第三章-9

文字数 998文字

       9

 ウォーミング・アップとダンの話が終わり、選手たちは各々のポジションに収まった。
 ホワイトフォードは、イートン校戦と変わらず1―3―6だった。フォワードの真ん中の四人に、遥香、ブラム、桐畑、エドの順で左から入っている点も、同じだった。
 ポルトガル代表は、2―3―5を採用しており、マルセロは左ウイング(フォワードの最も左の選手)だった。
 甲高い笛の音で、試合開始。数回のパスを経て、マルセロにボールが渡る。
 左足の裏でボールを保持するマルセロは、エドの方向に半身になった。すぐさま大きな手でメガホンを作り、口元へと当てる。
「エドー! 今から俺のドリブルで、おめえの度肝を抜いてやるー! 瞬きすら惜しんで、刮目して見とけやー!」
 大音声がコート中に鳴り響いた。隙を感じたホワイトフォードの4番が、ボールを奪取すべく素早く右足を出す。
 しかしマルセロは、突如身体を前に向けた。同時にボールを浮かし、驚異的な加速を始める。
 あっさり4番が抜かれて、2番がフォローに回る。マルセロは、勢いをそのままに右へとボールをずらした。切れのある動きに2番は追随できない。
 マルセロは、筋肉の塊の右足を振り抜いた。低弾道で飛んだボールはキーパーの正面。
(確かにドリブルはすげえ。そこは認めざるを得ねえよ。だが、シュートに関しちゃただのパワー馬鹿だな。こりゃあちょっと、光が見えてきたんじゃね?)
 桐畑は、一瞬胸を撫で下ろした。しかし即座に驚愕する羽目になる。
 マルセロが蹴ったシュートは、回転がなかった。キーパーの直前で、ボールはふっと揺れて落下する。
 なんとかキーパーは腿に当てて、ボールは前方へと転がる。敵のフォワードが詰めるが、キーパーが倒れ込んで押さえた。
(本田をホーフツとさせる無回転シュート! っていうか、この時代のやつも撃てんのかよ!)
「すっげー! 何、今のグラグラ・シュートー! おっさんになっても、相っ変わらずすかしてんなー、マルセロー!」
 桐畑が驚愕する一方で、元気が百%の声音でエドが叫んだ。耳を塞ぎたくなるほどの、音量だった。
「おっさんでもすかしてもねえけど、俺の凄さがわかったようだなー! 今日のおめーは、俺のワンマン・ショーの一観客に過ぎねえんだー! そこんとこ、よーく肝に銘じとけー!」
 マルセロは、ただちに反論した。声の大きさや気迫は、エドに負けず劣らずのものだった。
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