学校帰りの遭遇 2
文字数 1,746文字
まずは、サクヤがいつも服を買って貰っている店に行こうということで二人して街を歩き出した時。
遠くで何かがはじけるような大きな音がした。
それにびくっと身を震わせたヒナの手をサクヤが握る。
周囲の空気を震わせるように耳へ届いたその音は、何も知らず不意打ちで聞こえた打ち上げ花火のようだった。ただ、今はまだ昼間……突然そんな音がする理由がわからない。普通に生活をしていて発生するような音には聞こえなかった。
「何? 今の」
「んー。どっかで何か事件でも起こってんのかも。そりゃイデーラは治安いい方だけどさ、大都市は良くも悪くも色んな人が集まるし、その分田舎の方みたいにいつものどか、ってわけにはいかないからね」
「そ、そうなの」
自己紹介の時に同じ教室の生徒が言っていた通り、ダーラから見れば後進国に当たるカイゼルハイト。
そのさらに田舎の都市に住んでいたヒナにとっては、酔っ払いの喧嘩とかどこかの夫婦の喧嘩とか、日常にそういう多少の喧騒はあっても、大事件というのは滅多に起こらない、身近にないものだ。例えば殺人とか強盗とか麻薬だとか、そういうとても怖い犯罪は滅多に聞かなかった。
せいぜい空き巣が発生したとかそんな話がたまに出るだけで、仮にこんな音が突然街中に響けばそれだけで大事件になってしまうような場所だ。
けれどサクヤの顔を見る限り、この程度は珍しいものでないのは本当のようで、つまり自分も今後ここに住む上ではこういうことに慣れていかなければならないのだなとヒナは思う。
「まぁ、気をつけてればそんなに危ないことはないから大丈夫だよ。街中には警備隊とかもいるわけだし」
「うん」
ヒナを気遣ってくれる言葉に頷いて、止まっていた足を前に出して歩き出す。
その時。
視界が急に暗くなったのに気づいて、雲で空が陰ったのだろうかとなんとなくヒナは上を見上げる。
そこに輝き広がる巨大な図式のような何かに、絶句した。
おそらくそれは解析の何かなのだろうが、空を覆い尽くすような巨大な規模の解析など見たことがない。一見平面のように見えて、よく見れば複数の層が重なり合って立体的に図式は空に広がっていた。
また足を止めたヒナに合わせて足を止め、そして上を見たまま固まったヒナに合わせて同じ方向に視線を向けたサクヤも、その先に同じものを見つけて、驚愕する。
「何、あれ……解析だけど、あんな規模、普通じゃないよ」
「あれは普通じゃない、んだね」
もしやこれも普通かも、と思ったけれど、違ったらしい。
「もちろん。解析塔が何かする時には事前に街中に通告があるし、そもそも解析塔はあんな街を巻き込むような規模の解析はまずしない。仮にあんなのが見えたとして、それは」
空を見たまま独り言のように話していたサクヤがハッとして、教室から連れ出した時よりも強い力でヒナの手を引いた。
いきなりまた走り出した友人に素直についていきながらヒナは尋ねる。
「ど、どうし、たのっ? どこに」
「私の家! ここからなら一番近いし、安全に近いと思うからっ」
「安全、って」
「私の考え過ぎならいいけど! あれは異常! もしかしたら事件か、テロか何かかもっ」
「え」
事件……テロ。
片方は聞きなれない言葉だけど、その意味は知っている。国とかそういう大きな何かに抵抗する小規模な組織が行う行為。主には攻撃的な何かを指して言われる。カイゼルハイトでは起こったことはないが、隣国は政治が不安定でよく発生していたので噂話などで聞きなれていた。
が、身近とは言い難いものだ。
「ダーラって、そういうのあるの!?」
「滅多にないよ! イデーラでは私が生まれる前に起こったのが最後、だけど、可能性はないわけじゃ」
走る二人の周りにいる街の住人たちも、各々が空の異変に気付いて動揺しているのが見える。中にはサクヤのように家に戻ろうとしている人も多い。さっきまで平和だった街の中は急激に不穏な雰囲気になり始めている。
それぞれが、身を守るための行動を始めていた。
明らかに、普通でない何かが起こっている。
「でも、いきなりイデーラを狙うような、そんなのは」
走りながらサクヤが話しているその途中。
