第四章-21

文字数 992文字

       21

 五分が経過したが、試合は動かない。
 遥香は、ヴィクターとのスピード、パワーの差を先読みなどで埋めていた。しかし、ヴィクターに上を行かれる場面も、なくはなかった。
 桐畑の見立てでは、四対六でヴィクターが上回っていた。ただ、敵のエースに完璧な仕事はさせていない点では、遥香のプレーは充分に及第点だった。
 ホワイトフォードのフルバックからのボールが、センター・サークル上の遥香に向かう。背後ではヴィクターが、虎視眈々と奪取を狙っていた。
 遥香は、ツー・タッチで真左の六番へと出した。
 六番、遥香、四番と、ホワイトフォードはゆるゆると横パスを回す。その間も、フォワードの桐畑たちは、細かな動きを入れて敵を撹乱する。
 遥香は、大きな動作で四番へと走り込んだ。ヴィクターが、ほとんど遅れずに従いていく。
 四番からパスが出た。到達の直前で、遥香は急停止。ボールの勢いを殺さずに、右足の内側で左足の後ろを通す。
 トリッキーな縦パスだった。反応したヴィクターは、足を伸ばした。だがぎりぎり届かない。
 ボールは、前線で張る桐畑へと転がった。背後からは、岩石のような体躯のギディオンが、凄い圧力を掛けてくる。
 寄り掛かってギディオンを押さえる桐畑は、隣のブラムにダイレクトで渡した。すぐさま体勢を戻して、ブラムからのリターンを右めにトラップする。
(来た! 完全無欠のハンドボール・パスからの、俺の十八番の形! ギディオンをぶち抜いて、先制点は頂きだ!)
 一瞬で思考した桐畑は、大袈裟に左に踏み込んだ。さも右足で、ギディオンの右を突破する素振りを見せながら。
 ギディオンの身体が、ぴくりと右に微動した。見届けた桐畑は、右足のアウトでギディオンの左にボールを出す。
 だが、ギディオンは機敏に反応。桐畑と並走し、肩と肩とをぶつけあう。
 二人はそのまま、ペナルティー・エリアに入った。四回目の衝突で、桐畑はとうとう吹き飛ばされる。
 左に持ち出したギディオンは前を向き、どでかいキックを放った。
(全身全霊、最得意のフェイントまで楽々、ストップかよ。いよいよ手詰まり感が出てきたぜ。意地でも勝ちたい。勝ちたいけど、一体全体、何をどうすりゃ良いってんだ?)
 桐畑が焦燥を深める一方で、攻め上がったヴィクターにボールが飛んでいく。あまりにも綺麗なアウトサイド・トラップとともに、ヴィクターは前を向いた。
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