほとんどなのよ」
「大変、ってこと?」
「いつ何をしてても、突然に認証のための情報が流れこんでくるし、それをすぐに処理して返さないといけないの。でもヒナもさっきの処理、見たでしょ? 一瞬だった」
「うん」
「さすがケセド様だよ。あんなの、普通絶対無理。うちのお父さんだって用意してても数分かかると思う」
「そうなんだ」
 解析自体できないヒナには実感がわきにくいが、真剣に話すサクヤの様子からそれが本当にすごいことなんだろうということはわかる。しかもサクヤの父は上級解析士だと言っていた。そんな人すら難しいなら、きっととてもすごいことなのだろう。
 話に集中しすぎて手が動いていないヒナに、サクヤが菓子を勧める。
「あ、ヒナ食べなよ。美味しいよ?」
「うん。食べる」
 会話内容に気が向いてしまって、食べるのを忘れていた。
 皿から菓子を一個手にとってパクリと口にするヒナを確認したサクヤが、同じく手を伸ばして別の菓子をとると口に運ぶ。そのまましばらく二人で黙々と菓子と飲み物を食べ進め、皿の上から菓子が全部なくなった頃にまたサクヤが口を開いた。
「この店を選んだのはね、ケセド様の名前が出るような会話、誰が聞くかもわかんないような街中で出来ないだろうって思ったからだよ」
「偉い人だから?」
「まぁね。この街で知らない人はいない名前だし、単なる噂話で名前を出すならいいけど、生々しい会話は多分すべきじゃないんだよ。さっきの通信で私に名前を教えてくれたのは、私がバーシャの娘だったからだと思うし」
「そういえばサクヤのお父さんを知ってるっぽかったね」
 サクヤの名乗りにすぐ反応していたのを思い出すと、サクヤは困ったように笑う。
「あの方と比べちゃうとアレなんだけど、うちのお父さんも一応上級解析士で、この街ではそれなりに偉い人だからね。その影響で、私も普通の子よりは多少だけど、その辺詳しいから」
「そうだね。いろいろ教えてくれて助かる」
 本当に会えて良かった、こうやって話しできる機会があって良かったと思う。わからないままのことも多いけれど、同じ年頃なせいかサクヤの話はヒナにとても伝わりやすかったし、自分がどういう状態なのかをサクヤのお陰でかなり知ることができた。
「という訳でね、今後は、ケセド様の名前は出さないように喋るからね。特に学校とか、知られない方がいいと思うし。一応今日帰ったらお父さんにも確認してみるけど、多分そうした方がいいって言われる思う」
「わかった。ごめんね、なんか」
「いーのいーの。私が今後もヒナと友達したいからそうするだけだし。あ、あの方関係なしによ?」
 あっさりとそう言われて逆にヒナは申し訳なくなる。自分なんかがそんなに気を使われるほど、友人になりたいと思ってもらえるほど価値があるとは思えない。むしろおじさん関係で仲良くなりたい、と言われる方がよほど説得力があるのだけど、そこを疑うのは失礼なように思えた。
 友人付き合いの経験はあまりないけれど、自分がされたくないことを他人にすべきではない、ということ位わかる。
 こんな風に気を使ってもらったり、お茶に誘ってもらったり、教えてもらったり出来るだけでサクヤには感謝しかないのだから、その言葉はそのまま受け取ろう、と思った。
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