終章-4

文字数 950文字

       4

 試合開始後、俺たちエステラは光泉を思いっきり攻めたけど、パスミスで光泉ボールになった。ディフェンスで何回かパスが回ってから、ボールは中盤の右のポジションの最強の宿敵、遊馬に渡る。
「慶くーん、焦って飛び込んじゃあダメだよー。粘って粘って粘るんだー。そうすりゃあなーんか道は見つかるからさー」
「わかってるってー。俺がぜってー突破口開いてやっから、由衣香はまあ見てなってーの」
 いっつも通りの由衣香の元気声に、俺は高らかに勝利宣言してやった。正直ちょっと遊馬にはビビってるけど、態度に出したらやられちゃう。だから必殺空元気。これしかないっしょ。
 気合い百パーな俺は、遊馬の全身を眺め回した。遊馬は俺より背が小さく、腕とか脚もどっちかというと細い。髪型は坊ちゃん狩りで、顔はなんか子供っぽかった。
(こんなほっそい身体で光泉のエースやってんのかよ。スポーツ選手っぽくねえぜ。油断大敵火がボウボウだけど、こいつならどうにかなんじゃないの?)
 俺が不思議に思っていると、遊馬はちょんと、俺に渡すかのようにボールを前に出した。
(? なんかわからんけどラッキー!)
 俺はソッコーで反応し、左足を前に出してボールを奪おうとする。
 だけど遊馬は、すっと右足の裏でボールを引いた。そのまま、右、左のダブル・タッチで逆に出す。
(ちょっと待て、速すぎ……)
 スライディングが不発に終わって、転けたまんまの俺は何もできない。
 すぐに立って後ろを見ると、遊馬がもう二人目を抜いていた。由衣香が慌てた感じで、フォローに回っている。
 でも遊馬は全然気にしてないっぽい。ぬるぬる細かく足下でボールを動かして、由衣香をめちゃくちゃホンロー(翻弄)している。
 由衣香が左足を出した。うん、いいタイミング。さすがは由衣香、我が双子の姉、取れるコースだ。
 と思ったけど、遊馬はカンペキだった。トー(踵)でちょんっと由衣香の股を抜き、ゴールに向かってドリブルを続ける。
 そのままぬるっとキーパーまで抜き去って、遊馬はゴールを決めた。マスコミのおっちゃんおばちゃんたちが、パシャパシャ写真を撮りまくる。
(あいつヤバすぎ。神様? ペレ? どうする俺? どうやったらあれに勝てる?)
 俺の頭はパニックだらけで、冗談抜きで超ピンチだった。
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