二人の頭上がまばゆく光って。
それを見上げる間もなく、何かが二人の上に降った。
遠くで何かがはじけるような大きな音がした。
それにびくっと身を震わせたヒナの手をサクヤが握る。
周囲の空気を震わせるように耳へ届いたその音は、何も知らず不意打ちで聞こえた打ち上げ花火のようだった。ただ、今はまだ昼間……突然そんな音がする理由がわからない。普通に生活をしていて発生するような音には聞こえなかった。
「何? 今の」
「んー。どっかで何か事件でも起こってんのかも。そりゃイデーラは治安いい方だけどさ、大都市は良くも悪くも色んな人が集まるし、その分田舎の方みたいにいつものどか、ってわけにはいかないからね」
「そ、そうなの」
自己紹介の時に同じ教室の生徒が言っていた通り、ダーラから見れば後進国に当たるカイゼルハイト。
そのさらに田舎の都市に住んでいたヒナにとっては、酔っ払いの喧嘩とかどこかの夫婦の喧嘩とか、日常にそういう多少の喧騒はあっても、大事件というのは滅多に起こらない、身近にないものだ。例えば殺人とか強盗とか麻薬だとか、そういうとても怖い犯罪は滅多に聞かなかった。
せいぜい空き巣が発生したとかそんな話がたまに出るだけで、仮にこんな音が突然街中に響けばそれだけで大事件になってしまうような場所だ。
けれどサクヤの顔を見る限り、この程度は珍しいものでないのは本当のようで、つまり自分も今後ここに住む上ではこういうことに慣れていかなければならないのだなとヒナは思う。
「まぁ、気をつけてればそんなに危ないことはないから大丈夫だよ。街中には警備隊とかもいるわけだし」
「うん」
ヒナを気遣ってくれる言葉に頷いて、止まっていた足を前に出して歩き出す。
その時。
視界が急に暗くなったのに気づいて、雲で空が陰ったのだろうかとなんとなくヒナは上を見上げる。
そこに輝き広がる巨大な図式のような何かに、絶句した。
おそらくそれは解析の何かなのだろうが、空を覆い尽くすような巨大な規模の解析など見たことがない。一見平面のように見えて、よく見れば複数の層が重なり合って立体的に図式は空に広がっていた。
また足を止めたヒナに合わせて足を止め、そして上を見たまま固まったヒナに合わせて同じ方向に視線を向けたサクヤも、その先に同じものを見つけて、驚愕する。
「何、あれ……解析だけど、あんな規模、普通じゃないよ」
「あれは普通じゃない、んだね」
もしやこれも普通かも、と思ったけれど、違ったらしい。
「もちろん。解析塔が何かする時には事前に街中に通告があるし、そもそも解析塔はあんな街を巻き込むような規模の解析はまずしない。仮にあんなのが見えたとして、それは」
空を見たまま独り言のように話していたサクヤがハッとして、教室から連れ出した時よりも強い力でヒナの手を引いた。
いきなりまた走り出した友人に素直についていきながらヒナは尋ねる。
「ど、どうし、たのっ? どこに」
「私の家! ここからなら一番近いし、安全に近いと思うからっ」
「安全、って」
「私の考え過ぎならいいけど! あれは異常! もしかしたら事件か、テロか何かかもっ」
「え」
事件……テロ。
片方は聞きなれない言葉だけど、その意味は知っている。国とかそういう大きな何かに抵抗する小規模な組織が行う行為。主には攻撃的な何かを指して言われる。カイゼルハイトでは起こったことはないが、隣国は政治が不安定でよく発生していたので噂話などで聞きなれていた。
が、身近とは言い難いものだ。
「ダーラって、そういうのあるの!?」
「滅多にないよ! イデーラでは私が生まれる前に起こったのが最後、だけど、可能性はないわけじゃ」
走る二人の周りにいる街の住人たちも、各々が空の異変に気付いて動揺しているのが見える。中にはサクヤのように家に戻ろうとしている人も多い。さっきまで平和だった街の中は急激に不穏な雰囲気になり始めている。
それぞれが、身を守るための行動を始めていた。
明らかに、普通でない何かが起こっている。
「でも、いきなりイデーラを狙うような、そんなのは」
走りながらサクヤが話しているその途中。
二人の頭上がまばゆく光って。
それを見上げる間もなく、何かが二人の上に降った。