第二章-9

文字数 1,119文字

       9

 前半三十五分、失点こそないものの、ホワイトフォードは押し込まれていた。2番の迫力に気圧されて守備陣が平静さを失った結果、前へのパスの精度も落ちていた。
 縦に浮き球が出た。エドが追うが、ピピッ、オフサイドを示す笛が鳴った。
 2番が前に出てからホワイトフォードは、エドを中心にオフサイドに掛かりがちだった。現在の唯一のディフェンスである敵の17番は、一人のほうがやり易い様子だった。
 17番は、全力のダッシュでボールを拾った。すばやく地面にセットし、大きく蹴り出す。
 中盤が省略され、最前線で張った2番へとボールは向かう。
 胸で止めた2番は、右肩で左へと落とした。後ろから走り込んでいた8番が、ふわっとしたパスを出す。
 斜め四十五度のボールが、キーパーと味方の3番の間へと飛んだ。3番はヘディングをすべく、必死で追い掛ける。
 だが、ボールだけに注意が向いており、自分が行くと声を出しつつ近づくキーパーに気付かない。
 ボールが落ちる前に、3番とキーパーは衝突した。二人が縺れて転ぶ一方で、敵の2番が猛然と追う。
 ちょんとドリブルした2番は、足の内側で狙い澄ましたキック。ゴールへと転がるボールをハーフ・バックが掻き出そうとするが、スライディングは届かない。一対一。
「ディフェンスー! 声を掛け合って、コミュニケーションを取ってかねーと! ちぐはぐのコンビネーションで、どうにかなる相手じゃないっすよ!」
 苛立っていると取られないよう、桐畑は、めいっぱい抑えた声音で叫んだ。しかし、俯く守備の選手たちからは返答が来ない。
 ボールがセンターに戻されて、ホワイトフォードのボールで試合再開。ゆっくりとパスを回し、右のタッチ・ラインの近くにいるエドに、ボールが収まった。
 フォーメーションでエドの右に位置するフォワードが、エドを外から追い越してラインの上を走る。エドに詰める敵の6番が、わずかに視線を切った。
 その瞬間エドは、右インサイド、左インサイドのダブル・タッチ。高速でボールを前に出して、6番を置き去りにする。
 フォローが来る前に、エドはゴール前へとキックを放った。ボールはキーパーへと飛んでいき、駆け寄った遥香が片足で跳躍する。
 ボールが来る前に、遥香は敵のキーパーと競り合った。ヘディングで合わせてのシュートというより、キーパーを潰す意志を桐畑は感じた。
 体格の良いキーパーは意にも介さず、ボールを頭上に上げた両手で確保した。
 ぐんと加速し、遥香は足から地面に落ちた。受け身も取れずに、後ろ向きになすすべもなく転倒する。
 着地後すぐ、キーパーは大きく前へと蹴り込んだ。しかし、ほぼ同時にホイッスルが鳴る。前半の終了だった。
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