第四章-7

文字数 573文字

       7

 校門でのダンの話は、決勝は厳しい試合になるが懸命に戦って勝利を収めよう、という内容だった。口振りは普段と同様の、平静なものだった。
 ウェブスター校を後にした桐畑たちは、ピーダーバラ駅へと向かった。帰りの経路は、行きと同じだった。
 機関車がキングス・クロス駅に着いた。駅には多くの人がおり、自由には進めないほど混雑している。
 桐畑は、決勝戦に思いを巡らせていた。すぐ前にはブラムが、二つ前には遥香がいた。
 遥香の右方から、燕尾服姿の中年の大男が雑踏を掻き分けて歩いてきた。急いでいるのか、足取りは速かった。
 男が、遥香の右斜め前まで到達した。次の瞬間、男は高く足を上げた。勢いを付けて、前へと踏み込む。
 遥香がとっさに右足を引き、男の足は空振りに終わった。わずかに遥香たちに視線をくれた男は、早足で歩き去っていく。
「アルマ! 踏まれなかったか?」
 切羽詰まった調子で、ブラムが尋ねた。
 遥香は「大丈夫。心配してくれてありがとう」と、繊細な声音で返事をした。
(さっきの奴の歩き方は、どっからどう見ても変だ。踏まれてたら、怪我をしてた可能性は高いわな。
 決勝戦の相手校に行った帰りに、選手が怪我をしそうになる、か。偶然で片付けられなくもないけど、まー不自然だよなぁ)
 ブラムが遥香に心配そうな声を掛け続ける中、桐畑は考えに沈んでいた。
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