第三章-16

文字数 694文字

       16

 後半は、ホワイトフォードのキック・オフだった。
 笛の音と同時に、エドが全速力で走り始めた。歩幅の大きな伸びやかな走りには、一点の迷いも感じられない。
 ボールは、右ハーフ・バックの4番に下げられた。4番は顔を上げて、前方のエドに浮き玉を蹴り込む。
 エドは背後からのパスを、ふわっと足元に収めた。すかさず敵の3番が詰める。
 エドのさらに外側を、7番が上がっていた。エドは、7番が平行の位置に来た瞬間に、左足のインサイドで転がす。
(頭はクールで、心はホット。理想的な精神状態じゃんかよ。マルセロよ、一瞬たりとも気は抜けねえぜ。今のエドは、お前に追随するからよ)
 密かに高揚する桐畑の口は、自然と綻ぶ。
 7番は少し溜めてから、エドに戻した。再び、エドと3番が対峙する。
 エドはふっと脱力し、棒立ちになった。そのままゆっくりと前方を見回す。
 唐突にボールを前に転がしたエドは、ダッシュを始めた。ドンッ! と、音がするような勢いだった。
 ポルトガルのコートの深くまで達したボールを、エドと3番が追う。超スピードの二人の戦いには、別次元の迫力があった。
 ゴール・ラインのぎりぎりで、エドが中へと蹴り込んだ。しかし3番はスライディング。ボールは、コート外へと跳ねて行く。
 エドは、一瞬の躊躇もなくボールを追った。地面に押さえて、ホワイトフォードがキック・インを得る。
「エドー! 良いテンポ、良いテンポ! もう一工夫を加えて、さらに変化を付けて行きましょー!」
 逆サイドの遥香から快活な声が飛んだ。他の選手からも声援が続く。
 ボールを地面に置いたエドは、野望を感じさせる笑みを浮かべた。
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