第四章-16

文字数 913文字

       16

 前半十五分、試合はまだ動いていなかった。しかし、ペースはウェブスターが握っていた。
 ホワイトフォードがギディオンに封殺される一方、ウェブスターは、ヴィクターが起点の攻撃によって、幾度となくゴールを脅かしていた。
 ヴィクターは、後ろからのパスを受けて身体を反転させた。すぐさまゴールに向かってドリブルを始める。
 ホワイトフォードの5番が進路に立った。ヴィクターは、ちょんっと右斜め前に進路を変更。鋭く右足を振りかぶった。
 とっさに5番は、妨害すべく左足を浮かせた。だがヴィクターはモーションを急停止。右足の内側で、ボールを身体の後ろを通した。
 コースが開いた。ヴィクター、左足のイン・ステップ(甲の根元)でシュート。地を這うような速いボールがゴールの右端へ向かう。
 飛び込んだキーパーが、両手を出した。当たって前に落ちたボールをすばやく確保する。
(クライフ・ターン風のキック・フェイントからの、狙い澄ました低弾道シュート。どこどこまでも、滑らかな動きだ。「ウイイレ出身の選手ですか」っつって、くだらない質問すらしたくなるぜ)
 感服しつつも桐畑は、キーパーに手を挙げた。桐畑に顔を向けたキーパーは、パント・キックをする。
 飛来した低めのボールを、桐畑は腿で前を向いて止めた。すぐにゆっくりとパス・コースを探す。
 五mほど前に、13番を背負ったブラムがいた。桐畑は、インサイドで速いパスを送る。
 しかし桐畑が蹴る直前に、ギディオンが13番に叫んだ。13番はすっと前に出て、桐畑のパスの瞬間にオフサイドを示す笛が鳴る。
「ワン・テンポ遅いよ。さっきのタイミングじゃ、敵も判断に時間が掛けられる。普段のプレーより、気持ち早めを意識していこう」
 桐畑に澄んだ瞳を向けるブラムは、実直な声色で呼び掛けた。
「アドバイス、サンキュ。指摘の通りに、改善してくわ」桐畑は、冷静さを意識して返答した。
(ハンドボール流も、どうも縦パスがオフサイドに掛かるぜ。もっともっと頭をフル回転してかねえと、先制点は海の彼方、だな)
 反省した桐畑は、ふーっと長く息を吐いて気持ちを整えた。敵の攻撃に備えるべく、バック・ステップで自陣に引いていく。
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