終章-7

文字数 884文字

       7

 光泉のキック・オフで後半が始まった。ボールはやっぱり、遊馬に回った。光泉の奴ら、遊馬を完全にセーシンテキシチュー(精神的支柱)にしてるね。悔しいけどそれだけの力は持ってる。
 あたしはすばやく遊馬に寄せた。遊馬はちょっと顔を上げて、きょろきょろと周りを確認し始めた。
 隙だらけっぽいけど、焦って足でも出そうもんなら細かいタッチですぅっと抜かれるってわかってる。前半で嫌というほど味わってきたからね。
 中腰で警戒してると、遊馬は左足を踏み込んだ。
(パス? やらせないよっ)
 あたしがぴくっと反応すると、遊馬は寸前で右足を止めて、右、左で切り返した。
(くっ! クライフ・ターン!)
 一歩出遅れて、遊馬はスピードに乗り始めた。せめてコースを限定しようと、あたしは必死でついていく。
 さっと慶太がカバーに来た。遊馬は足裏でボールを引いた。かと思ったらすぐに同方向に加速。ストップ&ゴー。そんなんもできるの?
 慶太がどうにか遊馬を追うけど、遊馬は左でシュート。
 あたしは構わず、トップ・スピードで慶太の後ろを駆け抜けた。そのままお父さんに教わって最近けっこーうまくなった、スライディング・タックル。
 足に掠って、遊馬のシュートはコースが逸れた。うちのディフェンスが外にクリア。いわゆる事なきを得たってやつだ。
「サンキュー由衣香。助かった。でも次は一人で絶対勝つ!」
「大きく出たね、慶ちゃん! でも残念! 遊馬に勝つのはあくまであたし! このあたしだから!」
 いつも通りのハイ・テンションで、あたしと慶ちゃんは互いをコブ(鼓舞)した。二人の間で、あっつい何かが満ちてくる。
 吠え終わった慶ちゃんは、ぐるりと遊馬のほうを向いた。あたしも少し遅れて遊馬を睨む。遊馬は全然気にしてないみたいで、きょとんって風な顔をしていた。
(あんなにすっごいプレーをしてて、ヘーゼン(平然)としてるんだ。何だか天才って感じだよね。だがしかーし、努力の凡人は天才をもリョーガするのだ! 今からとくとご覧に入れよう)
 気持ちをちょーぜつに高めたあたしは、遊馬をマークすべくダッシュし始めた。
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