第四章-9

文字数 799文字

       9

 それから桐畑たちは、以前にも増して全力で練習に取り組んだ。
 ハンドボール練習の開始から八日目は、決勝戦の前日だった。桐畑たちは、一つのゴールを用いて、四対四を行なっていた。
 攻撃側は左から遥香、ブラム、桐畑、エドで、守備側には、レギュラー・メンバーの守備陣から二人ずつが入っていた。
 遥香がボールを保持する。他の三人は、周囲を確認しながら緩やかに動いている。
 遥香は、中央のブラムにパスを出した。桐畑は守備の間へと侵入し、「縦!」とボールを要求する。
 トラップをしたブラムは、桐畑へとグラウンダーのパス。ぴたりと止めた桐畑は、顔を上げた。
 右側の五mほどの場所にいるエドが視界に入った。ダイレクトで速いボールを出し、自らは前へと走り込む。
 桐畑は、左へ一歩大きく踏み込んだ。ディフェンスの重心が傾いたのを見て、右へと加速。後ろを向いたままパスを受け、守備を二人引き付ける。
 中に目を遣り、左足の外側でちょんとボールを突いた。ディフェンスの股を抜き、フリーになったブラムにボールが渡る。
 ブラムが右足を振り抜いた。高速シュートがゴールの左隅に決まる。
「攻撃陣、ナイス・プレーだ。この完成度なら、間違いなくウェブスター校にも通用する。実際は、さらに外側に二人のフォワードがいる。明日の試合では、もう一段、視野を広げるように」
 攻撃側の近くにいたダンが、鋭い声を発した。ダンの背後では、もう一つのゴールを使って同様の練習が行われている。
(よーしよし。良い感じだ。さっきの流れを完全にできりゃあ、さすがのギディオンもきりきり舞いだな。
 なんか決勝が、楽しみになってきたぜ。って俺、緊張感がなさ過ぎだな。明日の試合には、俺らの運命が懸かってるってのに)
 桐畑は、息を整えながら気持ちを高ぶらせていた。すると、「本日の練習は、ここまでだ。整理体操を終えたら、集合しろ」とダンが声を張り上げた。
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