昼食の乱入者 2

文字数 1,752文字

 席が決まってさぁ食べようとなった時。
 ヒナの座っていた席の左側がガタッと音を立てる。元から空いていた席だが混み合う昼の時間なのですぐ埋まるのは不思議ではない、誰か来たのだろうかとちらっと隣を見たヒナはぎくっと身を硬くする。向かいにいるサクヤは呆れた顔だ。
 濃い茶の髪を一つに縛った少女が笑って立っていた。
「ここいいかしら? いいわよね? 空いてるもんね? 座るー」
「なんという強引さ……」
 一応確認をとってるように見えて全く有無を言わせる気のない態度の少女に、サクヤがぼそっと呟いた言葉にはヒナも同意するしかない。
 さっき会計でヒナの端末を凝視してきたあの少女だ。
 隣に座った後、翡翠のような綺麗な翠の目をギラギラとさせてヒナを見ている。
「あなたたち見ない顔よね。入ったばかりかな?」
「今日1学年に入学しました。あなたは」
「私は4学年にいるソート。後輩ちゃんってわけね、よろしくー」
 どうやらそれなりに年上らしい。見た目だけならソートはそこまで上には見えないが。
 5年制の学園では、ほぼ年齢で入る学年が決定される。
 入学前には学科試験もあるらしいが、今回ヒナはそれを受けずに入っていたのでよくわからない。同じく入ったサクヤの方がどういう風に入ったのかはまだヒナは知らなかった。
 自己紹介されてどうしよう、とサクヤを見たヒナに、友人はひらっと手を振って口を開く。こんな相手に対して、自分ではおかしなことを言いそうで怖くて喋れない。
「私はサクヤ、その子はヒナです。てか先輩がよろしくしたいのは私たちじゃなくてヒナの持ってる端末でしょ」
「や〜、それは否定しきれないけど、あなたたちのことも気になってるわよ? 特にこのヒナちゃんの方ね」
 サクヤの言葉にソートがちら、とヒナを見た。
 その目が明らかに何か含んでいるようで、なんとなく居心地が悪い。
「あ、食べながら話しましょ。私もお腹空いてるんだよねー。いただきます」
「はぁ」
 だがソートの方は平然と食事を始め、ヒナはサクヤと視線を合わせたけれど結局同じように食事を始めた。お腹が減っているのは同じだからだ。
 しばらく三人黙々と食べ続け、皿の中の食事が半分は減った頃。
「いやね、さっき会計のとこでさぁ、気になったからヒナちゃんにちょーっとスキャンかけたのねぇ?」
 突然のソートの言葉にサクヤが咳き込むが、ヒナは意味が分からない。
 だがサクヤの方はそうではなかったようだ。そして普段ならわからないという顔をしているヒナを見て説明をしてくれるだろうに、今はそれどころでもないらしい。
 ばん、と大きな音を立てて机を叩いた。
「何やってるんですかーっ!! 下手すると犯罪ですよっ!?」
「いやぁ、気になったらついやる癖があってさ。出来心?」
「出来心だろうがなんだろうが、やっていいことと悪いことがありますよ!」
「その点に関しては全面的に申し訳ないと思うわ。で、問題はそれが防がれたことなんだけど」
「セキュリティじゃないですかそんなん」
 見るからに不機嫌な顔をしてサクヤが言うのに、ソートが皿を空にしながら笑う。
「現在流通してて主に個人で使われているセキュリティは全部、侵入感知してからの迎撃防衛なのね。当たり前だけど常時運用・安定稼働させる上でそれが一番安全確実で、何より解析が組みやすいから。なのにさっき私はヒナちゃんに侵入しようとした瞬間に弾かれた。侵入前に、触れた瞬間、逆に私の組んだ解析自体が崩壊させられた。何言いたいか、1年生でもわかるわよねぇ?」
「…………そーいうセキュリティなんですよ」
 少し青ざめたサクヤは何かわかっているようだが、ヒナには全くわからない。
 ただ、ここで自分が下手に口を挟まない方が良さそうだというのだけは何となく勘で理解して、食事に集中しているふりをしつつ、自分の皿の中の残りをゆっくり減らすことに注力する。
「端末といいそれといい、興味持つなって方が無理? 私将来は機器関係専門の解析士になりたいと思ってるし」
「仮にヒナに何かあったとして、それをヒナが誰にでも言っていいとは限らないです」
「そーね。むしろ何かあったらそれは明らかに言っちゃいけない部類なんだろうなってのは予想つくわ」
 硬い声でサクヤが言うと、ソートが楽しそうにそれを肯定した。
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